8. How much do you weigh? #2
「はぁ?」
御堂先輩の第一声は素っ頓狂な声だった。肩をすくめて、茫然と口を開く。
「御堂、お前は手芸部で、男子で、体重は六十六キロ以上。全ての条件を満たしている」
「ちょっと待てよ、俺が犯人だっていうのか? 俺はその日ずっと教室に……」
「いや、材料を取りに行くとか言って一度長い時間中座してるわよね? そのあいだに殺害を実行するのは可能だったわ」
御堂先輩の誤魔化しは伊藤先輩にあっさり退けられてしまう。御堂先輩は慌てつつも、しかし諦めていない。あっさりとしおらしく犯行を認めた金沢先輩とは対照的だ。
「おい寒月、俺を犯人にした理由は体重だけか? 俺が重いから犯人? そんないい加減な推理を誰が信じるんだよ」
「もちろんそれだけが理由じゃない。物的証拠もちゃんとあるんだよ。よいしょ……」
寒月先輩は思いっきり前かがみなり、車椅子の座席の下を探った。そこにも荷物入れが備えられているらしく、中からでろでろとロープが出てくる。
そのロープは半分が青く染まっていた。
「これなーんだ!」
「それはっ……なんで、すてっ」
御堂先輩ははっと気づいて口を覆った。けれどもう遅い。自白したようなものだった。これで心証はもう決まった。
「処分が甘いぜ御堂。唯一の証拠はもっとちゃんと捨てないとな。ところで御堂、一つ聞きたいんだが」
「……なんだよ」
御堂先輩はもう諦めたのか、投げやりに言った。寒月先輩は何を考えているのか、得意げな笑いをすっと引っ込めて神妙な顔で尋ねる。
「なんで芽山を殺した? いつ殺そうと思ったんだ?」
「それは、とっさにだよ。とっさに思いついたんだ。馬原が嫌そうな顔をしてたし、二人だけで三階に行ったいまなら殺せると思ったんだよ。うまくいくかはわからなかったけど、結果的にうまくいった」
御堂先輩の話は取り留めがなかったが、言いたいことは分かった。状況がそろってしまい、動機も見つかってしまったと。殺人ゲームが何の変哲もない日常に「機会」を見出させ、彼の背中を押してしまったと。
だけど寒月先輩は、コインを引っ繰り返すように神妙な顔をがらりと変えて、また凄惨な笑みを表に出した。
「嘘だな」
短く言う。
「そんな都合のいいことあるか。お前は早いうちから、常にチャンスを伺っていたんだ」
「何を……」
「だってそうだろう? この計画は運に左右される部分が多すぎる! トイレに身を隠し、自分の体を支えられる体重の奴が一人で来るのを待ち続ける? そんな都合のいいことが簡単に起こるわけがねぇ。だがこの計画の優れた点はむしろ運任せにしたところだ! いつ誰が死ぬかわからない突発性! 本当にそんな計画だったのか疑いたくなるような不安定なトリック! それだけで推理が難しくなるからな。お前はおそらく、いつからかこの計画を思いついて機会が来るのを待ち続けた。たぶん土曜日限定の計画だろう。平日は人数が多すぎて殺害後の処理のときに別の誰かと鉢合わせする可能性がある。だが途中で気づく。自分の体重を支えられる奴はそうそういないってことにな。男子の体重はおおよそ五十キロ後半から六十キロ前半に集中している。これじゃ運任せにしても確率が低すぎる。そこで千海の化粧道具入れだ。お前はこういう道具を使って体重を嵩増しすることを思いついた。ついでに道具の持ち主に疑いを向けることもできる。要するにだ。お前の計画はアドリブもあったがずっと前から考えられ、実行されていたものなんだよ。何がとっさにだ! 善人ぶるのはやめろよ!」
寒月先輩の声が虚空に響いた。御堂先輩は黙りこくって突っ立っている。伊藤先輩が「終わりでいいかしら」と呟き、それを合図にみんなが散り散りに自分の教室へ戻り始める。裁判までまだ十日以上あるが、各々が教室でこの話を広めて、投票はあっさりと終わることになるんだろう。
「さてと。あたしも帰るわ。エマ、ロープ適当に捨てといてくれ」
「え? 証拠品ですよね?」
「いや、適当なやつ買ってきて青く塗っただけ。見つからなかったけど、捨てたと思ったものが出てきたらびっくりしてボロ出すだろうと思ったんだよ」
私は先輩からロープを受け取ってため息をつく。結果的にうまくいったからよかったものの、失敗したらどうするつもりだったんだろうか。それともそれも、考えても仕方がないのかな?
「栞さんっ」
不意に、人込みから声が響く。千海だ。少し遠くで、拳を握りしめて立っている。栞は顔を俯かせたままだ。
「栞さん、僕は、その……」
千海は言葉が出てこないらしく、中途半端に手を持ち上げたまま固まってしまう。
栞は彼を見ることなく、逃げるように体育館から出て行った。
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