88.曰く、無垢な少女、奮闘す。
スキルとは、要するに
剣技や身体強化、耐性や隠蔽etc.
その数は多く、使用方法によっては戦局を左右する事もある。
大きく分けて種類はニつ。
取得した後は常時発動したままになる、俗に言うところの "パッシブスキル"。
そして、身体強化や特定の剣技の様に、選択して初めて発動する "アクティブスキル"。
アクティブスキルには、一度使ったら一定
もちろん、それはゲームの中だけの話。
先攻、後攻で1ターン。お互い殴り合ってフェアに行こう……なんて、現実じゃああり得ない。
打ち込めば打ち込むだけ強い。殴れば殴った数だけ有利になる。
素直に攻撃される必要はない。避ければ避けただけ、勝機は増える。
「そういう
真っ赤に染まった身体強化と武器強化のスキル群。再度使用不可を示す赤文字が出たのなら、やっぱり時間制限はあるんだろう。
思考を巡らせながら、頭上に振り下ろされる
分厚い脂肪と、みっちり詰まった筋肉の抵抗が、ただでは斬らせまいと抵抗するのを感じてしまう。
「短期決戦……しかない、よね……! 三匹目っ!」
「シキミ、伏せて」
「はひっ……!」
本能に従い、シキミは土下座もかくやという姿勢で地面に伏せる。
その直後。ジークの振るう刀から、光る斬撃が弧を描いて
シキミの背後にいた、四、五匹のオークを薙ぎ払い。そのまま頭上を通り過ぎた斬撃は、木々に深手を負わせて霧散した。
しとどに濡れる、大きく
「……手っ取り早くていいのですが、やはり仲間を巻き込んでしまうのは感心しませんね、コレ」
「く、首がトばなくて良かった……!」
「最悪、頭の先がちょっと切れるぐらいの高さですから。大丈夫ですよ」
「ジークさん。ソレ人間は死にます」
本気か冗談か、いまいちわからない言葉のやり取りを合図に、二人は再び動き出す。
背を合わせ、離れ、交差して。
まるで、舞踏会でダンスを踊る男女のように。血の花を咲かせ、彩る二人は
不格好なステップで、亜麻色の髪の乙女は踊る。黒髪の王子のリードで、お姫様は
二人の死の舞踏は、着実にオークの数を減らし、赤が舞う度、潰れた断末魔が
シキミの両手剣は、最後の一匹の心臓を真っ直ぐに貫いた。
小さく呻いて、やがて動かなくなったソレから剣を引き抜けば、熱い血潮がシキミを濡らす。
何匹分もの血を浴びて、シキミの髪はすっかり原色を失っていた。
街道の、
もう、道を囲う木々は戦いの気配を失い、すっかり静かになっていた。
「……ふぅ。討伐完了……ですね」
「いきてる……しんでない……」
「はい。よく頑張りました」
そっと頭を撫でる感触に、ふと気が抜けて泣いてしまいそうになる。
──怖かった。何度戦ったって、何度敵と
戦争なんて知らずに生きてきた。誰かが死ぬのはテレビの向こう。いつか自分が死ぬかもなんて、馬鹿な夢想か妄想だった。
それでも、私は戦った。
戦って、生きている。今はもう、それだけでいい。
たかがオークと笑うがいい。無知で無垢な少女の、
──そんなことを、誰に向けるでもなく、つらつらと考えて。シキミはまた、ふぅ、と大きく息を吐き出した。
ジークと顔を見合わせれば、黒い瞳が微笑する。
一緒の場所で戦っていたとは思えない程、彼は綺麗なままだった。正しく一糸乱れぬ姿。
一方のシキミは、いつぞやの "血濡れの少女" 再びである。
うふふ、と照れたように笑い合ったその時。ほんの少し、遠くから「おーい」と呼ぶ声がした。
「無事かー!?……まぁ無事だよな」
「怪我してないでしょうね~!?」
テオドールとエレノアが、グリフォン達を引き連れて、街道を真っ直ぐこちらへと向かってきていた。
なんだか、酷く懐かしいような気がして駆け寄れば、打った背中が
「あらあらまぁまぁ……こんなになって……」
「またキレーに血ィ浴びてんな……」
「……無事で何よりだ、小さき子よ。アルニラムとアルニタクも心配していた。後で存分に構ってやってくれ」
テオドールとエレノアの後ろ。二匹のグリフォンが、同意するように「ぎゅい!」と鳴いた。
近づいてきたエレノアに、杖で頭をコツンと叩かれる。
全身を通り抜けた
爪の奥にまで入り込んで、こびりついて固まっていた血も、全身を覆っていたオークの残骸も、綺麗さっぱり消え失せたのがわかる。回復と、浄化の魔法だろうか。
「よく頑張ったわね」
そう言って、優しく微笑んだ美しい魔女は、ジークに向けて「突然飛び降りるのは無しでしょ!?」と怒鳴った。
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