なんか色々なものが台無しになったよ

「どれ受ける?」

「俺のスキルと麗詩さんの《観察者オブサーバー》があればほぼどんな魔物でも完封できるはずだ。……後、なるべく獣系の奴にしたい。知性ある魔物は人間とそう変わらないと邪神に聞いたからな。傷つけたくない」

「そうだね……かといって目立ちすぎると王国に見つかっちゃうかもだし……あ、これなんかどうかな?」

 

そう言って麗詩さんが指したのはB級の『スカルサーペントの骨』採集依頼。

なんでも防具の材料になるらしく、近年の魔物増殖に対抗して沢山必要らしい。

報奨金は二万リトス、ノルマは二十体でそれ以上の場合は報奨金上乗せと無駄が無く、出現場所もそう遠くはない。


「うん、問題無いな……」

「ところでさ、霞君」

「?」


依頼書を俺からひったくって無理矢理視線を合わせてくる麗詩さん。

……なんだ?


「何で私は名前で呼んでるのに霞君は名前で呼んでくれないの?」

「……へ?」

「~~~っ! 私もこれから霞って呼ぶから沙奈って呼び捨てでいい!」

「あ、うん……沙、奈?」

「よしおっけー!行くよ霞!」

「ば、場所分かってんの!?」

「あたぼうよー! こちとら《観察者オブサーバー》じゃなめんなこら!」

「キャラ!キャラ壊れてる!!」


れっつごー!と意気込む沙奈に苦笑しながら、その背を追いかけた。




■ ■ ■


「《死ね》」


目の前に群がるスカルサーペントが『生きる』事象を無効化する。

一々口にするのは、その方が無効化した後の想像がしやすいからだ。……ほら、英単語とか口に出した方が覚えやすいじゃん? そんな感じ。

間もなく目の前で崩れ落ちたスカルサーペント五体。


「よし、と」

「なんか、他の冒険者さんに申し訳なくなってきたんだけど……」

「……分からんでもない」


B級魔物が果たして位階にしてどの辺の強さを持つのかは定かではないが、その言葉の雰囲気からしてまぁまぁ強い部類であるだろうことは予測がつく。

それを言葉一つで倒してしまったことに後ろめたさを感じているのだ。

……この力は、自分で努力して得たものじゃないから。


「だけど折角貰った力だ。使わない方がバチが当たる」

「ま、確かにそうだね。自分は強いんだーって偉そうにするのは違うけどこれ位なら許されるよね」

「あぁ」


同じ要領でスカルサーペントの死体を解体し、《アイテムボックス》へと押しこめる。

《空間魔法》をLv1しか持たない俺には本当なら不可能な芸当だが、こちらも『俺がアイテムボックスを使えない』事象を無効化することで無理矢理使用出来る。

しかも《アイテムボックス》を無理矢理使うことで勝手に《空間魔法》のレベルがぐんぐん上がるおまけ付きだ。

……なんてチートだと苦笑せざるをえない。


この仕様を話した時には「なんか、霞だけは敵に回しちゃいけないって今本気で思ったよ……」と、沙奈もかなり引いていた。

邪神さんよ、相棒にするにしてももう少し自重出来なかったのかね……。

恐らく今でも王国の民を王含めて皆殺しにする事は出来るだろう。

だが、それでは意味が無い。誰が首謀者で誰が関わっているのか綿密に知り、敵だけを抹消しなくてはならない。

 

こんな争いに一般人まで巻き込むのは間違っている。少なくとも、俺は人間を不必要に殺すなんてことは出来ないのだ。

その為に必要なのが、俺が力にもっと慣れる事と王国の目的の調査だ。

まずは冒険者として大成し、北の大地へと踏み込む。

それから北の大地を回り、それを王国が狙う意味を探るのだ。


「ちょっと、霞、あれ……」


俺を思考の沼から引き出した沙奈さんは、何故かわなわなと震えていた。

訝しみながらその震える指が指す方を見ると、スカルサーペントの何倍もある巨体がそこにはあった。

その巨体を構成する骨はスカルサーペントとは対照的に黒く妖しく光っている。

このどう考えてもスカルサーペントの主だとしか思えないモノを前にして、俺が出来る行動はたった一つだった。

 

「……あー、《死ね》」


瞬間、どこかのギャグマンガよろしくその巨大骨は崩れ落ちた。

どんなモノでも無効化できるこのスキルの前ではどんな生物だろうと相手にすらならない。


「なんか、色々なものが台無しになったよ今ので……」


沙奈さん、気持ちは分かるけどやってなかったらこっちがやられてるから!!

