第12話 小暑②
合同コンパ。男女が集う出会いの場。僕はクラスにいる女の子慣れした男子の事を思い出した。
その男子は、他の学校の女子との合コンのセッティング話を楽しげにしていた。
僕はそんな場に呼ばれた事も無ければ、参加した事も無い。この集いに参加するには、ある特殊能力が必要だ。
軽快な会話能力。相手を飽きさせない話題の引き出し。そして、短い時間の相席の場で発揮される最大の武器。容姿。つまり見た目だ。
僕にはそんな特殊能力は一つも無い。僕達男女六人の目の前には、いつのまにか革張りのソファーとテーブルが用意されていた。
誰ともなく、それぞれソファーに座り始める。一面砂漠のこの世界で異様な合コンが開始された。
エプロンを着用したタスマニアデビルの着ぐるみがメニューを配る。エプロンには、カピバラの絵が書かれていた。皆、飲み物や食べ物を注文する。
「えーと。まず皆、互いに自己紹介しようか?」
茶色く染めた髪と、耳にピアスをつけた男性が口火を切った。黙り込んでいた僕は、助かったと安堵した。中木曽さんも同じような表情だ。
二つのソファーに男性三人、女性三人がそれぞれ座っている。先ずは男性から自己紹介する事となった。
茶髪とピアスの男性から自己紹介を始めた。彼は大学生で音楽が趣味だと人懐こっい笑顔で話した。とても女性に慣れている感じだ。
続いて真ん中に座る中木曽さん、右端に座る僕と自己紹介が続く。僕は緊張の余り何を喋ったのかよく分からなかった。
僕はさっきから嬉しそうしている中木曽さんに小声で質問してみた。こんな決闘方法に戸惑っていないのかと。
「いやあ、嬉しいね。職場は男だらけで出会いなんて無いしさ。こんな決闘なら大歓迎だよ」
中木曽さんは面長の顔をほころばせ、満面の笑みを僕に見せた。決闘相手の中木曽さんはやる気満々だ。
続いて女性の自己紹介が始まる。茶髪とピアスの男性の前に座る女性は二十歳の短大生。ショートカットの可愛らしい女性だ。真ん中の女性は事務の仕事をしている二十五歳。長い髪が似合う美人だ。
そして僕の前に座る鬼コーチ。いや、一時的に僕を忘れている彼方だ。彼方はなぜ自分はこんな所にいるのか。そんな戸惑ったような表情で口を開いた。
「出雲彼方。十七歳。高校ニ年生です」
い、出雲!? 十七歳!? 彼方のさらりと口にした自己紹介は僕に衝撃を与えた。今まで謎だった事がいとも容易く知り得たのだ。
茶髪とピアスの男性を中心に会話は続いていく。僕は皆の会話が頭に入ってこなかった。頭の中は、目の前に座る彼方の事で一杯だ。
この妙な決闘で彼方の謎が解けるかも知れない。そう思った時、僕は得体の知れない罪悪感に苛まれた。それはまるで、他人の日記を盗み見るような感覚。
彼方はカピバラ達に僕の記憶を一時的に消されている。それを利用して彼方の情報を聞き出すのは、卑怯ではないだろうか?
もし彼方がこの事を後で知ったら、絶対僕に失望する。いや、失望だけで済む筈がない。考えるだけで身の毛がよだつ、恐ろしい報復が僕を待ち構えているに違いない。
僕から彼方に質問するのは止めよう。僕と彼方の信頼関係の為に。いや、僕の健康と命の安全の為にも。
「彼方ちゃんの制服って、ここらじゃ見かけないね。どこの学校なの?」
茶髪とピアスの大学生が彼方に質問する。か、彼方ちゃんって。ちょっと気安くないか?
「えーと。これは制服と言うか。家の家業のユニフォームみたいな物なの」
茶髪とピアスの大学生は、そうなんだと笑顔で返す。いやこの人絶対意味分かってないだろ? 僕だってサッパリだ。家業のユニフォーム?
