第11話 抜け道探し

 ローズマリーとクロードは火の国:イズモ特有の暖房器具であるコタツとやらに下半身を入れつつ、コタツ机の上にある鍋の中身を箸でつついて、ホフホフと食べていた。コタツのサイズはかなり小さめであり、ちょっと足を動かすとロージーの膝がこつんとクロードのスネに当たってしまう。


 ローズマリーはコタツって、何だかやらしいな……と思いながらも、あまり気にしないようにしつつ、鍋から小鉢に肉と白菜を移しながら、もぐもぐと食べる。


「あの、その……。ヌレバ師匠に勧められてコタツを購入したのはいいけど、ちょっと、小さすぎたかな?」


 クロードが何を言わんとしているのかを、ローズマリーが一瞬で理解し、顔をボンッと赤らめるのである。


「クロードのスケベっ! わたしの足がクロードの足に当たるのがそんなに嬉しいの!?」


 ローズマリーのツッコミを喰らったクロードが右手に箸を。左手に小鉢を持ったまま、ははっと照れ臭そうに笑うのであった。ふたり用サイズのコタツということもあり、お互い、足を延ばした状態には出来ない。それゆえ、ローズマリは正座を崩した感じの女の子座りで、対してクロードは胡坐でコタツ布団の中に足をつっこんでいたのである。


 コタツを買った当初はクロードが遠慮がちに腰を引けさせていたので、クロードの腰の辺りで布団と床に隙間が出来て、コタツ内の熱が外に逃げ出してしまって、ローズマリーの足はちっとも温もらなかった。


 コタツ内に入り込む寒気に業を煮やしたローズマリーは、クロードに自分の膝とクロードのスネが当たるくらいにコタツの中に足をつっこみなさいよ! と命令したことがあった。それからクロードは『罰』を当てれませんようにと祈りながら、深々とコタツの中に足を入れるようになったのである。


 コタツの中では、2人の足と足はほぼ密着している形となっており、鍋をつつこうとするたびに、お互いの足はこつんと軽く当たり合う。クロードとしては、ロージーの膝が自分のスネに当たり、こそばゆく感じるのであった。


「なんか、いつもより、ロージーを近く感じられるっていうか……。コタツと鍋って、何だか良いな!?」


 クロードが照れ臭そうでありながらも、破顔してローズマリーに言いのける。


「ど、ど、ど、どうせなら、お互い、足を延ばしてみ、み、みる? ほ、ほ、ほら。わたしが左側に向かって足を延ばして、クロードがわたしから見て、右側に足を延ばせば、この小さなコタツでも上手いこといけると、お、お、思うのよね!?」


 それは互いの足と足を並べ合い、もっと体温を感じ合おうという、ローズマリーなりの精いっぱいのクロードへの誘いであった。クロードもロージーが何を言わんとしているかは十分に理解しており、ごくりと唾を飲み込んでしまうのである。


「い、良いのかな? ヤオヨロズ=ゴッドが怒って、俺に『罰』を与えてきたりしないかな?」


「コタツの中で足を触れ合うのは、し、し、仕方ないことでしょ!? でも、コタツが上に乗っている鍋ごと噴き飛ばないように、まず、食事を済ませてしまいましょ!?」


「お、おう、そうだな……。しかも、そうなった時は鍋の中身が全部、俺のほうに向かってくるのは自明の理だもんな……」


 『婚約』時の『誓約』を破るような行動を起こせば、『罰』が降りかかるのは基本的に男性側のみであることが、ローズマリーとクロードの経験則でわかってきたことである。2人は昼食の分を食べ終わった後、半分ほど中身が残った土鍋に厚手の蓋を乗せて、台所の作業スペースにあるテーブル上に移すのであった。


 その後、コタツの両端で対面に正座し合う2人である。まずはローズマリーが足を延ばした状態でコタツの中に足をつっこむのであった。


「じゃ、じゃあ、次はクロードが足を延ばした状態で入れてみて?」


 お、おう……とクロードは足をくずし、かがみ込んだ状態でコタツ布団をめくる。するとだ。コタツの中では厚手で長めのチェックのスカートがめくり上がり、薄手の肌色のストッキングに包まれたロージーの足が覗き見えるのであった。


 クロードはそのなまめかしい両足(特に太もも)を注視してしまい、またしてもごくりと生唾を飲み込んでしまう。


「ちょ、ちょっと! なんで、そこで生唾をごくりって飲んでるのよっ! このスケベっ!」


「い、いやいや。俺はどうやって、ロージーの足に触れないように自分の足をつっこんだら良いかな!? って思って位置取りを考えていてだな!?」


「ほ、本当にそうなの……?」


 ローズマリーの訝し気な視線を感じるクロードであるが、コタツの中で、ストッキング越しではあるが、彼女の太ももを眺められることに心はかなり踊っていたのである。


 いかんいかん。これ以上、眺めていたら、確実にヤオヨロズ=ゴッドから『罰』を受けてしまうと思ったクロードは惜しいと思いながらも、足を延ばした状態でコタツの中に自分の足をおそるおそる入れていくのである。


 今、コタツの中ではロージーの右足とクロードの右足が密着している形になっていた。これにより、ローズマリーの打ち立てた仮説が正しいことが実証されたことになる。


「ほらっ! やっぱり、コタツの中で足を触れ合うのはヤオヨロズ=ゴッドでも致し方ないって思ってくれているのよっ! クロードは痛みとかを感じないでしょ?」


「あ、ああ……。そうだな……。意外といえば意外な気もするけど、コタツの中で足が触れ合うのはしょうがないことだもんなっ! いやあ、ヤオヨロズ=ゴッドも気が利くってもんだ……」


 2人はヤオヨロズ=ゴッドのお目こぼしをありがたいわと感謝しつつ、お互いを求め合うかのように右足同士をもぞもぞと触れ合わせるのであった。


 ローズマリーはうふふと笑みを浮かべながら、エイエイッ! と右足の甲の右側部分でクロードの太ももをこする。クロードもエヘヘと破顔しながら負けじと同じようにロージーの太ももに右足の甲でこするのであった。


 さらにローズマリーが調子に乗って、深々とコタツの中に足を入れた状態で、かかとでぐりぐりとクロードの太ももの上側をこすっていた。しかし、ここでアクシデントが起きる。ロージーのかかとがクロードの股間にヒットしたのである。しかも、クロードは密かに股間を膨らませていたのだ。


(え!? この硬いのは何っ!?)


 ロージーは太ももの感触から、いきなり違和感を感じてしまう。ズボン越しとはいえ、彼女は生まれて初めて男性のソレに触れたのである。ロージーが違和感の正体に気づいた次の瞬間であった……。


「痛い! 竿が折れる! 折れる! 折れる! 袋の中身が潰れるううう!」


 クロードはいきなり襲ってきた股間への強烈な痛みで口から泡を吹き、股間を両手で押さえながら気絶するのであった……。

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