初めての合コン(女子不在)
仄かな藍色を遠くに残し、ほぼ黒になった空を街の灯りが灰色に染めていた。
俺が樫井さんと合流してすぐ、すぐそばにフワリと
行きかう人々はジャケットやカーディガンを羽織っているくらいの気温だったので、薄い真っ白なワンピースに素足で宙に浮いている様子は、浮世離れしていて、まるで天使の様だった。
細い腕にはしっかりと
「お待たせー!少し迷ったぁ・・・あ!樫井さん初めましてー♪
・・・って、あぁ見えないのかー。えっ?えーーー!なんか変な人おんぶしてる?!何ー?あっ誠士くん、この人が樫井さんの幽霊って人?
こわっ・・・怖すぎるよ。ミカゲちゃんどーしよー!?」
「・・・貴重な連休中なのに誘っちゃってすみませんでした。
再来週の事も、本当にありがとうございます。今日は何でも好きなモノ食べてくださいね。安い店で申し訳ないですけど・・・。」
騒々しい天使の言葉は全く聞こえないふりをして、俺は樫井さんに話しかける。
「なに言ってんのー!お巡りさんが8歳も下の若者に奢らせる訳にいかねーよー!
割り勘でパーっと飲もうぜ!」
店までの道を進みながら、樫井さんは楽しそうに話す。
本当に彼は良い人だ。185㎝を越えていそうな長身に、時代劇の侍役が似合いそうな整った目鼻立ちは、男の俺から見ても格好いいと思う。
髪は警察官らしくさっぱりと短めで、額を出している。
加えてこの気さくで明るい性格だ。隣に立つと少し気後れしてしまう・・・。
「誠士、ずいぶん性格の正反対なお友達がいるのだな?ふぅん・・・いい男じゃないか。好みだな!お前もあんな姿だったらもう少し自信というものが持てたのかもしれんなー!ははは!」
御影がすぐ後ろを歩きながら大笑いして、地味なジャブで俺の心を潰しにかかる。
「しかし・・・あれはいかんな・・・。大事に背負っている彼女はとんだバケモンだ。よくあれで体調に障らないものだ・・・どれだけ鈍感な奴なんだ。
・・・朱莉、私の後ろからついて来なさい。
・・・分かったからもう騒ぐのはおよし!大丈夫だから泣くのはやめなさい。」
御影は樫井さんにしがみ付く赤いコートの女の悪霊を睨んで独り言を呟いた後、
ギャーギャー怖がる朱莉をたしなめていた。
(・・・だめだ、ちょっと整理しないと飲み会どころじゃないよな・・・。)
「樫井さん、お店ここですー!俺ちょっと電話があるので、先に入っててもらえますか?松宮で席とってあります。」
駅から10分ほど離れた、静かな隠れ家居酒屋・・・といった外観の店の前で、
俺は樫井さんに声をかける。
「おう!わかったー。」
樫井さんと背中の悪霊を先に中へ通した後、俺は店横の路地裏へ朱莉たちを呼ぶ。
「ごめんね・・・何も返事できなくて。えっと・・・、あの人がコンビニ常連の樫井良太郎さんね。29歳で仕事は刑事。実家が群馬で幸の工場の事も知ってるみたいだった。俺は・・・朱莉たちと出会ってから初めて見えるようになったんだけど、
なんか女の人に憑りつかれてるみたい。
来月帰省するときに、俺らを車に乗せてくれるって言ってくれてる。
・・・でもあの通り、ちょっと不安だし御影に見てもらおうと思ったんだ。」
人に見られても1人で話してる怪しい男に見えない様に、俺は携帯を耳に当てながら小声で話した。聞き終わると御影は事も無げにゆっくりと話し始める。
「あれは・・・朱莉と同じで生霊だ。幽霊ではない。ただ、憑りつく対象の相手に認識されていないので、一方的にくっついているだけだ。
その悲しみ、本体の人間の生きづらさなどを集めた負の感情で具現化している。」
あれが本来の生霊・・・天真爛漫な明るさと可愛らしさの居候に慣れ過ぎたのだろうか。あのじっとりと絡みつく生霊女の手は直視できない程の嫌悪感を覚える。
「・・・私もあんな風になっちゃうのかな。自分勝手に、人に憑りついて自分を見失って・・・。迷惑でしかないよね。」
俺と同じ様に感じたのだろうか?朱莉は両腕を組んでさすりながら俯いている。
「朱莉は・・・絶対に戻れる。」
俺はチープで根拠のない返事しか出来なかった。
(もう少し気の利いた言葉はかけられないのか?お前はあんな奴とは違う!
お前みたいな美人にならいつまでも憑りつかれてもいいぜ!なーんて冗談の一つでも言って和ませる位の男気を見せて欲しいものだな。)
御影が俺の頭の中に直接話しかけてくる。
自分でも一番嫌いでダメな部分を
『取り敢えず中に入ろうか・・・。』と二人に促した。
街の
俺は現実から目を背けたかったのだろうか。
何だか男女半々で合コンみたいになってしまったな・・・。とか、
俺の生まれて初めての合コンには、人間の女の子は居なかった。
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