窮すれば通ず
モーカの反対
それから一週間たった。
デイドは夜空を見上げていた。
移動に五日かけた間に、デイドは十人一組みの組織化を徹底させた。
七十出来上がった組みはそれぞれデイド、ベーラー、バチェ、クロガネ、ソウエイ、アーヴィ、モーカが長とし、それぞれ指揮系統を統一させた。
アーヴィとモーカにはシャーマンの集団を任せていた。
その他の集団はアジータもワンユもソペニアもなく一様に振り分けていたがシャーマンの集団も含めて、十人長にはソペニアの者は居なかった。
デイド達は文字をもたなかったが記憶力はよく、それぞれの配下の顔はすぐにベーラーも含めてすぐに覚えていた。
おかげで均等に振り分けられた食料は効率よく分配されたし、あらたな拠点とするために運んできたワンユとアジータのラークを組み立てるのも合理的に行われた。
敵が目の前にいたソペニアの本拠は放棄していたのだった。
各地に散っていたワンユの兵もコーネストへの斥候だけ残して集結していた。
移動中の食料の手配や、バラバラになってしまったもの達やアジータとワンユの非戦闘員の統率はソウエイが行った。細かな配慮ができるソウエイをデイドは重用したのだった。
二日の間にラークの組み立てと、当面やるべきことの簡単な役割分担は終わっていた。
しかし、これからの方針を首長同士で話し合うまでには未だ至っていない。翌日の早朝で主だった者たちで話し合いが行われる予定だった。
デイドは手を伸ばしても決して届かない星に思いを馳せる。ズゼンがいったと嘯いた己の将星などというものは一体どこにあるのだろうかなどと考えていると、背後に人の気配を感じる。
「モーカ?」デイドが呼びかけてもしばらく黙ったいた。
「デイド、ソペニアに降りましょう」
モーカにしては珍しく、直接的な物言いだった。
「シャーマン達は争いを恐れています」
モーカは率いることになった出身部の仲間たちから懇願されていたのだろうと、デイドは思った。だが、デイドの考えはそのもの達を
現にモーカは語った。あるシャーマンの親子は争いによって悲惨な目にあったこと。そしてその恨みと願いを直訴してきたというであった。
デイドはその話を聞いて、ふとあの誠実そうな青年のことを思い出していた。彼は人知れず消えていた。
デイドが自分の話を聞いていないと感じだのだろうか、モーカは無言で一歩近づいた。
「仲間は護る」
「家畜はすべて殺されていたのは、ソペニアの謀略だったのでしょう。そしてその亡骸は腐りました。ソペニアの手のものが使った護符は恐ろしい。保存用の干し肉もおなじように……。人数が倍になったのです。ワンユの蓄えもそう多くないはず」
「なんとかする」
「ソペニアが持つ帝国の護符というものは、本当に恐ろしいのですよ?」
「なんとかなる」
「あなたはもう、宝具をもっていないのに?」
デイドは言葉を飲んだ。取り返すというのは、デイドの身勝手な願いに過ぎないのだ。仲間を護りたいならそのような危険は犯せない。
「ソペニアと抗争は始まるだろう」
それを辞めましょうとモーカが言っているのはもちろんデイドはわかっている。それでもソペニアの元へいったとして、皆が幸せに暮らせるなどとは到底おもえなかったのだ。
「あの戦い、ソウエイに任そうと思っていた」
モーカは黙って聞いている。
ソウエイが戦う姿勢を示さなければ、デイドも決心しなかったかもしれない。もちろん戦うこと自体はしただろう。しかし、ワンユの協力はソウエイあってのものだった。
「あいつが撤退すると言えばそうするつもりだった――」
其れはモーカを見捨てるということだ。
「――だが結局最後は生きるも死ぬも、俺に着いて来いと言ったようなものだった」
はじめからデイドにはモーカを見捨てることなど出来なかったのだ。
「覚えているか?」とデイドが聞くとモーカは「はい」と応えた。
「お前を一番に護るという約束はすぐに破ってしまった」
モーカが頷く。婚姻の誓いをしてすぐにデイドは族長となった。そこでデイドは一族の長として、皆を護ると誓いをたてたのだ。
「一族を護る誓いをたてたがため、お前を一番に護るという約束は果たせなかった。だが俺はお前を一番に
「出来ない約束をするのは辞めたんですね」
かなりの皮肉に聞こえたが、デイドはそうは思わなかった。そしてデイドはモーカに決心を告げる。
「ゴティウとは雌雄を決するつもりだ」
「ならば私も戦います」
「なぜそうなる?!」
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