親子だからってなんでも見ていいわけないでしょ
夕食の時に、お父さんに夢見のお仕事について聞いてみた。
お父さんは、どう話そうかな、ってうなってから話し始めた。
夢見の人達は直接戦う能力よりもサポートの方に特化してるんだ、ってことは前も聞いた。
渦巻きトンネルで夢の世界とつなぐことで狩人を送り出すけど、実はこれぐらいなら狩人だってわりと簡単に作れるんだって。これは初耳。ただ、トンネルを作るのに魔力を使うよりも夢見に作ってもらって戦いに集中する方がいいってことで夢見の役割になってるらしい。
「そもそも、ずっと昔は夢見はいなかったんだ、って話だよ」
「えっ? どういうこと?」
「狩人が自分で夢の中に入って戦ってたそうだ。けれど魔力はあっても狩人として戦うのは苦手でサポートをしている方が得意、という人もいてね。狩人のパートナー的な役割を担うようになったのが夢見の始まりだってことだ」
最初はサポート役として一緒に夢の中に行ってたらしいけど、夢魔に直接狙われると戦う手段がないから狩人の足手まといにもなりかねない。そこで夢の外からサポートするようになって、夢見、って言われるようになったんだって。なるほどねぇ。
で、戦闘中は、ひたすら夢の世界の安定化に力を注いでいる、と。
狩人が安心して戦えるのは夢見が夢の世界を安定させてくれているからだ。
「もしも不安定化しちゃったらどうなるの?」
「夢魔が作り出す、人にとって不愉快な環境になってしまうから戦いにくいと思うよ」
夢魔が現れた時にチリチリした嫌な感覚があるけど、あれがもっとひどくなるってことか。
「そりゃやりにくそうだね。そういえば、狩人の感情とかが判るって聞いたけど本当?」
「判るよ。安定化させるには大体の状況は把握しておかないといけないからね」
ってことは夢の中でアホアホなことを考えてたらそれもだだもれなんだ。うわぁ、サロメとのテレパシー並みにプライバシーなかった。
え、ちょっと、待って? それじゃ、今までわたしがハルトさんのことをあれこれ考えてるのもお父さん全部知っちゃってるってこと?
かあぁっと顔が、頭が、熱くなった。
「その気になれば映像も見れたりするけれど、あまり知られたくないだろうから――、ん? どうした?」
「そ、そんな重要なことは最初のほうで教えておいてくれないとっ!」
声が上ずっちゃった。
「なんだか慌ててるけれど、そこまで深くシンクロさせてないよ。状況をしっかり把握したいという夢見もいるし、それをよしとしている狩人とのペアなら問題ないだろうけれど、やっぱり自分の思考が相手に全部伝わるというのは嫌だろうし、受け取る側も困ることもあるし」
そ、そうなんだ……、よかった……。
「……そんなに知られちゃマズいことを考えているのか? 親として把握するためにこれからは――」
「やめて」
じとっとにらむと「判ってるよ」って笑われた。お父さんからかってるなっ。
「それで、お母さんの気配は判るって、どんな感じなの?」
「夢の中で生きている、というのは感じ取れるけれど、何か、そうだなぁ、障害物の向こう側の気配を感じ取ってるようなもので、どこにいるのかとかは判らないし、お母さんの状況を映像化しようとしても邪魔されてできない、という感じだな」
障害物の向こう側、か。
あの青の夢魔の青い球体がそれなのかな。
わたしがそれを言うと、お父さんはうーんってうなった。
「その青の夢魔が見せたのは閉じ込められたお母さんの様子で違いないとは思うけれど、夢魔が閉じ込めているというよりは、もしかすると夢見の結界のようなものかもしれないね」
「暁の夢の側についてる夢見の結界、ってこと?」
「多分ね。戦闘の時に防御の結界のようなものを使う夢魔もいるだろうけれど、ずっと何かを閉じ込めたり管理したりということは、夢魔はしないと思うから」
なるほど。そうなんだね。
「とにかく、暁の夢のことは大人に任せて、愛良は関わらないようにな」
「うん」
って返事をしたけど、悔しい。
暁の夢がヤバそうなのは判る。“トラウマ狩人”も“青の夢魔”も強そうだし、第一組織になるってことはそれだけ協力者がいるってことだし。大人に任せた方がいいのは、その通りだと思う。
けど、ただ逃げるだけなんて、それが一番いいなんて、無力だなぁ、わたし。
「愛良。おまえが狩人になったから、お母さんの居所のヒントが得られたんだ。おまえは十分、よくやってくれているよ」
お父さんの優しい声。そんなの、めっちゃずるい。泣きそうになるじゃん。
だから。
「そりゃそうでしょう! この愛良ちゃんのおかげなんだからねっ!」
わざと元気よくVサインなんか出して、悔しいのも、なんか悲しいのも吹き飛ばしてやった。
次“トラウマ狩人”に会ったらつい八つ当たりしそうで怖いから、出てくんなよっ。さっさと「夢見の集会所」の強い狩人さんにやられちゃえ!
それから何回か夢魔退治に行ったけれど、誰かが来るわけでもなく平和(?)にお仕事ができた。
もうすぐ二月になる今夜も、そうだと思ってたんだけど。
「今回は夢魔じゃなかったね」
『うむ。夢魔かどうかも判らぬが念のため見てきてほしいとのことだったからな』
たまに、こういう日もある。
夢魔に苦しめられている人がいなかったのは喜ばしいことだ。
それじゃ、帰ろうかってなった時、サロメが短くうめいた。
「なに? ぎっくり腰?」
前に魔器なのに腰痛がって話とかしてたから、ちょっとからかってみた。何かつっこまれると思ってたんだけど。
『サロモか』
ぼそりとつぶやいた。真剣な声が、なにかただ事じゃないって告げている。
「サロモばあちゃんがどうしたの?」
『何やら怪しい雰囲気に包まれておる』
「判るの?」
『ワシらはもともと一対の双剣だからな』
「怪しい雰囲気って、どんな?」
『不穏な空気だ。ハルトの気も混じっていそうだが』
ハルトさんの?
でも確かに、サロモばあちゃんの周りが不穏ってことは、持ち主のハルトさんの周りもそうってことだよね。
もしかして、暁の夢?
行くな関わるなって言われてるけど。
「行ってみよう」
ハルトさんの危機は放っておけない。
今日は戦ってないしわたしの体力も魔力も十分にある。ハルトさんが夢魔との戦闘の後に狙われてるなら加勢しないと。
サロメは、反対しなかった。
「と、思ったけど、どうやって行けばいいのか判らないな」
腰のサロメが、かたたっと鳴った。コケているのだろうか。
『夢の中はつながっておるからな。ハルトとサロモのことを思い浮かべながら進んでみるといい。ワシらはつながりやすいから、問題なく行けるだろう』
そっか。ハルトさんがわたしのピンチに助けに来てくれるのって、こういう感じなんだ。最初の方はサロメとサロモばあちゃんが偶然引き付けあってる感じだったんだろうけど、そこにハルトさんの意思が加わったんだね。
今、行くよ、ハルトさん。
サロモばあちゃんも、ハルトさんも、どうか無事でいて。
強く願いながら、走った。
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