83.曰く、魔の喚笛。あるいは、ペットは飼い主に似る。
「では、早速向かいましょうか。目指すは古代王の
おーっ! と声を上げたテオドールとエレノアに一足遅れ、シキミもやや
「その
「かなり西の方ですね。
「馬車でどれくらいかしらね……? 休憩挟んで四日、五日ってところかしら?」
初めて聞いた大陸の名前、そして、思っていたよりも遠出になりそうな気配に、シキミはそっと身構えた。
なんせ、以前は置いて行かれた遠出である。野営とか、不寝番とかするのだろうか。──ちょっと根に持っている。
「
「んー? 必要ねぇよ、女将は慣れてる。シャウラだってもう嗅ぎつけてんだろうし、何かあったら誰か飛ばして来んだろ」
それに、とテオドールが
妙に明るく、無邪気なその笑顔に、一抹の不安──嫌な予感を憶えながら、ゴクリと唾を飲み、彼の言葉を待つ。
「今回はコレ、使うからよ」
そう言った彼の指には、小指ほどの大きさの、小さく細い筒が
首から、冒険者カードと共にぶら下げられている、犬笛のようなそれ。
柔らかな象牙色で、装飾も少なく
他の二人へと目を向ければ、大変よろしい笑顔で、胸元に揺れる "同じもの" を指差していた。
「……何ですか?ソレ」
「
「ンマッ……魔物!?」
思わず裏返ってしまった声が恥ずかしくて、慌てて口を抑えるが、声は出てしまった後である。
ひっくり返った驚きは、真っ直ぐジークたちに伝わったらしい。ふふ、と漏れたような小さな笑い声に、顔から火が出るかと思った。
「大丈夫ですよ。魔法で縛って……いえ、契約して……と言った方が良いのかも知れませんが。
「は……はぁ。割と安全なことはよくわかりました……けど。何を喚ぶんですか?」
「グリフォンです」
「ぐりふぉん」
グリフォンというと、アレだろうか。飛ぶやつ。
羽が生えてて、なんかちょっと強そうなやつ。
──ヒッポグリフではなく、グリフォン。
彼らが「騙してやろう」という魂胆で動くわけもなし。となれば本当なのだろうとは思うのだが、しかし。
「ここで喚んでもスペースがありませんし、一度平野の方に出ましょうか」
くるりと背を向けた彼の、
空気ごと従えてしまいそうなその人は、さっさと街を出る門へと向かって行ってしまった。
そもそも、こんな往来で魔物なんて喚んだら、きっとそこら中大騒ぎだろうに、そこでスペースを真っ先に考慮する辺り彼らしい。
「ジークの子が一番大きいから、今回は彼にのせてもらいなさいな」
「一番いい子だしな。どこぞのじゃじゃ馬グリフォンと違って」
「はぁ? 何よそれ。うちの子はテオの子と違ってお育ちが良いのよ!」
「いや育ち一緒だからな?」
これはもう絶対に、ペットは飼い主に似るという説を見事に証明するアレかもしれない……と、シキミは不安な目を空に向けた。
シキミの心を知ってか知らずか──晴れ晴れとした、良い空であった。
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