スカートのなかのひみつ。
宮入裕昂/電撃文庫・電撃の新文芸
スカートのなかのひみつ。
第一章
第一章〈1〉天野 翔
第一章
五月五日
パンプスの
──瞬間、初めて化粧を
始まりは音だった。
空を見上げ、風に耳を澄ます。風は音色を帯びて次第に
──瞬間、姉のスカートでダンスに興じた三年前を思い出した。
予感がした。
遠い風のうなり。うなりは質量をまとって建物をこすり、重く強く背中を
──瞬間、
中身丸出しのままワインレッドの視界に
──瞬間、自分は〝
失いたくなかった。積み重ねてきた努力が
顔を上げるや、僕を取り巻く
「お前、
「ぁの……違います」
テンパって地声をひねり出す。そいつは「やっぱりな!」と大喜びだ。
あっさりバレてしまった。女装を始めて四年目、高三の五月……
男の名は
なんせ僕の知ってる
「なあ」
放心しているとぐいぐい迫ってきた。笑っている。
「今からお茶しない?」
まさかナンパされるとは思わず、僕は
落ち着こう。
ご注文はお決まりでしょうか?
「
いつも通りの声で注文する。
「どういうカラクリだ?」
僕の声に驚いている。
「練習したんだ」と地声。
「私って
すげえすげえと何度も
「俺を〝ブタ〟と
「お前みたいなブタは靴底に付いたガム以下よ!」
僕はつまらない。家に帰りたい。いや土に
「女装は趣味なのか?」
「そうだけど……毎日やってるわけじゃない」
僕は
「すげえな、マジですげえよ。女にしか見えなかったしさ。スカートめくれた時の顔最高だったぜ? 俺さ、
少し
彼と出会ったのは一年前、二年へ進級した春だった。
その体型は優に百キロを超す巨漢……もとい〝デブ〟
クラス替えで一緒になった大男は授業初日にさっそく
「俺の名前は
つまり進級できなかった、ということらしい。理由は分からないが、留年生の多くは成績不振か登校不足のはずで、そうなった者は学校をやめる場合がほとんどだ。
やめなくても
彼はいわば〝モテるデブ〟の要素を備えた
人を笑顔にさせるユーモアがあり、楽観的でお調子者。先生の寒いギャグを誰より大きな声で笑った。
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