第1話 俺が助けようとしたヒロインは……(3)


 物心ついたときから、日曜朝の特撮変身ヒーローに憧れていた。


 正義の心を力に変えて、たとえ負けたって何度でも立ち向かう。


 自分もなりたいと思った。でもそれは叶わなかった。

 おもちゃ売り場で母親に変身ベルトをねだっても、


 「それは男の子のオモチャでしょう?」


 その一言で一蹴された。


 女の子は「女の子の遊び」をするのが「常識」、それを無意識のうちに学んで、それでも消せない熱い炎を、胸の奥にずっとしまってきた。


 いま、あのお兄さんは、さっきまで戦闘服スーツで戦っていたお兄さんは、「あれがなければ変身できない」って言った。それが確かなら――。


 少女は口元に自信たっぷりの笑みを浮かべると、一瞬の迷いもなく足元の端末を拾い上げた。

 そして電源ボタンと思しき側面のスイッチを押す。「再起動」の文字が画面に浮かんだ。



 「なっ……何をやっているんだ!?君には変身それは無理だッ!!」


 ユウキは少女の行動に驚愕していた。しかし、彼は少女を思いとどまらせようとするだけの理由を持っていた。


 「変身」の際には――ある種のになってしまうが――携帯端末に搭載されている加速度センサーに一連の適切な加速度を与えなければ、変身シークエンスは起動しない。


 すなわち、RAIDER PHONE SX MAXを持つ者の「動き」と「姿勢」が、変身のためのパスコードになっているのだ。


 そのせいで彼は「別にやりたくもない変にカッコ付けた動き」を変身のたびにするはめになっているのだが……。



 そんな彼の忠告にまったく耳を貸すことなく、少女はひとつ深呼吸をした。そしてカッと目を見開き、自分の中で長年温めてきた「変身ポーズ」を、実行に移した。


 足を肩幅の1.5倍に開いて立つ。肘を広げて左手を頭の前に、端末を持った右手をその上にかざす。左右から両手で目元を隠している格好だ。


 そしてついに、叫びたくて叫びたくて仕方なかった渾身のワードを、満を持して響かせたのだ!



「 変 ☆ 身 ! ! ! 」


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