第4話 天啓
風呂と食事を終えた2人と1匹は、いよいよ就寝の時間になるのだが……。
「お、おれ。床で寝るからっ! ロージーはゆっくりベッドで眠ってくれよ!」
「だ、駄目よ! いまはもう10月半ばなのよ? クロが風邪を引いたら、わたし、とっても困るのよ!?」
クロードがさすがにロージーと同じベッドの上で眠るのはまずいだろうと思い、自分は床で寝ることを提案するのだが、ロージーとしてはそれは無体すぎるだろうとベッドの上で寝るようにと、クロの提案を却下するのであった。
そんな2人を差し置いて、ネズミのコッシローはさっさとベッドの上にダイブしてしまう。しかもだ、ど真ん中を占拠してしまうのである、このネズミは。
「ちゅっちゅっちゅ。さっさと寝るでッチュウ。クロード。キミはロージーと『結婚するまで清い関係でいましょ?』と『誓約』を交わしたんでッチュウよね? もし、クロードがロージーちゃんに手を出そうものなら、何かしら、ヤオヨロズ=ゴッドから『罰』を受けるから安心するでッチュウ。おやすみなさいでッチュウ……」
コッシローはそう言うなり、クコークコーと寝息を立てて、深い眠りへと落ちていくのであった。クロードは、むうううと唸るしかなかった。確かにこの生意気なネズミ野郎の言う通りなのだが、クロードも男だ。ヤオヨロズ=ゴッドに『罰』を受けない形でロージーとお肌とお肌の接触を図ろうという、いやらしい気持ちはもちろんあったのである。
それをあっさりとコッシローに看破されてしまうクロードとしては唸る以外、方法はなかったのであった。クロードはせめてもの仕返しとばかりにベッドのど真ん中を占拠するコッシローをひょっいと右手で掴み、そっとベッドの端ギリギリに置くのであった。
(寝返りでもうって、ベッドから落ちてしまえっ!)
クロードとしては珍しい思いであった。それはさておき、クロードはツインベッドの上のなるべく左側へと身体を預ける。ロージーはロージーでツインベッドの右側で横になる。
2人は互いに背中を向け合って横になっているのだが、互いに心臓の鼓動はドクンドクンッと跳ね上がっている。
(ど、ど、どうしよう……。もし、クロードがわたしに触れてきたらっ。い、一応、勝負下着の紅い紐パンは履いてきたけど……。じゃなくてっ! 下手にクロードがわたしにいやらしいことをしてきたら、クロードとの『婚約破棄』になっちゃうのかしら!?)
ロージーとしては、クロードのごつごつとした男らしい手で自分の身体に触れてほしいと思いながらも、半面、『婚約破棄』になってしまっては大変だという思いもある。『婚約破棄』となったモノたちは、今生において、再び『婚約』ができないようにとヤオヨロズ=ゴッドがあらゆる手段を使って、2人の仲が深まるのを邪魔すると人々の間では伝えられている。
それほどまでに、ヤオヨロズ=ゴッドは『約束』を重視するのだ。教義自体は穴だらけなくせに、『婚約』などの『約束』ごとにはほとほとに厳しいのである。それもあり、神前で『約束』をする時にはその文言には気をつけねばならない。ロージーとクロードはその身をもってして、融通の利かないヤオヨロズ=ゴッドの被害にあっているのだ……。
とにもかくにも、ここ1週間、生花売りに従事してきた2人だ。疲れが相当に溜まっていたのであろう。ロージーたちはやがて睡魔に勝てず、深い眠りに引きずり込まれるのであった。
2人と1匹が眠りについてから3時間ほどした時であろうか。ふと、クロードが尿意をもよおし、パッと目が覚めてしまうのである。
「う、うーーーん? ちょっと、飲み過ぎたのかな? まだまだトイレが近くなる歳でもないはずなんだけどなあ?」
クロードがロージーを起こさぬようにと真っ暗な部屋の中で、ゆっくりと身体を起こそうとする。だが、左腕が何か柔らかくて暖かいものに包まれてしまい、まったく動かせないことに気づく。
(んんん!?)
クロードは自分の身に起きていることが何であるかを、なるべく言葉にしないように振る舞うことに努めたのだ。それもそうだろう。言葉に出せば、間違いなくヤオヨロズ=ゴッドに『罰』を受ける状況下にクロードは置かれているからだ。
部屋の暗さに目が慣れてきたクロードが薄っすらとだが見えるのは、クロードの左肩には、だらしなくヨダレを垂らしながら、クークーと可愛い寝息を立てるロージーの頬がくっついていた。
なぜ、暗い部屋の中でロージーがヨダレを垂らしているのかがわかるかと言うと、クロードの服の肩の部分が濡れていたからである。ロージーを泣かすような真似はしてないので、ヨダレで間違いないだろうとクロードは結論づけたのである。
次にクロードの二の腕部分には、ロージーのおしとやかでやわらかいおっぱいが押し付けられており、さらにはロージーが両腕で抱え込んでいる状況だ。しかも左手はロージーの太ももの間にがっちりキャッチされている。
クロードの左手が弾力がありながら、それでいて柔らかいロージーの太ももに挟まれているために、じんわりと汗がにじみでてしまう。同時にクロードは背中から冷や汗がだらだらと浮き出てしまう。
(やばい……。やばい……。俺の左腕って、もしかしたら、ヤオヨロズ=ゴッドによって、ただの肉片に変わっちまうのか!?)
「う、うーーーん。むにゃむにゃ……。クロード、お腹いっぱいだよおー。もう、食べれないよー」
ロージーがクロードのことなどおかまいなしに悠長に寝言を漏らしているのであった……。
それから朝まで3時間、クロードは一睡も出来なかったのである。眼と身体のある部分はギンギンであったのが幸いしたのだろうか? クロードは御年27歳になってまで、ベッドで失禁をすることはなかったのであった。しかし、クロードは生きた心地がまったくしなかったのである。
やがて、朝日が昇り、どこかの家の鶏が『コケコッコー!』とけたましく鳴く。新しい1日の始まりを告げるのであった。ロージーはその鶏の鳴き声をうるさそうに顔をしかめ面にするのであった。そして、寝返りをうち、クロードからやっとその身を離す。
(た、助かった……。これって、ロージーが寝てて、不可抗力なことが俺に起きたから、ヤオヨロズ=ゴッドがお目こぼしをしてくれたのかなあ……?)
クロードは3時間、我慢し続けた尿意を解き放つために、宿屋のトイレに向かおうとしたのであった。ベッドから身を起こし、ロージーたちを起こさぬようにと、そっと部屋のドアを開ける。
するとだ。ドアの隙間から白い小さな長方形の紙がパサッと床に落ちる。クロードは、うん? なんだ? と思いながら、その小さな紙を拾い上げて、何気なくその紙に書かれている文章を読むのであった。
『運が良かったな? 小僧』
クロードはそれがヤオヨロズ=ゴッドからの
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