第一章〈2〉天野 翔
僕も彼は
今日の一件でさらに見方が変わった。
だが……秘密を知られた以上は口止めするしかない。
「今日のこと、みんなには
「違う。〝内緒だよ?〟……やり直し」
気持ち悪かった。
「真面目に聞いてくれ。僕の女装は内緒に……」
「なんで?」
「学校へ行けなくなる」
まさか! かぶりを振る
「
「ありえない」
「なんで悲観する? こんな美人なのに。学校だけじゃない、雑誌やテレビにも出られるぞ」
耳が熱くなる。乗せられてるようで
「居場所なんかどこにもないよ」
思わずムキになった。
「女装に対する世間の目を知ってる? 〝気持ち悪い〟だよ」
「そりゃ偏見だ。
「チワワにウエディングドレス着せるのと大差ないよ」
「……もったいないなあ。美人なのに」
そっぽを向くともう何も言ってこなかった。
間もなく料理が運ばれ、テーブルは六人分のオーダーで埋まる。
パスタ、パスタ、ハンバーグ、チーズハンバーグ、オムライス。僕のパフェ。
「食べ過ぎでしょ」
女声で指摘する。周りからはカップルに見られるんだろうか? あまり考えたくない。
「今日は……運動して……腹が減った」
大食い野郎にありがちな口いっぱい詰め込むスタイルでパスタをこぼしまくる。
「気になってたんだけど……その
「ホームセンターで加工してきたんだ。
見れば分かるよ。言ってやりたかったけど、やめた。
「前カゴに植木
窓から駐輪場に
「花を育ててるんだ。ああやって持ち歩けば陽に当てられるし水もやれる。頭
「変わってるね」
僕は今持ち得る最高の
「荷台の箱には何が入ってるの?」
自転車のキャリアに木箱のようなものが積んである。
「あれはレコードプレイヤーさ。ペダルを回すと音楽が流れるように改造してある。針が飛ばないよう
「レコードは何を聴くの?」
「ボレロ」
「いい曲だよ、ボレロは。タン、タタタン、タタタン、タンタン~♪」
指揮棒よろしくナイフを振り始める。
「繰り返される二つのメロディ、繰り返される一つのクレシェンド。まるで俺の日常そのものだ」
「毎日が同じ繰り返しってこと?」
その顔から笑みが消え、食べることさえやめた。怒っているのか、まぶたの肉で目を細める。
「
「なんとなく分かるけど……」
「ボレロの
……驚いた。
そうして、僕は初めて
彼の考えを一つでも多く知っておきたい……気付けば
「
僕は期待を込めて聞いた。
「俺はいつだって全力さ。手は抜かない。死ぬ気でやるんだ」
「いつ死んでもいいように、とかそういうことじゃないんだ。むしろ逆、生きる
「
「夢だよ」
「夢は愚かじゃないよ」
「愚かさ。愚かで、美しい」
「
「サンタになって空を飛んでやる」
……確かに愚かだ。
「どうしてサンタなの?」
「いないと分かったからさ!」
「
「飛ぶにはまず
「……努力しよう」
「
「俺は君を〝気持ち悪い〟だなんて思わないよ」
四年間の努力が報われるような
「だから」
だから……?
「
参った。こいつは
「なんでそうなるの?」
「もったいないだろ」
「もったいない……?」
「じゃあこうしよう。俺も女装してくる。二人でやろう」
「待っ……」
「決まり!」
百キロの
「気をつけろ。十秒後にでかいのがくるぞ」
何のことか分からず、満足そうに走り去っていく大きな背中を見送った。数秒後、強風が
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