緒戦
自軍に戻ったデイドは敵の突撃を悠々と眺めていた。
敵は加速しきり、最大速度をもって突撃をしてくる。
戦は数の多い方が勝つものである。
敵の勢いは勝利を確信した残虐さを持っていた。止まっている騎馬隊など、恐れる驚異がない。
そんな敵を十分にひきつけてから、デイドが叫ぶ。
「突撃!!」
その勢いに押され、初速で遅れたデイド達はあっさりと中央突破を許してしまう――かにみえた。
中央にベーラーが一人残り、デイド達は左右に部隊を分けて敵の突撃を躱したのだ。
「
「軽く打ち合っているのではないでしょうか?」
軽く打ち合って左右に分かれる手筈だった。
「お前もだ! バティ! 左翼を任せたではないか!」
「いやいや。ベーラー以外の者たちはちゃんと作戦をわかっているので大丈夫ですよ」
飄々というバティにデイドはため息を付いて叱咤する。
「手応えがないからと言って油断するんじゃない!」
「それをいうために我は参ったのです」
そう言われてデイドはハッとする。全くの手応えがなく、案の定敵も簡単に突撃をしてきた。あまりにも巧く行き過ぎている状況になにか見落としがないか、戦場で刻一刻と変化する状況を油断なく見る必要がある。
一番憂慮すべきは敵の予備兵力の投入だ。幸いにも敵本拠から兵が出てくる様子はまだなかった。
まだ作戦も完遂していない。油断をするのは愚かなことだ。
「バティ十率いてベーラーを援護! 敵将を追い返せ」
「……はっ! 承りました」
ベーラーが少しの間黙っていた。その間にデイドとバティは目を合わせたままであった。
デイドの追い返せという甘さが、そもそもこの事態を招いてたとバティは言うようで、デイドは許せこれ以上モーカを悲しませたくないのだと言っているようだった。
二人の無言の間にはそのようなやり取りがあったのだ。
後方に居たヴィンはすぐに挟撃される危機を察知して「戻れ!戻れ!」と命令している。
しかし、突撃した騎馬の勢いが簡単に止まるはずがない。
そして止まれと願ったヴィンの思いは最悪の形ですぐさま現実となる。
先頭を走る騎馬が
ワンユの精兵百がデイドの率いた五十騎の影に潜んでおり、綱を引き突撃を留めたのだ。
もしここにヴィンが勇敢にも先頭にたって突撃していれば、後続の味方に次々と踏まれて圧死したことだろう。
「馬を狙え!」
短弓を持った部隊が一斉にヴァームの部隊に向けて矢を放つ。
そして彼らはすぐに弓を投げ武器を持ち、包囲陣を形成する。
ヴァームの部隊の半数は既に落馬している。そこへ左右に展開していたアジータの騎馬兵達の突撃だ。
指揮官は後方で襲われている。ヴァームの兵士たちは混乱を収めることができなかった。
騎馬の突撃を受け、ヴァーム兵は次々に落馬していく。そこへワンユの兵が五人一組となり、落馬した兵を一人ずつ拘束している。
半包囲の形となり、混乱したヴァームの兵は我先にと後方へ逃げようとする。既にヴァームに戦意はなかった。一番に指揮官の将であるヴィンは逃げ帰っていたのだ。
すぐ目の前の本拠に、半数も逃げ帰る事はできなかった。半数は捕虜となり、何割かは生きていない。そして騎馬の馬はほとんど帰ってこなかった。
予備兵力の投入も、我先にと逃げ帰ってくるものの対応に追われた混乱で、防衛戦を築くだけで手一杯であった。
この間、ほんの一刻の出来事であった。
そしてデイドはわざと半包囲にした敵を深追いはしなかった。
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