第一章〈4〉天野 翔
その提案を聞かされたのは興奮冷めやらぬ昼休みのことだった。
「〝シャーリー〟
ふざけてるんだと思った。三つ目のパンを開封しながら
「
「ちょっと待て。そのシャーリーって、あのシャーリーか?」
「あのシャーリーだ」
〝あのシャーリー〟とは電車内に出没する、
「〝私、シャーリー〟」
「まずそう名乗るらしい。そしてこう
「いや、気持ち悪いよ」
「〝愛してる〟の
その横顔に
「けど、
「法で裁けるものだけが犯罪か? 罪に線引きなんて
生徒の間で、シャーリーの目的は『セーラー服』ではないかともっぱらの
一部の男子は「ゴリラが着ても
チャコールカラーの制服は胸下まで届く白い大きな
しかし、
そんなことを
「面白そうだろ? 俺たちが捕まえるんだ。
面白さを追求するために僕を利用するってわけか、
「決行はいつ?」
「今日」
放課後、被害の出始める時間帯まで作戦を練り、僕だけセーラー服に着替えた後、
「次のコーナーだ!」
言いながらドタドタと
少し
「テレビに映るぞ!」
訳が分からなかった。
話を聞くと、どうやら次のコーナーが『七重市民のお立ち台』という二人以上で参加できる一般参加の部らしく、
「マジでカワイイじゃん」ディレクターが僕を見て
僕が地声で
「いいね! 最高だよ! 今日のMVPだ!」
ディレクターが変なテンションのままCMが明け、僕らは『お立ち台』という名の簡易ステージに上った。僕は
司会がルールを説明している。『お立ち台』は思ってること、伝えたいことを七重市民のお茶の間に叫び散らすための人気コーナーらしい。告白OK、宣伝OK、漫才OK、ストレス発散OK、下ネタNG。時間は一分。
緊張しなかったのは隣に
僕が女声で「リンゴよりナシが好きです」とかどうでもいいことを言ってる内に時間が迫り、
「メリークリスマス!」
「最後のアレ、君の夢と関係あるわけ?」
改札口の
「俺はサンタになりたいんだ」
「うんと小さい頃はプレゼントに肉をくれる
ホームは帰宅途中の人々で
「この世はつまらないね、そんなことを叔父に言うと鼻で笑われた。お前の方がつまんねえ、退屈なら面白くしてみろ、そうも言われた。俺は自分に足りないものが何かを探し続けたよ。そうして去年の十二月、
「何?」
「
「腹の底にあるもの、万事の動力源だ。勉強、スポーツ、恋愛、女装、シャーリー退治……
「今の
「もちろん。街で
誰のこと? 聞いたが反応はなかった。
ちょうど電車がやって来て、人の流れが僕らを車内へ押し込んだ。
電車が動き出した。
「
僕らは乗車口に近いところで
僕らの作戦は単純で、乗客密度の高い各駅を周るというもの。客が減る、降車する、上り(下り)列車へ乗り換え、客を補充する。これを繰り返す。最も利用客の多い『七重
一時間
「どうして留年したの?」
自販機で買ったコーラをホームで飲みながら僕は聞いた。ずっと気になっていたことの一つだった。気まずい質問だったが、
「好きな子ができたんだ」
「……え?」
「二年の春だ。新入生の女の子に
耳を疑った。〝
「それってもうストーカーじゃないの?」
言うと
「俺は恋に
「ということは、今僕らと同じ学年だよね? 何組? 同じクラス?」
「クラスは隣だ、一応」
「さっき言ってた〝あの子〟って……」
「俺が
「どういう意味……?」
「いずれ
また
夢中になるのはいいことだ。それを
乗り込んでから十数分後──突然だった。お
これは断じてシャーリーの手口などではない。変質者どころか本物の
声が出ない。不安と恐怖が
隣に立つ
視線を下ろすとお尻に伸びる何者かの腕が見えた。下半身をまさぐる
「バレた?」
生まれて初めて人を
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