第2章 御影(みかげ)
御影(みかげ)
ボロアパートから駅とは反対の方角へ歩いて20分ほど行くと、町はどんどん寂しい風景に変わっていった。
道中、すれ違う通行人全てにフワリと近づいて目の前で手を振っていた
「あーんなに人が居たのに誰も私が見えてないんだよねー!
もう誰も通らなくなっちゃって確かめられなくなったし・・・。」
「見えてたら逆に問題だろ。」
朱莉は気付いてなかったが、5人に1人くらいは何かを察知したのか急に振り返ったりして、内心俺はヒヤヒヤしていた。
(案外、霊感がある~とかいう人ってマジだったのかな・・・)
世の中の心霊現象といわれている噂話のシステムが少し分かったような気がする。
「あっ!
疲れは感じないと言っていたが、本当は空を飛んで神社に行けるのに、
俺の歩調に合わせて(少し浮いて)歩いていた朱莉は、ほっと溜息をついた。
町外れにある石畳の細い参道は両脇の常緑樹がうっそうと生い茂り、
【
(うわー・・・雰囲気ありすぎだろ。)
「おーーーい!ねこさぁーん!出ておいでーーー♪」
朱莉はふわっと鳥居を飛び越え5m位の高さから辺りを見回している。
「ちょっと!静かにしろよ・・・。生霊が堂々としすぎだって。」
この場にそぐわない騒がしさに、罰が当たらないか少し心配になった。
階段の端を登っていく途中に、それは居た。
崩れそうな石灯篭の陰に寝そべり、じっとこちらを見ていた猫は、俺と目が合うと『やれやれ』といった表情になった気がした。
キィーーーン!という耳鳴りの後に頭の中へ直接響いてきた言葉は、
優しくて柔らかい女性の声だった。
「吾輩は猫である」
俺は随分先の方へ進んでしまっている朱莉を呼ぶのも忘れ、立ち尽くしていた。
(なんか日本一有名な自己紹介してきた・・・。どうしよう。)
「名は御影(みかげ)という。」
(名前あるのかよ・・・!?)
「名前なんてあるに決まっているだろう。野良ではなかったのだから。
失礼なクソガキだな。」
(!?考えが読まれてる・・・?そして口が悪い・・・)
錆色・・・とでもいうのだろうか。赤黒いふわふわとした毛並みの猫は、
すっと立ち上がると俺の前を素通りして、石段の先へと登り始める。
短めの尾は2本に分かれており、先がそれぞれ曲がっていた。
「あのアホ娘は何も説明しなかったのか?
それにお前、空っぽの頭の中がどうせ筒抜けなのだから、
そろそろ喋ったらどうなんだ?根暗な若者は好かんな。」
綺麗な声が勿体なくなる悪口を連発し、御影は振り返りもせずに歩を進める。
「大体の事情は聞いたよ。便箋や紐が入ってた。それも持ってきてる。」
俺の言葉に一瞬ピクッと耳を動かしたが、御影は構わず歩き続けた。
そして、
と唸っている朱莉を見ると、軽く溜息をついて手前の階段へ座った。
「朱莉、御影さん居たよ。」
「はーい!あぁーやっぱり誠士くんも見えたんだね!
おはよーミカゲちゃん!宝物、持ってきたよ♪」
朱莉は俺の隣まで飛んでくると、御影の方を向いてお辞儀をした。
「おはよう朱莉。・・・約束を守ってくれた事、感謝するよ。」
先程までの俺への態度から一変した、優しい声で御影は礼を述べた。
「朱莉・・・この暗い男はお前の恋人なのか?やめときなさい。」
「えー違うよぉ!昨日初めて話せるようになったの!
でもでもー、誠士くんは、私の事見えるようになってからも居候させてくれてる、
とっても良い人なんだよ♪」
「なんと!・・・
「うーん・・・?誠士くんは他人だった私にご飯をくれたし、元の身体に戻れるようにこれからも手伝ってくれるんだって!ミカゲちゃんも信用して大丈夫だよ♪」
朱莉は御影の隣に座り、楽しそうに話している。
朱莉に撫でられると御影は薄い緑色の目を細める。
しかし、ぼーっと突っ立っている俺の存在を完全に無視した女子トークの最中にも、鋭い眼光だけはずっと俺の顔に突き刺さし続けていた。
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