決戦前、緊急会議

 一報が入った。

 ヴァチェの行動は目立ちすぎた。

 新たに手に入れた力を使いたいが為か、魔導の籠手を使った魔法で羊を斬殺したことは、すぐさまデイドに伝わった。斥候の目に映ったその光景は凄惨なものであった。


 この奇行ともいえるヴァチェの行動により、デイドは緊急に会議を開く。

 集まったのは、デイド、ベーラー、バティのアジータの将兵やソウエイ、ダラムを始めとしたワンユの将兵の面々であった。


 ソウエイから、皆に状況の説明があった。

 一同はそれぞれ違った反応は見せたが、一様にその蛮行へ怒りの感情がみてとれた。

 奪われるくらいなら殺してしまおうなどとは、常軌を逸している。


 まずデイドが口を開く。

「バティ、どう思うか?」


「追い込まれてのやけくそとは思えません、援軍を頼みにしているはずと思われます」


「そのはずだ。となると、ゴティウの差し金という線もあるか」


 とデイドが背景を予想する。それを見てベーラーが手をあげる。


「殺した羊を処理する人手がかかるのでは?」

 とベーラーが疑問を投げかけた。微妙にずれた意見だが、的を射ている。

 戦線を展開している人手が食肉を得るために削がれるのではないかということである。


「もしかしたら、そのまま放置するつもりかもしれません」

 とソウエイがベーラーに見解を伝える。


 うーんとベーラーが考え込んでいるのを見て、デイドは内心放っておくかと思いつつ話を進める。


 問題は敵の行動がなぜか、ということではなく、敵がどうなるかと、自軍をどうするかである。


 デイド殿よろしいか? と前置きがあり、ダラムが言った。


「敵の思惑は我らへの挑発か示威やもしれん。仕掛けるにしても、退くにしても、これが機というものだ。それを決めねばならん」


 ダラムの声は見た目通りで、いぶし銀という言葉がぴったりである。普段から口数は少ないが、実直な性格で合理的な判断をすると思っていたデイドは、これを金言と判断する。


「奴らが何をしたいかを考えていても埒が明かない。時間も限られている。どうすべきか、という点に的を絞ろう」


「攻めるか退くか、デイド様はどうすべきだとお考えですか?」

 とバティがデイドに問うた。


「攻め時だ」

 とデイドが応えてそのまま続けた。


「羊を放置すればそれだけで士気はさがろう。大量の羊をを処理しようとすればそれだけ人が必要だ。ダラムのいう機とはこのことであろう」


 中途半端なことは逆効果であろうから、敵の油断をついて、おもいきって突撃を仕掛けるべきであろうというデイドの判断だった。


 皆のやり取りを聴きながら考え込んでいた様子だったソウエイが口を開く。


「デイド様……、一計なのですが、捕虜を開放しませんか? 敵は混乱するのではないでしょうか」


 ソウエイは若干自身の無い様子であった。それをみてベーラーが言う。


「ソウエイ殿それは確かに良さそうだが、単に敵兵が増えるだけという結果になる可能性があると思う」


 ベーラーが言うところは、ソウエイの提案は中途半端に終わる可能性が高いということだった。中途半端な策と共にに軍を動かしても、この状況は不利になるだけで戦は負けとなるだろう。なればただ力押しするほうがなはずだった。


 ソウエイもそのような点を心配していたのだろう、やはりそうですよねと言って提案を取り消した。


 しかし、バティがソウエイ殿の言うことは見るべきところがあるのではないか、と前置きをしてから発言した。


「二段分離の計を献策いたします」


 どういうことだとデイドが問うと、バティが反対にソウエイに問うた。


「ソウエイ殿、策を行うのには二日は欲しいが、コーネストからの敵援軍はいつ頃来そうであるか?」


「最短であれば、二日後の晩には来るでしょう」


「なれば、やはり捕虜を解放することで、捕虜の取り込みと敵軍の混乱を狙いましょう」


 その案を聞いてデイドは決断するのだった。

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