邂逅 二
「予言だ」
高原に生きるものにとって予言とは、星を詠むことなどによって得られた占いからシャーマンや星詠み達が下した
若いデイド達の世代にとってみれば迷信じみたそれを信じないものも居る。デイドは信じてもいなかったが、疑ってもいなかった。
例えばズゼンが「星が動いたから南に行けという神託を得た」と言えばデイドはそれに従った。デイドも星が季節により動くことは知っている。
デイドにとってズゼンのいう予言とは、経験則で南に行けばきっと豊かな牧草地帯があるということ意味するいう理解があり、デイドにはそれと読み解く力があった。予言には二種類あって、無意味な予言と価値ある予言があると理解していたのだ。権威をもって方針を伝えたほうが、民はよく従うという教訓をもっていたのだ。
より知識あるモーカの予言であれば、デイドは疑うことなくそれを取り入れるのだ。デイドは彼らが予知をしているわけでないことを知っていた。
「私ほどの大魔導師になると、星を詠むなどという予言ではなく、呪いと言えるものだ。私は星を詠むのではなく動かす事もできるのだよ」
そんなデイドをあざ笑うように、魔女は告げる。デイドの内心を見透かすように、この魔女の予言はそういった類の予言ではないと魔女は言っている。
「まるで英雄のようだな」デイドは魔女の言葉から、お伽話に出てくる英雄をなぞらえた。
「英雄のなりそこなり、若しくはまだ英雄となっていないとも言える」
この次元ではまだ成っていないと言えるのか……などど魔女は呟いている。
「取引というものだ。お前は代償と引き換えに力を得ることが出来るのだよ」
「俺は力など欲しておらん」
魔女はその醜い顔をニイと歪ませた。
「先の戦いで戦奴を投げ飛ばして快感を得たのではないのか? 無垢な住民を虐殺してその力に喜びを見出したのではないのか?」
「うるさい!」
なぜこの魔女が先程の戦いを知っているのか、デイドにとってはどうでも良いことであった。この魔女の存在感はそれくらいの力があると十分に示している。力への欲求、渇望、欲望というものを見透かされ、デイドは苛立ちを覚えたのだ。
デイドは力を求めている。それは一族のためであり、自身の為ではないと誓っていたはずだった。決して虐殺をしたいがためではない。
「まあ、落ち着け。なにも今すぐに取って喰おうというわけでもない。ぬしの先祖との約定も、まだおまえは満たしていないが、満たそうとしている」
「魔女よ。どうもお前の言うことは理解が難しい。どうやらお前は左腕を得なければならない、とうことはなんとなく理解した。まず高原の民の大祖父と知古であるようだが、そのような長い間此処に居たのか?」
魔女は語った。ここが次元の狭間であり、聖霊の怒りをかって閉じ込められていると。ここから抜け出すには英雄たる試練の門番にならなければならないということだった。英雄たりえるものは必ずここを訪れる運命なのだという。そしてそれがこの魔女に与えられた試練だといい、それが運命だとデイドに語る。
「運命で、あるか……」
「やつは呪いによって力を分ける他なかったのだよ。真の英雄となるのに臆したからだ。そしてはるか遠い先に、力はもとのひとつに戻るとも解っておった」
「魔女よ、俺は英雄となることは欲していない。宝具も今はなく失った。その資質は満たしていないのではないか?」
「宝具の力のひとつを持っていれば、やつの力を全て受け継いでいないということで、その左腕は等価ではない。だが貴様は今それをもっていないであろう」
「そうだ、だからその力を持ち得ていないぞ?」
「違うのだよ。すべてないということは全てを得る可能性があるということだ。そして貴様は必ずそれを得ようとする」
「必ず不動の鎧は取り戻す」
デイドにとってそれはしなければならないことだった。一人で大軍に立ち向かったズゼンのもつ鎧はきっとソペニアに奪われるだろう。デイドはそのままにしておくつもりなど毛頭なかった。
「真実を知ることでぬしは対価を払う。私から力を得るか得ないかという決断をしなければならないという対価だ」
先程までデイドよりも小さかった魔女を、デイドは自分よりも大きい背丈となったように思えた。魔女の風格や言葉に威圧され、正気でいるのかどうか、よくわからなくなりそうであったが、デイドは自分を見失うことはなく、魔女の言う真実という話の真贋を確かめている。
「英雄になるはずだった私はヤツにその権利を譲ってやった。
しかしヤツは日和った。肝心なところで人のままでいることを選んだのだよ。
それは子供らのせいであったが、そのことを私は恨んではおらん。
しかし、残りの二つの聖霊の勢力はヤツが英雄とならなかったことで、力を失った我らを簡単に攻め落とすことが出来た。
故に千の年にはちと届かぬが、元々平地に居たお前たちは高原に逃れたのだよ。
そしてお前たちは五つに分かれ、さらにまた枝分かれした。
裏切りのお前たちは秩序をもって、五部族は宝具を管理した。我々は一度敗北したのだ。しかし、今はどうだ。互いに争い、宝具の所有権も曖昧になっている。いずれ力は形を崩し統合されるであろう。
それに伴い高原は混乱の渦に飲み込まれるはずだ。それこそ我々混沌が秩序に対し勝ちを得たということになる。
お前たちの血がいくら流れようとも我らにはなんの痛みもないことだからな。火は全てを飲み込み燃やし続けなればならないのだ」
「それはただの予言か妄言のようだ。星を動かすなどど大言壮語もいいとこだったようだな」
それが真実かとデイドは魔女の放つ言葉を撥ね退けようとするが、魔女はそんなデイドを高笑いして見下ろしていた。
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