話題はいつの間にか好みのタイプを一人ずつ答える局面に移っていた。僕は優しい人と答え、彼方の番になった。
「約束を守る人かな? 破る人は嫌い。特に一度誓った約束を破る男は絶対許さない」
か、彼方の両目がすわっている。絶対許さないって、何か過去に嫌な思いをしたのだろうか?
僕が彼方の言葉に動揺している時、女性陣から小さい歓声が起きた。隣の中木曽さんがサラダを女性達に取り分けていたのだ。
女性達は中木曽さんにお礼を言う。茶髪とピアスの大学生も、女性達に飲み物のお替りが必要かさり気なく聞く。
う、上手いな二人共。こうやって女性から良い印象を獲得するのだろうか。僕にはとても真似出来ない。そもそもろくに会話に参加出来ていない。
現状は最悪だ。中木曽さんにも確実にリードを許している。僕は精霊に力を借りる事を即断した。今は月の中旬。次候の精霊が最も力を発揮する。
僕は小声で暦詠唱を唱える。
「······次候、鴻雁北(こうがんかえる)」
僕の頭上に、派手な柄の長衣を着崩した精霊が現れる。相変わらず雨も降っていないのに木製の傘を差している。
僕を見るなり、爽雲は長い眉を動かした。
「おやおや旦那。なんだか楽しそうな集まりじゃないか。俺を呼ぶ必要があるのかい?」
いつもながら、この爽雲からはやる気が感じられない。でも、今の僕が頼れるのは爽雲だけだ。
この場で爽雲に話しかけると、皆から不審に思われる。僕は心の中で爽雲に語りかけてみた。この状況の説明だ。こんな方法で彼に伝わるだろうか?
「なんだい旦那。自分の魅力だけで勝負出来ないのかい?」
つ、伝わった! 精霊達には心の中で会話が出来るらしい。思った通り皆には爽雲の姿は見えないみたいだ。二人を除いて。
中木曽さんが爽雲を見て僕に苦言を呈した。
「稲田君。こう言う場で誰かの力を借りるのはどうかな。実力で勝負しなきゃ」
な、中木曽さんの言葉は最もだ。でも、僕には他に手段が無い。弱者には弱者の戦い方でやるしかないんだ。
そしてもう一人。爽雲を不思議そうに見上げている少女。一時的に記憶を消された彼方だ。精霊は見えるが存在自体は忘れているらしい。
「ったく、仕方ないねえ。旦那、俺の言う通りにしな」
僕は不自然にならないタイミングで、爽雲の助言を実行した。ショートカットの短大生の女性に、座る姿勢がとても良いと言った。
続いて会社員の女性には、爪がとても綺麗だと言った。反応は、思いの外大きかった。短大生の女性は初めてそんな事言われたと言い微笑んでくれた。
会社員の女性も、爪には普段から気を使っているのと喜んでくれた。す、すごいぞ爽雲! 隣の中木曽さんが悔しそうな表情を見せる。
その後も僕は爽雲のアドバイス通り、女性達の話や考え方を控えめに讃えた。女性達の反応は大きくはないが、確実に僕を見る目が当初に比べ友好的になって来た。
中木曽さんの小声が響いたのは、そんな時だった。
「次候、蓮始開(はすはじめてひらく)」
中木曽さんが複雑な表情で暦詠唱を唱えた。さっき僕に言った言葉の手前、精霊を呼びにくかったのだろう。
中木曽さんの頭上に精霊が現れる。ん? あれは子供? その精霊はまだ五、六歳ぐらいに見える少年だった。
短い髪。大人しそうな顔。小さな身体には少し大きい黒い着物を着ている。草履を履く足が小さく見える。
これでお互い精霊を呼び出した。状況はどう変わるか予断を許さない。僕はまた爽雲に助言を求める。が、反応がない。
