幕間――ゴティウと少年――

 部下から次々とあがってくる報告を聞きながら、ゴティウは苛立ちを募らせていた。

 シュマダイの狙撃の失敗はまだよかった。トバモンホの命令違反に始まり、何重にも構えた布陣を前に早々に逃げ帰った敵を包囲するはずが、簡単に突破されてしまった。

 歩兵の扱いに慣れていなかった誤算はあったにせよ、追い込もとした湿地帯に一目散に逃げこまれ、まんまとゴティウは裏を取られてしまったのだ。霧が出たことも、ゴティウにとってみれは天から見放されてしまったようであった。


 ゴティウは王座に座り、隣にはフードを被った少年がいる。

 少年の服には何らかの結界があるようで、ゴティウは完全に少年の心を読むことは出来ない。それでも、少年が嘘を言っているかどうかくらいの事はゴティウには把握できている。


「ほら言わんこっちゃない。生け捕りにしようなんて甘い考えだからいけないんですよ」


 少年の言葉はさらにゴティウの感情を逆なでするようであったが、ゴティウは怒りを抑えて皮肉を言う。


「帝国の犬風情に言われたくないな」


「犬ってあなた方の奴隷のようにワオーンて鳴いたらいいですか? だいたい水を使って火消しに使うくらいなら土を操作してあんな少数の部隊なんか落とし穴に落としてしまえばよかったんですよ」


「そんなことをすれば魂が消えてしまうだろう」

 ゴティウはその案を対費用効果が悪いと判断したため、迷信をもちだして少年の案を却下していた。今思えば、それくらいは安かったのではないかと、ゴティウは内心思っていた。

 

「奴隷の命を買えると言った人の言葉とは思えませんね。そんなのは迷信ですよ。違う属性を使えば時に死に至ることを、特に相性の悪い者同士だからそう喩えたに過ぎません」


「風と火と併せ持つ影の民だからこそ、火と矢で逃げ場のない攻撃をすればよかったと言いたいのだな」


「そうですよ。亜人達はうまくやりました。悪と混沌を巧く融合させて力を得たのですよ」


「亜人などと、貴様もオーガの仲間であろう」


 少年の特徴は高原に住むオーガそのものである。ゴティウはそれそれを指摘するが、少年に気にした様子はない。

 亜人と言う蔑称は帝国由来のものであり、彼がそこの生まれであるからその言葉を使う。亜人とは高原に住むものを意味しているのだ。

 種族の違う差別というものはあるにしても、少年は帝国で十分な地位を得ているから、その言葉が出るのであった。



「高原に逃げたあなた方の大父祖に見捨てられたオーガですけどね」


「それこそ迷信やお伽話ではないのか?」


「その首飾りをしておきながら、そんな事言うんですね」


「同族だとおもって殺されないと思ったら間違いだぞ。心を詠んだところでお前の考えていないことまではわからんが、拷問と宝具の力を強めれば全てを吐かせることだってできることを、そのお利口な頭に叩き込んでおけ!」


 ゴティウはああ言えばこう言う少年の言葉に我慢強く応対していたが、とうとう怒りをぶつけてしまった。もちろんゴティウは嫌ならばこの会話を終わらせることは出来るのだが、少年がこういう会話そしてくるときは、なにか益のとなるものをゴティウに提供する時だった。

 ゴティウのとって提供されることは有難かったが、いかんせんこの少年のことが気に障り毎回気分を害されていた。


「あなたは私を殺せませんよ。私の主人からの支援がなくなったら貴方は破滅することはよくご存知のはず。盟約を果たして貰えれば私共は満足なのですよ」


「ふん、お前の主人とやらが、巧く立ち回れたらという条件を満たせれば約束は果たそう。そもそも、お前たちの言う悪だ混沌だなどというのが俺は気に食わんのだ」


「ヒューマンの創った教会が善を名乗っていますからね、それに反するのが悪というだけですよ。善に正義があるわけじゃないんで……。秩序に正義があるわけじゃないのと同じように」


「善の使徒の子などという帝国の考えが力のないヒューマンの拠り所に過ぎないと?」


「力のあるオーガ族を平地から追い出すくらいの力はあったのですよ。力の種類が異なりますがね」


 ゴティウは長ったらしい少年の抽象的な話に御託はもうよいと、具体的な話を促した。少年もこの話題にはもう飽きていたようだったので、ゴティウにある提案を持ち出したのであった。


 今回の失態を取り戻すためにも、ゴティウは自身の勢力がまた一つ大きくなるであろうことになるその提案を、断る理由は無かったのであった。

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