邂逅 三
「ひよっ子が笑わせてくれる。退屈しのぎにはなるが、そう時間もない」
「俺は早く皆のもとへ行かなければならない」
デイドは魔女のいうことに決意をもって同意する。
魔女のいう次元の裂け目というものが、いったいどういうものなのかデイドには分からなかったが、やらねばならぬことは山積みであり、それに全身全霊で当たらなければならなかった。目先のことだけでも、ゴティウが追撃部隊を出すかもしれないし、森を抜ける間に敵と鉢合わせるなどということもあり合える。
それから先無事に帰れたとしても、ソペニアとの決戦は避けられないものとなるはずだ。
ワンユとの同盟か協調かもあやふやになってしまったし、他の勢力のことも気にかける必要はあるだろう。デイドの決意一つではどうにもならないこともあるかもしれない。
「行ってどうする? 力ないぬしは、ただやられて犬死するだけであろうよ」
「お前が協力するとでもいうのか?」
甘ったれるな小僧と魔女はいうが、やぶさかでないともいう。
「要は英雄となったぬしの腕を貰うことが、私がここから抜け出すための条件であるということだ」
と魔女は言った。魔女が待っていたというのはこの空間から脱出したいが為であるということであった。不気味な魔女の表情から底知れぬ不安をデイドは持つが、答えを出さなければ魔女はこの空間からデイドを開放しないであろうことをデイドは悟っている。
「力をやろうというのだ。おあつらえ向きの傷もある。その腕に矢傷があるでな、それに呪いをかけてやろうではないか。もちろん、選択権はぬしにある」
デイドの腕には矢傷というほどではなかったが、シュマダイから受けた矢の痕が残っていた。デイド自身も気づいていなかったことだったが、魔女はそれを知っていたのだ。
「一応…よいか? その呪いとやらはどういった類のものだ?」
「一つ使えば痛みとなり、二つ使えば激痛となり、三つ使えば死に至る激痛となろう。三つ目で英雄となれば、その腕は私のものとなり、腕と引き換えにおまえは死からは開放される。なに簡単なことだ。宝具を全て集めればよい」
それが魔女の望みであった。魔女にとっては三つの力を使いさえして貰えばよかった。英雄になり損なったものの命と身体ならば、対価に見合うのだと魔女はデイドに言う。そして呪いであるが故、必ず三つ使う時が訪れると。
「もう一つ。なぜお前はそうしようと思うのだ?」
「ここでお前たちが苦しんでいるのを見るのも悪くはないの。しかしもう飽いてきてしもうた。さっさとこの地に英雄が生まれてほしいと思っていた所に、ぬしが来たのよ」
「わかった。頼む。力を授けてくれないか」
魔女はもう少し頼み方があるだろうとぼやきながらも、その力を行使した。そして力を与えたことで、この空間からすぐにはじき出されるという。魔女は後になって、何もしなくてもはじき出されたというが、それが結果として早まった。
身の毛のよだつ魔力の渦といものをデイドは産まれて初めて感じる。デイドは魔素を感じる事はできなかったが、魔女の呪いというものはそれを強制的に認知させている。
魔女の無いはずの腕から出てきた指でデイドの腕の傷跡が広がっていく。指が描くのは紋のようで三つの刻印が刻まれた。デイドはその指が動くたびに激痛を覚え叫びたくなったが、このような魔女に屈するわけにわいかぬと歯を食いしばっていた。
魔女は最期に一つ忠告してやるといった。予言ではないがなと付け加えいう。
「英雄でなくても聖霊の加護の強いものはおるでな。普通の人にとってみれば十分に脅威なのじゃ。当然ぬしにも脅威であるし、ぬしはもうずいぶん出会っておる」
デイドは激痛のなか、ぼやけ薄れゆく景色を見た。魔女の声もだんだんと小さくなる。次元の裂け目から元の場所へ戻っているとデイドは感じていた。そしてデイドは最期に魔女が言った言葉を微かに聞いた。
「なぜか……などと、ばからしい。ぬしはアヤツによく似とるわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます