絶望的な戦い
絶望的な戦い一
門が放たれた。中からは民衆が我先にと逃げていく。
デイドは彼らには悪いと思ったが、目的のためならば致し方ないことである。
デイドにとって思ったとおりにことは進んでいたが、デイドのカンはこれが罠だと告げている。しかし虎穴に入らずんば虎子を得ずとばかりに、突撃の合図を出すしかデイドに方法は無い。
無垢な住民だと油断も出来ない。もしかしたら、あの中に潜む敵兵も居るかも知れない。
そんな小手先の手をゴティウが使うとは思えなかったが、用心するに越したことはない。デイドは突撃する際に民衆は蹴散らすよう事前に兵たちには伝えてある。
城内に潜伏していたソウエイが一時報告のために戻ってきた。唯一モーカの顔を知るソウエイは救出作戦における要でもあった。
「ソウエイ無事であったか。危険な目にあわせてすまない」
デイドはねぎらいの言葉をかける。本心からソウエイを心配してのことだった。ソウエイもそれが分かってか、問題ありませんと気負った様子はなかった。それをみてデイドは首尾はどうであった? と尋ねる。
「モーカ様を発見し、父上に場所は告げました。私はこのまま突撃に参加してそのまま父上に助力に行こうと思います。場所はやはり中央の建物でした」
「ならばそこに至るまでの道は兵士で溢れているであろうな……」
ほんの数日まえには少しおどおどした様子もみせていたが、一端の戦士の顔となったソウエイを見て、デイドもなにか感じることがあったのだろう。手に持つ大太刀を強く握りしめる。機は熟した。ならば出す言葉は一つだけ。
「突撃!」
デイドが先陣を切る。何も知らない民衆は無惨であった。
悪鬼羅刹と化したデイドが混乱の最中にあるであろう都市内にたどり着くのにそれほど時間はかからない。
斬って、斬って、斬って、斬って、血が舞い、血を浴び、血を払い、大地に血が染みていく。
不動の鎧は赤く染まり、その血を喰らって喜んでいるかのように、デイドに力を与える。
都市に放たれた炎は、乾燥した空気の中激しく燃え上がり、デイドの心の中を映し出しているかのようだ。
しかし、その炎が大量の水で消し去られてしまう。門をくぐりメイン通りへ出た一行の目にうつるのは予想外の光景であった。
「あ、あれは……なんですか?」
先程の表情とはうって変わり、悲鳴のような声をあげ、ソウエイは恐怖のあまり震えている。混乱した敵がいると思っていたが、全く予想外の光景が広がっていたからだ。
「戦奴だ」
手足を隣のものと枷と鎖で繋げられ何重にも列をなしている。背中は鞭で打たれ、ほんの情けであたえられた布の服はボロ雑巾のほうが綺麗な有様だ。背中を鞭打たれながらも前に進み、倒れたものはそのまま踏みつけられて引きづられていた。
手には水を操る護符が見える。オアシス都市の豊富な水を用いて巨大に燃え盛った火はたちまち消火されていく。火が消える度に戦奴の命も消えていく。分不相応なマナを操ることは即ち死を意味するのだ。
「混沌のものも居るようです。混沌のものは、反属性の水の魔法を使えば、下手をすれば死にます」
「使わなければ、鞭打たれて死ぬ。使っても死ぬかもしれないが、延々と続く痛みに耐えられるものは少ないだろうな……」
「そんな、酷い……」
「ソウエイ! ここは任せろ! クロガネ殿の元へ急げ!」
デイドは戦意を喪失してしまったソウエイに命じる。ソウエイは逃げるように影に身を隠し闇に消えていった。その姿を見ているものが居るとも知らずに。
「あれだけの人数を鎖で繋がれてはたとえ騎馬で突っ込んでも止められますぞ」
ズゼンがデイドに告げる。それはデイドにも分かっていたが、ゆっくりと対処を考慮するような時間はない。ズゼンの言う通り、仮に突撃をしてしまったら、騎馬は鎖によって機動力を失い、戦奴の後ろに見え隠れする重装歩兵の良い餌食になってしまうだろう。
「ベーラー!」
呼ばれたベーラーは「承知」と叫びその意図を察知してデイドに続く。
「うおぉぉぉぉぉ!!」
戦奴に向かったデイドは愛馬のツーチャから勢いそのまま飛びあがり、突っ込んだ。そのまま戦奴の一人を掴み人ならざる力を以て鎖ごと戦奴を投げ飛ばす。
後ろに立っていたムチを持った奴隷使いもろとも家屋や重装歩兵の一部を巻き込みながら吹き飛んでいった。まことおぞましいといった光景であった。
不動の鎧を開放して得た力の代償で、デイドはその場に膝をつく。如何に鎧に認められたデイドであっても、ここまでの力を行使すれば消耗は避けられない。
メイン通りで一人蹲る首級に向かい、残された歩兵が一斉に動き出した。デイドの首を取れば三代遊んで暮らせるだけの金が手に入るのだ。前線の兵士にこのチャンスを逃すものはいなかった。
そこへベーラーが飛び出す。その手に持つ得物は剣であったため、鎖帷子に身を包み、盾で身を守り槍を構えながら歩兵達は怯むことなく突っ込んでくる。
首が飛ぶ。腕が飛ぶ。耳や指や血が飛び、首が無事なものから悲鳴が上がる。馬をかけるベーラーは通りざまに正確にふるった刃が、其の者らが切られたと気づいたときには飛んでいた。
歩兵の隊列が崩れた所にベーラーは側面から突っ込んでいき血の雨を降らせる。神速の妙技である。
一兵卒にベーラーを止めることができるもなどおらず、出鼻をくじかれ恐怖した兵士たちは一斉に飛びかかることが出来なかった。ベーラーの勢いは留まることを知らず、たまらず指揮官は一時撤退の命をだし、密集隊形を作り直す羽目になった。
さすがに正面から防御を固めた歩兵に単騎で突っ込むことは出来ず、ベーラーは頃合いと見て引くのだった。
ベーラーが時間を稼いでくれている間に、ズゼン達がデイドの周りを護り、息を整えたデイドはツーチャに騎乗することが出来たいた。
「若、ムチャが過ぎますぞ……」
「これくらいなんてことはない。俺はモーカを救うために此処に居るのだからな」
ズゼンはデイドの決意に言葉が出なかった。
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