面白いとか思ってる場合じゃなかった
次の日、学校でさっこちゃんと顔をあわせた時、どきっとした。
ちょっと元気なさそうと感じる前に、なんだか嫌な感覚がしたから。
どう嫌な感覚なのか言い表すのは難しいけど、夢魔が現れる時のチリチリをすっごく弱めた感じ、ってのが一番当てはまるかな。
「はー、なんかしんどいわぁ。風邪かなぁ」
さっこちゃんが自分の席に座って机に伸びた。
ますます嫌な予感。
“おまえの大切なものを奪う”
トラウマ狩人の声が頭の中でうるさく駆け回った。
まさか、そんなことないよね?
大人達がどうにかしてくれるんだもんね。
でも心配で心配で、もう、今日は授業どころじゃなかった。
今日一日で「とにかく大事にしてね」ってさっこちゃんに何度も言ったから、笑われた。
まるで大きな病気みたいじゃない、って。
周りの子達も、どれだけ咲子ちゃんラブやねん、ってつっこまれた。
そんなんじゃない、いや、そうなんだけどそれどころじゃない。これが夢魔だったら、下手したら死んじゃうんだよ。
そんなこと言うわけにいかないから悶々とする。
「愛良ちゃん、もしかして、あれの心配?」
きらちゃんがこそっと聞いてきたからうなずいた。
「もしもそうだったら、今夜わたしが行ってくるよ。早ければわたしでもいけるんじゃないかなぁ?」
もしも夢魔でも、さっこちゃんは昨日まで全然なんともなかったから低級夢魔だろう、ってことだね。
できれば、わたしが行きたい。
けど、気を使って言ってくれてるきらちゃんの厚意を押しのけるのも気が引ける。
帰ったらお父さんと相談かな。
気が気でない一日を過ごして、家に帰ってすぐお父さんに相談した。
「さっこちゃん、夢魔に侵食されてるんじゃないかな。だとしたらあいつらがやってるんじゃない?」
わたしが感じた違和感をお父さんに話して聞かせたら、お父さんは「愛良の言いたいことは判った」って言って、どこかに電話をかけた。
何分かの電話を何度か繰り返して、どうなったかと待ちわびてるわたしにお父さんは状況を説明してくれた。
「実は、ね。相手の裏をかいて得た情報だと『暁の夢』が狙っているのは、咲子ちゃん以外の愛良の友達グループだって話なんだ」
「えっ!? さっこちゃんじゃなくって?」
「うん、まずは普通のお友達からってことらしい」
それは、つまり、わたしの周りの、夢の世界に関係のない人達を順番に殺していく、ってことだね。
そう理解すると頭がかぁっと熱くなった。
歯を食いしばって、握った拳が震えるのを感じる。
憎い。
自分でもすごい驚くぐらいの激情が一気に胸に押し寄せた。
「愛良、落ち着いて」
お父さんが頭をなでてくれた。怒りや憎しみがそれで全部消えるわけじゃないけれど、少し心の中の暗い塊が消えた気がする。
ふとハルトさんを思い出す。
友達が狙われてるってだけでこんなに憎いんだ。身内が殺されたとか、どんな思いをするのか想像もしたくないほどだ。
ますます、生意気なことを言っちゃったって実感する。
でもハルトさんはわたしのおかげで失ったものに気づいてやり直すことができるって言ってくれた。
優しいね。
不思議だ。ハルトさんのことを考えると心がほわっとしてくる。好きって気持ちでドキドキもするけれど。
「ちょっとは心が鎮まったかな?」
お父さんの声で、はっとなった。
ハルトさんのこと考えてたからなんて言えないから黙っておこう。お父さんにとってハルトさんがにっくき存在になってもらっちゃ困る。
「うん、ありがと。それで、どうなってるの?」
改めて状況を聞く。
暁の夢の狙いがわたしの友達グループの三人だと知った夢見の集会所の人達は、今、手が空いていて組織の中でも強いとされている狩人達を三人の夢の見張りにつけた。夢見の集会所にとってはピンチでもあるけど、うまくいけば暁の夢の幹部クラスを捕まえられる大きなチャンスだもんね。
でも昨日は来なかった。
いつ決行するのか、細かな日程までは掴めていないから仕方ない。
さっこちゃんの方は、確かに夢魔が狙ってそうだけど低級夢魔だし、今夜きらちゃんが行くらしい。大丈夫だろうが、もしも暁の夢が絡んでいるようなら、そうでなくても想定以上に強い夢魔ならすぐに引き揚げるように言ってるそうだ。
「わたしが、行きたかったな」
つい本音をぼそり。
「気持ちは判るけれど、ここは葛城さんに任せよう。夢見は冴羽くんだって聞いてるし。二人がしっかりしたパートナーになる第一歩だよ」
えっ? そうだったんだっ?
ごめん、ちょっとワクワクしてきた。
そうなんだ、あの二人、そうなんだ。
最近のきらちゃんの様子からしてまさか冴羽くんの気持ちを無視したごり押しじゃないだろうし、冴羽くんがきらちゃんを受け入れてきたってことなんだよね。
これは、明日二人にこっそりと、ツッコミ入れる案件ですな。
さっこちゃんを侵食している夢魔を無事に撃退して、二人がわたしのからかいの対象になってくれれば。
こんな面白い、いやいや、めでたいことはない。
それでは、果報は寝て待つことにしましょうか。
夜中。
眠りの中にいたわたしを起こしたのは、低くうなるような規則的な機械の音だった。
最初、何か判らないけどブーブーいってるな、ぐらいだった。
それがスマフォのバイブレーションだ、って気づいた時、ぱちっと目を開いた。
嫌な感覚にぞわっとした。悪い予感ってやつなんだろうって後になって思った。
それでも机の上のスマフォに手を伸ばした時はまだちょっと寝ぼけてた。
『きらちゃんが、さらわれた』
でも画面に表示されたメッセージに、眠気どころか正気まで吹っ飛びそうだった。
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