第9話 精霊ベントス 前話

 荒れ狂う風の中を歩みながら、徐次郎はその手を前に向け、首を傾げていた。


――風は確かに吹いているみたいだな。でもなんだ?竜巻って言ったらもっとひでぇ勢いじゃなかったか?


 腰に付けた薄い箱型の装置へともう一方の手を伸ばし、指先で操作する。黒の忍び装束には、これまで徐次郎が稼いできた稼ぎのほぼ半分が投入されている。その腰に付けた装置には非常に強力な超伝導体コイルが仕込まれ、それにより発生する強力な磁気とその周辺の重力場とをひとつの場としてコントロールすることが可能だ。簡単にいえば機器から半径数メートルの重力をコントロールできるようになっている。

 その装置の力で強引に竜巻の中に入ってきた徐次郎だが、入って暫く歩むとこの場のおかしさに気がついた。風があまりにも優しいのだ。


――幻影には見えねえな。かといって魔障の類でもなさそうだ。となるとこれは……。錬金の連中め、ヤバいものに手なんか出してねえだろうな?


 竜巻の外皮とも呼べる風の層は、通り抜けてみるとわずか十数メートルほどのものだった。


――中まで詰まってねえからか……。だから風が弱かったのかもしれねえな。ま、とりあえず、連中をまずは見つけねえとだな。


 徐次郎は腰の装置に手をやると、自身の体重を十分の一まで少なくし、駆けた。

 街並みはそのまま残っている。風で飛ばされたような形跡も少ない。その石でできた建物の上を徐次郎が駆けていく。

 時折屋根の上で停まり、手首に巻いた腕時計のようなものを見る。そしてまた駆ける。徐次郎はそうして一件の建物の屋上へと到達した。


――この中に、三人か。それと……気配の方はまた、あのお嬢ちゃんと同じくらいのがいるな。……マルアハ様がここに来てるってことは、……あるかもしれん。まあいい、どっちにせよ会って話してからだな。


 徐次郎はそのまま建物の外壁を地面まで降りていく。手足を器用に動かして、しなやかに降り立った。

 そこで徐次郎は腰の装置に手を伸ばし、その機能を停止すると、入り口と思われる開いたところから、建物の中へと入り込んでいく。



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