僕は上を見ると、爽雲は少年の精霊を見つめていた。その表情はいつもの緩んだそれではなく深刻そうに。また暗く沈んでいるように見えた。
「爽雲。どうしたの?」
僕は心の中で話しかける。爽雲は顔を下に向け、手のひらで顔を覆った。そして僕の心に語りかける。
「······悪いが旦那。帰らせてもらってもいいかい?」
と、突然どうしたんだ? あの少年の精霊が現れてからだ。あの少年と何か因縁でもあるのだろうか。
「いや。あの子供とは初対面だ。その子供って奴が俺は駄目なんだ······勘弁してくれ」
一体どう言う事なんだ? 僕には理解出来なかった。ただ分かるのは、爽雲が本当に辛そうにしている事ぐらいだ。
「······爽雲。そのいつも差している傘と、何か関係があるのかい?」
この時僕は、確証があってこの質問をした訳では無かった。とにかく爽雲から訳を聞く為の言葉を考えていたら、たまたま傘が目に入ったのだ。
「······旦那。俺はね。精霊になる前は普通に人間でね。役人をやっていたんだ」
爽雲か静かに、そして重い口調で語りだした。爽雲は、国の治水工事を司る部門で役人を務めていたらしい。
前年は豪雨が多い年で、各地の河が氾濫し
た。田畑が水没し多くの民が困窮した。今年はその轍を踏まない。
爽雲は強い決意で堤防工事に取り組んだ。爽雲は寝食を忘れる程仕事に没頭した。その甲斐あって、十分な対策を講じる事が出来た。
季節は台風の時期に入ったが、爽雲には自信があった。今年は被害は出ない筈だと。しかし爽雲に報告されたのは最悪の結果だった。
堤防が決壊し多くの民が流された。爽雲は急いで現場に駆けつけた。そこは地獄絵図だった。家が流され、まだ穂が伸びきらぬ田んぼが水没し溺死者がそこらじゅうに溢れていた。
死人のような顔をした爽雲の足元に、誰かが倒れていた。まだ小さい子供だ。手には紐が握られていた。流されないように親と握り合っていたのだろうか。
後で分かったらしいが、この堤防の設計は爽雲の設計とは差異があったらしい。爽雲は設計に万全を期したが、その通りに造られなかった。
爽雲は工事の現場に確認に訪れなかった事を後悔した。だが、その後悔は遅きに逸した。
少年を抱き上げた爽雲の肩に何かが落ちた。それは過ぎ去った台風の残り香のような霧雨だった。
霧雨は空を見上げた爽雲の顔に降り注ぐ。その雨に濡れるのがまるで罰かのように、爽雲はいつまでも立ち続けた。
「······旦那。俺にはね。あの時の雨がずっと降っているんだ。これまでも。これからも。永遠にね」
爽雲の過去の悔恨に、僕はかける言葉が無かった。僕みたいな子供が爽雲の心の傷を癒やす事なんて出来ない。
······でも。それでも。僕の中に熱量を帯びた何かが勝手に言葉を紡いでいく。その時僕の耳に歓声が聞こえた。
中木曽さんが手品を披露し、女性達が拍手をしている。どうやら子供の精霊の仕業みたいだ。
中木曽さんは長い紐を花束やシャンパンの瓶に変えていく。それらを女性達にプレゼントし、彼女達は驚きから笑顔になる。
テーブルの下に隠れるように座っていた子供の精霊の頭を中木曽さんは撫でた。子供は嬉しそうに顔をクシャクシャにする。
「······旦那。俺はもう疲れちまった。契約破棄でも何でもいい。俺を殺してくれないか?」
