心眼の首飾り二
一通り指示を出し終えたゴティウは、おそらく来るであろうデイドの襲撃に備え、自室に戻り一時の休息をとっていた。
その首には
その能力故か眉間を寄せることの多い表情により、皺は深く刻まれて消えることはない。生来生まれ持った整った顔に消えるとの無くなってしまった刻印は、ゴティウの苦悩を象徴しているかのようだ。
心眼の首飾りは宝具の中で最も危険であるという謂われをもつ。
心眼の名の通り心をを詠むというその能力は、適応しないものが持つと一瞬で発狂に至る。
例えば不動の鎧で分不相応な力を一瞬発揮したところで、その一瞬で全生命力を消費してしまうことは無い。暴走した力により、片腕の骨が細切れに砕け一生使い物にならなくなったとしても、その余生まで奪われるわけではない。
しかし一時で精神をやられてしまえば、身体が満足であったところでその後は死んだも同然である。装備しただけでは死ぬことのない他の宝具と一線を画するのだ。
従って、この首飾りを継承するものはそれ相応の覚悟というものを持って臨まなければならない。ゴティウは父と違い、その覚悟を持ってその継承を行った。代々受け継がれてきたものだったが、その当主すべてが継承してきた訳ではなかったのだ。
心眼の首飾りはかの大祖父の長子に託されたという。一番始めに自立していった子に大祖父は一番危険でかつ、一番有用であろう品を分け与えたのだ。
「失礼致します」
ゴティウの命令により、近衛がモーカを連れてきた。
ゴティウは宝具を外しモーカ前に立つ。
先にモーカが口を開いた。心眼の首飾りを外したことで、ゴティウの話を聞くという意図を理解したのだ。
「予言します。あなたは自分を優先しすぎているのです。回りの人間に見限れる未来が訪れるでしょう」
「それは、本心からの忠告ではないな。確信はないがそう感じる」
モーカは暗に、「自分を開放すれば、歯車はうまく回るのです」と言っている。己が保身も加味した言葉をゴティウは警戒した。
ゴティウはこの事態の非というものは自分側にあると理解はしている。ただ、それを認めてしまえば、高原の諸勢力に舐められるという事態を恐れていた。
部下の統率一つとれない首長であると思われたくないのだ。
デイドが降るのであれば、生命と地位の保証はするつもりはあるが、そうはならない確信をゴティウは持っている。そして力押しで来れば、必ず返り討ちにできるという確信も持っていた。
「あいつは昔からそうだった、自分の不利益になることを平気でやる」
失われたものに執着するゴティウの言葉にモーカは何も言うことはなかった。
ゴティウは望むものはほとんど手に入れることが出来た。何でも手に入るのだという過信から、手に入れることができないものがあるということを失念した。ゴティウは時が経てば、四年前に決別したデイドともいずれ
「水の勢力とこれ以上近づくと、父祖伝来の宝具の力を損なうことになります。おやめください」
今一度モーカは懇願する。高原の歴史を語り継ぐシャーマンとしての言葉だった。
「それは高原の賢者として、本心からの忠告のようだな」
「なれば――」
モーカを言葉を遮り、ゴティウが続ける。
「だが巨人といいながら、我らはおろか帝国の人間の背丈にすら敵わないではないか。そのようなものを恐れることなどないだろう」
水の加護を受け、オアシスに都市を築き、交易路を作った彼らを巨人族という。しかし、オアシスに住む彼らの姿は小さかった。
「それは、風と火の勢力の強い土地であるこの高原や砂漠の交易路をゆくため、水の力を失っているのです。彼らを侮ってはいけません。一度は世界を秩序に導いたのですから」
「それこそお伽話であろう。それにもうこの世に秩序などない。少なくとも高原には失われた……いや、俺が奪ってやった」
「それでも高原の人々は、水を避け生きてまいりました」
「湖の畔を本拠とするようなものに言われたくはないな」
「その理由を貴方は――」
「もうよい! 下がれ! 美しい姿にその拘束具は似つかわしくない。許せとは言わんが、暫くは我慢してもらおう」
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