光が見え始めた
次の日、夢見の集会所でハルトさんと顔を合わせた時、安心したって顔された。
「元気そうだな」
「うん、体はちょっとだるいけど、心は元気だよ」
「憑き物が落ちた、という感じね、愛良ちゃん」
マダムさんが、ほほほとお上品に笑う。
「憑き物かぁ、そうかもしれないね」
あれやりたい、これやりたい、こうしなきゃ、ああしなきゃ。
そんなのに追いかけられてた一週間だったかもしれない。
「それじゃ、今日も頑張ろう」
マダムさんに武器庫と訓練部屋を開いてもらって、ハルトさんと飛び込む。
そうそう、一つ思いついたっていうか思い出したんだけど。
サロメとサロモばあちゃんを打ち合うってことばっかりに気がいっちゃって、訓練でどう動けばいいのかとか、どうやったら戦い方に幅ができるのかってことがすっかり頭から抜けちゃってた。
今日は、思いっきり動くぞっ。
跳びまわって、飛びまわって、転がって、魔力を撃ちだしたり盾にしたり。
夢の世界じゃ現実ではできないいろんな動きができるから面白い。
わたし、この気持ちよさをすっかり忘れてた。こんなに動けるんだってことを。
ハルトさんが驚いてる。
で、にやっと笑って、同じようにいっぱい動き始めた。
訓練部屋が狭いって思うほど、まさに縦横無尽に動いてやりあって。
今日は、いつもよりたくさんハルトさんから一本とれた。
今までよけきれなかったハルトさんの攻撃も、かわせるようになってきた。
まだまだ互角には程遠いけど、でも今日は、気分いい。
「調子いいな」
「うん、ハルトさんの昨日のアドバイスのおかげ」
「よかった。動きがよくなってて、驚いた」
やった!
『今日の動きを見て感じたが、愛良は魔力を自分に溜めるのではなく外に放って生かすのが得意手になるやもしれんな』
サロメが言う。
「外に、って、撃ち出すってこと?」
『それだけではない。お主の望む形に変えてみたり、動きを補助するようにしてみたり、だ。お主は動きが素早いからな。それを補助できればもっと相手をかく乱させられる』
なるほど。ブーストするってことか。
「それじゃ次からはそういうのを意識してみるよ」
でも、本格的に試すのは三月になってからかな。
なぜなら、明後日には学年末テストの二週間前になるから。
一年生の総仕上げ。学年の成績が決まっちゃうテストだから手を抜けない。この十日近く修行を最優先にしたからテスト期間は今まで以上に気合い入れて勉強しないと。
ハルトさんの後輩になるためにも。将来同じところに立つためにも。
修行が中断するのは寂しいけど、テスト自体にも目標があるし、テスト後にも楽しみがある。
そう考えたら気分が一層よくなった。
訓練所から部屋に戻って、隣の集会所に戻ると、マダムさんとオバねえさんがお茶してた。
また用もないのに来てるんだこの人。
マダムさんがわたし達のお茶の用意のために席を立った。
オバねえさんが、主にハルトさんにニッコリ笑いかけた。
「お疲れ様。あら今日は愛良ちゃん機嫌よさそうね」
あんたの顔見てテンションちょっと下がったけどね。それぐらいで不機嫌にはならない。
「はい。修行の成果が出始めてきたんで」
「愛良の動きがすごくよくなって。俺も触発されてスムーズに動けたし」
ハルトさんが援護射撃をしてくれた。嬉しくなって隣を見た。
「ハルトさんの役にも立てたなら光栄だよー」
思わずてのひらをハルトさんに向けたら、ハイタッチしてくれた。
ノリよくなったねハルトさん。
「でもそろそろ、愛良ちゃんはテストじゃないの?」
まーた水差してくるよこのオバさん。ムカつくからもう「ねえさん」はつけてやんない。
「そうか、学年末か。いつから?」
「三月の最初の方。明後日が二週間前だよ」
だから修行は明日で一旦終わりね、って付け足そうとしたら、オバさんがにやっと笑って言った。
「あらー、それじゃ明日でおしまいね。残念ね」
くっそ腹立つ。勝手におしまいにするなっつーの。
「そうですね。でもテスト終わったらまた再開だから」
「せっかく新しい戦い方を見つけそうになってるんだからな」
ハルトさんがこっちの言うことを肯定してくれててよかった。
「うん。それにテストも嫌じゃないよ。頑張る。わたし、ハルトさんの高校目指すことにしたんだ。さっこちゃんも第一志望だし」
「あぁ、青井の妹さんか」
それから青井兄妹の話で盛り上がってやった。淳くんとさっこちゃんに感謝だ。
ふっふーんだ。わたしだってハルトさんのプライベートに近いもんね。
マダムさんが席に戻ってきて、わたし達の前にティーカップを置いてくれた。
「楽しそうでよかったわねぇ。狩人同士、仲が良いのはいいことだわ」
ほほほ、と笑ってマダムさんが言う。
「愛良ちゃんが高校生になるころはハルトくんは大学三年生だから一緒の学校には通えないけどね」
「あはは、当たり前じゃないですか」
わざわざ何言ってんのこのオバさん。もう無視しちゃっていいよね。
「ハルトさんは、テストは?」
「こっちはもう終わってる。あとは卒業を待つだけ」
「いいなぁ。あ、卒業式の日って何か予定ある? 卒業のお祝いしたいな」
「え? ……わざわざ悪いよ」
「悪いことなんて何もないよ。おめでたいことだからいいじゃん」
「そうか、それなら。予定は空いてるから」
ハルトさんは、ふっと笑った。ちょっと寂しそう。
高校を卒業するって、すごいことだと思うのに、ご両親はやっぱり無関心なんだ。
クラスの人達とも仲良くなってきたって言っても、打ち上げとかに誘われるまでの仲じゃないんだ。
でもちょっと前進なのは、ハルトさんがそれを寂しいって思ってるっぽいこと。
「じゃ、予定が空いたままなら、ね」
これから、もしかしたら誘われるかもしれないし。
ハルトさんはちょっと驚いて、あぁ、ってうなずいて笑った。
ほっこりする。
ハルトさんが笑ってると、わたしも嬉しい。
「だったら、ここでやればいいじゃない。わたしもお祝いしたいわ」
うわっ、オバさん乗っかってきちゃったよ。
何が「だったら」なのか
「狩人と夢見も仲良いほうがいいですし、ね?」
「え? えぇ、そうねぇ。それはもちろんよ」
ちょっと、なにいきなりマダムさんにまでふってんのよ。困ってるっしょ。
このオバさん、もしかしてコミュ障? それとも、それほどまでに必死?
「また日が近づいたら改めて決めていきましょう」
おぉ、マダムさんがきれいにまとめてくれた。さすがだ。大人だ。
今日は解散、ってなって、暗くなったからとハルトさんが家まで送ってくれた。
自転車こいだ方が早く帰れるんだけど、断然送ってもらう方がいい。
ハルトさんも疲れてるのにいいよって遠慮しても、学校もあんまり行かなくていいし、俺は毎日わりとヒマだからって押し切られる。
それなら気持ちよく送ってもらいましょう、って感じ。
高校生活はどんなものなのか、なんて話を聞きながら歩いて、家の前に到着。
「送ってくれてありがとう」
「あぁ。また明日」
手を振って、ハルトさんが見えなくなるまで見送った。
さぁ、テスト勉強、頑張りますか。
ハルトさんと同じところに届くために。
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