中木曽さんの持っていた紐が過去を想起させたのか、爽雲の表情は苦痛に歪んだ。この時の僕は、合コンの最中だと言う事を完全に忘れていた。
僕はソファーから立ち上がり、爽雲を見上げた。
「爽雲。死んだ人達はもう帰らない。君がどんなに苦しんでも。どんなに後悔しても」
僕を見下ろす爽雲の表情が暗く沈む。彼に降り続けるあの日の雨は、このままではやがて彼自身を底の知れない深海に引きずり込んでしまう。
「死なせてしまった人達より、多くの人達を救おう。このまま行けば、未来の世界はこの砂漠のようになってしまう。それを変えるんだ」
僕の説得に爽雲は言葉を荒らげる。
「旦那に何が分かる!? 俺はもう嫌なんだよ。世界の未来なんてどうでもいい。俺の! 俺の目の前に降るこの雨にもう耐えられないんだよ!」
「君が居ないと駄目なんだ!」
僕は声の限りに叫ぶ。爽雲は秀美な顔を歪ませ泣きそうな顔をしていた。これじゃあ色男が台無しだ。
「僕は取り柄の無い無力な子供だ。君達精霊の力がないと何も出来ない。何もだ! だから僕に力を貸してくれ! この暦の歪みを正し多くの人達を救おう。あの日、君が救えなかった人達の分もだ!!」
僕の頭は熱くなっていた。なぜだろう。精霊を呼び出した消耗のせいかな? なぜこんなに言葉がすらすらと出るのだろう。
爽雲は深くうなだれる。右手に持っていた傘の先は、いつの間にか下を向いていた。
「······旦那は、俺にこのまま生き地獄を味わえってんだな?」
「爽雲。君のその永遠の雨が止むまでだ。一人じゃない。それまで、僕も一緒に付き合うよ」
僕と爽雲は無言で視線を合わせ続ける。その沈黙は長くは続かなかった。
「······精霊に名前を付けたり、お節介を焼いたりするなんざぁ、やっぱり変わった旦那だね」
弱々しいが爽雲は笑みを浮かべた。僕も笑う。その時後ろから誰かの視線を感じた。僕は恐る恐る後ろを振り返る。合コン参加者全員が僕を見ていた。
し、しまった。僕は興奮していたせいか、爽雲への言葉が皆にだだ漏れだったらしい。皆が僕を怪訝な表情で見ている。
無理も無い。突然立ち上がり、訳の分からない事を大声で怒鳴ったんだ。僕はただの変な奴だ。
女性達の僕への心証も最悪な物に変わっただろう。僕は絶体絶命に立たされた。僕の肩を誰かが叩く。爽雲の手だ。
「旦那。どんな時も物は言い様だ。俺の言う通り言ってみな」
爽雲は片目を閉じ僕に秘策を与えてくれた。僕は藁にもすがる思いでそれを実行する。
「す、すいません突然叫んで。実は僕、役者に憧れていて。さっきのは、今練習している台本の読みなんです」
あれ? 皆の沈黙が終わらない。だ、駄目だったかな。
「そうなんだ。それにしても、すごい迫力だったね稲田君」
「うん。演技って考えると、何か胸に伝わる物があるって感じ」
ショートカットの短大生と会社員の美人さんが褒めてくれ小さく拍手してくれた。さ、最悪の事態は回避できたみたいだ。
彼方だけは黙って僕を見ていた。彼方には僕と爽雲のやり取りをどう感じたのだろうか。
茶髪とピアスの大学生が話題と雰囲気を変えようと皆に将来の目標や夢を聞いて行く。
「彼方ちゃんの夢や目標って何?」
「······特に無いかな。次の冬に私は死ぬから」
彼方は答えた後我に返り、今のは学校で流行っている冗談だと手を振り取り繕う。
······今、彼方は死ぬと言ったのか? 次の冬に?彼方はそんな冗談を言う性格じゃない筈だ。と言う事は、今の言葉は本当なのか?
