影の力二

 デイドは内心、影の民の能力に驚愕していた。

 ソウエイは自分たちのことを力がなく、弱いと思っている。しかしデイドは擬態の能力を持っていない。彼らが普通にやっていることをデイドは行うことは出来ないのだ。


 古き時代から高原では力が法となり、秩序を持って支配していた。今もその風習は残ってはいるが力だけがすべてでは無くなっている。

 例えば放牧の地に二つの部族がかち合う。互いに譲らぬ場合部族長が力比べをして勝ったほうがその場に残った。


 無駄な争いをせぬためのルールであって、族長は力の強いものがなっていた。

 今は力比べの代わりに、貴重な品を相手に渡すことで、その場を争いにしないということもある。贈り物を渡すことで機嫌よく譲ってもらうのだ。反対に貴重品を巡って争うこともあった。そこには昔ながらの力比べはなく、ただの奪い合いになることが多かった。


 デイドの驚愕とは、そもそも争わないことで、利益をあげるワンユ族の価値にある。

 デイドたちは新たな時代の高原で、生き残ることは出来たとしても、勝ち残ることは出来ない。

 影の民は勝ち残ることが出来ても、生き残ることが出来ないかもしれない。


 ワンユの兵士がデイドにとって、これ以上ない価値のあるものをもたらしてくれた。


「報告します。コーネストから出てきた交易商から、トバモンホがモーカ様らしき女性を連れてコーネストへ入ったという情報を得ました」


 ソウエイから報告をうけた言葉をデイドは待っていたのだった。トバモンホを探すため高原に散ってもらったワンユの兵たちは無駄になったが、デイドはもとより戦いに巻き込むつもりはなかった。


 巨人の国からヒュームの国までの険しい交易路の行来を生業とする商人は、金さえ渡せば商品を運ぶ。情報も当然彼らにとっての商品である。


「金貨十枚を渡したのか?」


「はい。ヒュームの金貨を十枚渡したそうです。トバモンホを見たというだけでは破格すぎませんか?」


「いや、彼らは商人であって詐欺師ではない。信用というものを何よりも重視している。金貨を貰ったということは、商人にはその噂話の価値が分かっていたということだ。その者の交易印を貰ったのだろう?」


「はい商人の身元は分かるはずです」


 これで事態ははっきりした。ゴティウが命じてようがいまいが、モーカはこの都市に居る。殺されてはいないだろうが、猶予もない。

 ソペニアの本拠地は都市と言ってよい規模だった。コーネストは元は帝国に一番近いオアシスにあった集落だった。それをゴティウが攻め落とし、本拠としここまで発展している。半放牧、半農耕の地であり、交易の中継地の一つであった。


 決して高くはないが城壁と呼べるものもあり、簡単に攻め落とせるようなものではない。恐らくデイドが渾身の力で殴ったとしたら、この城壁は崩れてしまうだろうが、デイドの手も崩れてしまう。丁度よい鎚などもないため城壁を破るのは諦めたほうが良いだろう。


「商人からもう一つ教えてもらったそうなのですが、この都市の兵は一万は居るそうです」

「なんということじゃ」


 流石のズゼンもこの数字には驚いたようだ。商人は金貨のお釣りとばかりに、情報をくれたのだ。ソウエイも厳しい表情で報告を続ける。


「そのほとんどが歩兵だそうですが、重装の鎧を着て統率もとれているのだそうです」


 ご苦労であったというデイドには余裕があった。デイドの様子は空元気ではないようだが、ソウエイは不安を隠せず、「デイド様……」と言葉がでなかった。


「ソウエイ、なぜゴティウは重装歩兵を本拠に集めていると思う?」

「それは、いくさを仕掛けるためだと思います」

「違うなソウエイ。守りを固めるためだ。重装歩兵で草原をのこのこ歩いていても皆さっさと逃げてしまうからな。さすがにゴティウもそこまで馬鹿ではない」

「諸部族の恨みを恐れているということですか?」

「ワンユもゴティウのことは恨んでいよう。やつは少々敵を作りすぎた。しかしそれを自覚はしている。大丈夫だやりようはある」

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