新生活

「えー、ではここで新たな転入生を紹介したいと思います。」

喋っているのは教頭先生だ。

ここは紅葉こうよう高校。

4月某日、天気はくもり。

僕は転入生として、全校生徒の前で

スピーチをすることになった。

あ、僕じゃない、俺だ。

緊張するんじゃない。

いつも転入生を見て、なんでこんな見世物みたいなことをするのだろうと思っていたが、

まさか自分が見世物になるとは思っていなかった。

教頭先生の言葉を発端に辺りがざわつく。

「どんな人かな!」

「俺可愛い女の子がいい」

「お前には振り向かねえから安心しろ」

「うるせえっ」

聞こえた声は小さかったが耳がいたい。

ごめん、可愛い女の子じゃなくて。

「では登壇してください。」

「…ぁ、はい」

教頭先生に言われ全校生徒の前へ向かう。

俺はまだ緊張していた。

なぜならこれで俺の新しい学校生活が決まってしまうからだ。

「えー、し、志翠しすい高校から来ました、都凪 晴と言います。この学校では、皆さんと仲良く勉学に励み…」

無難なことを言って終わらせようと思った。

けれど、友達ができなかったらどうしようとか陰キャだと思われるとかいう思考が先行した。

どうしてもそんな生活は嫌だった。

ふと最前列を見ると、ある男の子がいた。

「これからよろしくお願いします」

と自己紹介を終えたあと、咄嗟に

「あ、そこの人。ズボンのチャック、開いてますよ。」

とマイクの前で言ってしまった。

やってしまったと思った。

けれど、体育館は笑いに包まれ、幸い僕は多くの人から面白い人という印象を勝ち得た。

「おほんっ、んーんー。」

とはいえ教頭先生の機嫌が少し悪い。

苦笑いするしかなかった。

あいにくのくもりで少し気分の落ち込みそうな朝の天気だったが、始業式の終わる頃には、透き通るような青が広がっていた。

転入生というのは注目される分、

前に出た一度で面白くないと判断されると、

話しづらいやつとか暗いやつとかそういうイメージがついてしまう。

こうして僕の転入初日は

とてつもない好スタートとなった。

今学期一番恐ろしいイベントはなんとか無事終わった。

と思われた。


--------------


「えーでは改めて登場していただきまーす

我がクラスに来た転校生でーすどうぞー」

おいおいおいっやめろっ!やめるんだ!

変なハードルの上げ方をしないでくれ!!

と思いながらドアを恐る恐る開ける。

ガラガラガラ…


「Foooooooo!!!」

「いぇーーーーーい!」


いや、うるさいうるさい

鳴り止まない拍手、怖い。

「えーみなさーん静かにー」

先生の声はかき消されていく。


「Foooooo!」


…無視。みんな無視。

うそだろ。みんな無視って。

とんでもないクラスに

入ってしまったような気がする。


それから静かになったのは

およそ2分後だった。

「で、では…自己紹介してもらっても…

いい、かな。」

ノリノリだった先生も疲れている。

みんな元気ありすぎ。怖い。

とまあ学校生活に関わる恐ろしいイベント、

残るはクラスでの自己紹介である。

「え、えーっと、どうも。都凪、晴、です。

よろしくお願いします。」


…え?みたいな顔をされた。

なんだ、まだ言わなきゃだめなの?

「え、えー、あのー、うーん。

あ、彼女はいません。」

何を言っていいかわからなかったので

ふと言ってみるとなぜかみんなウケた。

「あんた狙いなよー笑」

「そんな自己紹介聞いたことないわ笑笑」

みたいな声がちらほら。

やめろやめろ、

笑いを期待して言ったんじゃないんだ。

とはいえそこから質問タイムになり、

なんとかプライベートな質問を

ぎりぎりのところで避けつつ乗り越えた。

あぁ、よかったぁ。

もう二度とこんな思いは嫌だと

心の底から思った。


その、直後のことだった。


---------------


「ねえねえ都凪くん。はじめまして。

わたしの名前は春川はるかわ綾芽あやめ

よろしくね。

でさ、突然なんだけど、生徒会入らない?」


少し、嫌な予感がした。


---------------






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る