僕は何故か心臓が冷たくなって行くような悪寒に襲われた。彼方が死ぬ? 爽雲に頭を叩かれるまで僕は固まっていた。
「時間です。これを持ちまして、合コンを終了致します」
エプロンを付けたタスマニアデビルの着ぐるみがテーブルの前に立ち、機械音の声で合コンの終了を告げる。
タスマニアデビルは六人に用紙を配る。この用紙にカップルになりたい人の名前を書くらしい。
だ、駄目だ。この合コンで僕は大して活躍していない。僕を選んでくれる人なんている訳がない。
敗北感に落ち込みながらも、僕の頭は彼方の言葉で一杯だった。そんな僕の気持ちをよそに、タスマニアデビルが僕の手元から用紙を回収する。
タスマニアデビルは用紙を素早く集計し、発表はすぐ行われた。
「今回は、一組のカップルが誕生致しました」
茶髪とピアスの大学生と、ショートカットの短大生の名が呼ばれた。僕と中木曽さんはカップル不成立に終わった。
勝敗の行方は、僕と中木曽さんの印象の良さで争われる。女性達には最初に配った用紙にカップル希望以外で、良い印象が残った男性の名を記入して貰っていたらしい。
まずはショートカットの短大生の用紙が読まれる。
「中木曽さん一票。手品が面白かった。稲田さん一票。あの演技の言葉が心に響いた」
続いての会社員の女性も僕と中木曽さんに一票ずつ入れてくれた。票は二対ニ。後は、彼方の票を残すのみとなった。
「出雲彼方さんの票は、稲田さんに一票。あの叫んでいた稲田さんが格好良かった。少しだけね」
か、彼方が僕に票を入れてくれた! と、言う事は。
「小暑一族代表二票。清明一族代表三票。よって今回の決闘は、清明一族代表の勝利と致します」
カピバラが僕の勝利を宣言した。か、勝ったのか。今回は本当に勝った気がしないや。
今回の合コンに巻き込まれた三人は、タスマニアデビルに伴われ歩いていく。中木曽さんもそれに続く。
僕は中木曽さんに挨拶と同時に、暦の歪みを正すよう命じ、その指導監督をタスマニアデビルに一任した。
「今の仕事は時間に追われ、余裕が全く無くてね。その仕事から離れられるのは、正直ホッとしているんだ」
中木曽さんはどこか安堵した様子だった。僕は頭を下げる。
「中木曽さん。今回の合コンは、色々勉強になりました。ありがとうございます」
「······稲田君。さっきの女性の言葉じゃないけど、君の言葉は人の心に響く。案外、役者に向いているのかもね」
そう言って中木曽さんは去って言った。僕は精神の消耗のせいか砂の上に座り込んだ。
「旦那。俺は今回何の役にも立たなかった。悪かったな」
爽雲がいつのまにか僕の隣に座っていた。彼の傘は、いつの間にか畳まれていた。
「そんな事ないよ。爽雲の助言通りにしなかったら僕は負けていた」
爽雲は砂の上に寝転がり空を見上げた。
「······お天道様ってのは、こんなに明るかったんだな」
爽雲は眩しそうに目を細め、ゆっくりと立ち上がった。
「旦那。取り敢えず。取り敢えずだ。アンタの道楽に少しだけ付き合うよ」
「······爽雲。ありがとう」
爽雲は片手を上げ去って行った。彼の雨が一日も早く止むように僕は願った。
「ちょっと稲田佑。決闘はどうなったの?」
聞き慣れた声が後ろから聞こえた。僕は慌てて立ち上がる。純白のセーラー服を着た少女が、不可解な表情をして立っていた。
「······彼方。催眠術はもう解けたの?」
「催眠術? 一体何の事よ?」
僕の胸の中に自分でも説明不可能な感情が渦巻き、滝を逆流するかのように込み上げてきた。その流れは勢いを止められず、言葉となって僕の口から飛び出した。
「······彼方。次の冬で死ぬってどう言う事? どう言う意味なんだ!?」
「······何ですって? 稲田佑。なんで、なんでアンタがその事を知っているの?」
彼方が動揺している。そんな姿を見るのは初めてだった。
「どう言う事か教えてくれよ!!」
「······稲田佑」
爽雲が見上げた空には、一際大きく見える太陽が輝いていた。僕の胸の中は、その太陽とは対照的に暗く。暗い闇に覆われていた。
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