バカでかい死体を解体して《アイテムボックス》に仕舞う。

余りにも死体がデカすぎたせいか、俺の《空間魔法》はLv42にまで上がってしまった。


「あ」


その後は主の死に逃げてしまったのかスカルサーペントを探しても見つからなかったが、沙奈が突然何かを思いついた様に立ち止まった。


「ねね、『スカルサーペントが現れない』のを無効化したらここに呼び出せるんじゃないの?」

「そうじゃん!逆に何で今まで思いつかなかったんだ俺!?」


……力に慣れるとは、こういう事か。頭を柔らかくしてこのなんでも出来るチートスキルを使いこなす。

沙奈に指摘されるようではまだまだ先は長そうだ。


この後、《スカルサーペントが30体現れない》のを無効化し、結果その場に召喚されたスカルサーペントが『生きる』ことを無効化からの解体、《アイテムボックス》。

副産物で《召喚術》がスキルに追加されていた。

……自分で生み出したモノを躊躇い無く狩れる時点で俺も相当倫理観が薄いなぁって思ったりもした。


 


■ ■ ■


ギルドの受付嬢には、基本的に引退した冒険者の中から見た目の良い娘が選ばれる。

その中でも、A級の実力と類まれなる容姿を兼ね備えたマリンは冒険者たちにとって一際目立つ、アイドルの様な存在であった。

新人にも優しく接し、アドバイスすら施す姿を見て『マリン様』などと呼ぶ輩も出てくる始末。

 

さて、そんなマリンだが今日は少し調子が悪そうだ。

仕事自体はテキパキとこなしているが、どこか上の空で何かが気になって仕方ない様子である。

……何か、とは言うまでもない。つい何時間か前にスカルサーペントの依頼を手に出ていったエルフの少女二人……いや、片方は男だったか。

……どうみても女の子な容姿だったが、それはどうでもいい。

問題はあの可愛らしい新人達が危ない依頼を受けてしまった事にある。

 

幾らエルフとはいえ、スカルサーペント相手では分が悪い。

魔法耐性が高い上に、骨で構成されたスカスカなその体には剣の突きも効き辛く、戦い方が限られてくるのだ。

一番良い方法はハンマーでぶっ叩くことであるが、当然新人がそれを知るはずもない。

自分が声を掛ける前にギルドを一目散に出ていってしまった為、知るチャンスすら失ったのである。

 

なんだ、つまるところマリンは心配なのであった。

スカルサーペントは、異常発生した際に街が軽くパニックを起こすレベルには強い魔物である。

そんなのを相手にノルマ三十匹。……到底新人に超えられる壁ではない。

頼むから諦めて帰ってきてくれ、とマリンは祈り続けているのだ。


「あの、すみません」


だから、その声が聞こえた時に思わずビクついて駆け寄ってしまったのは仕方の無いことなのかもしれない。


「良かった、無事だったんですね!」

「は、はい。……えっとスカルサーペントなんですけど、こんだけ取れたのでお願いします」


黒髪の方の娘……いや、こっちは男なんだったか。

本人にはすまないが、正直無茶苦茶可愛い。話し方がぶっきらぼうなのもギャップがあって非常に可愛らしい。……抱きしめたい。

それはさておき、スカルサーペントを取ってきたというのは意外だった。

もしかしたら、どこかでノウハウを知っていたのかもしれない。それならばいきなりB級の依頼を自信満々に受けたのにも説明がつく。……だがその肝心のスカルサーペントはどこだろうか。

 

はて、と首を傾げた直後、現れた魔法陣にマリンの思考は停止した。

色は空間魔法を示す水色で──。


「《アイテムボックス》!?」

 

マリンは、その魔法を一度だけ見たことがあった。

冒険者時代、所謂S級と呼ばれる者と一度だけ組んだことがあったのだが、その時にその《アイテムボックス》を見た。

容量には限界があるが、何でもかんでも放り込んで好きな時に好きな物を取り出せる《空間魔法》の極地の一つ。

何故、何故そんなモノをこの少女、いや少年が──!?


タダでさえ思考が停止していたマリンに魔法陣から現れた骨群が更なる追い討ち。

既に部位ごとに綺麗に仕分けされたそれは、外傷が一つも見当たらなかった。

どう殺したのかすら分からない上、そもそも何故スカルサーペントの解体が出来るのか。


そして次。その一瞬で、この少女達はマリンにとって恐るるに足る者になった。


「後、色が違うんですけどこいつも……」


なんて言いながら取り出したのは、あろう事かS級魔物デスカル・キングサーペントの黒骨。

それは、スカルサーペントの生息地域に稀に現れる死神。

生還した者が心を壊してしまう程の絶対的な力を持つ、厄災。

緊急で集まったA級の冒険者が束になって倒すコイツの死体を、ギルド本部であるここの受付嬢をまぁまぁ長くやっているマリンは勿論見たことがある。

記憶としっかり照らし合わせてみても、その黒骨はそれと全く同一のものだった。


「有り得ない……」

 

だが現実に起こっていることだ、と脳を切り替える。

改めて彼女らを見てみれば、服にも肌にも汚れ一つ付いていない。

それは、B級魔物の群れとS級魔物一体を相手にして無双した証。


もしかしたら、この娘達なら──と、マリンは希望を見い出す。

……だが、今はまだ時期尚早だ。

もっと彼女らの実力を分析してからでも遅くはない。

マリンは昂る心を落ち着けてそう判断し、ふぅと息をついて膨大な量の骨の精算を開始した。

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