会談三

「クロガネ殿。我らはこれより出立いたす。ここで交渉も打ち切りとなり残念である。どうか御達者で」


「デイド殿。しばし待たれよ」


 退出しようとしたデイドが何をしようとしているのかを悟り、クロガネが引き止めた。しかしデイドは、我らは我らの征く道を進むといって、退しようとしていた。


「いや、しばし待たれい。その宝具疾風の靴はデイド殿に託そうと思うが、一度わしに貸しては貰えぬか?」

「これはすまない。失念していた。お返しいたします」


 頭に血が上っていたデイドはすっかり自分が先程預かった疾風の靴を履いていることを忘れていたのだった。デイドからそれを受け取ったクロガネが提案をした。


「わしがモーカ殿を脱出させよう」

「そのような危険なことをさせるわけには参りません」

「わしでは役者不足だというのか?」

「そういう訳では……」


 押し問答になってしまった。手に持った宝具疾風の靴をデイドはクロガネに受け取ってもらえず、彼らの誇りであろう品を床に放置するわけにも行かず、結果この場から動けずにいる。

「嫌と言っても、わしは協力する。これは、武功を得たいという欲求からでもある。デイド殿わかってもらえぬだろうか?」

「そこまでいうのであれば、一方的に交渉は中断させてもらったが、交渉抜きで協力をお願いするということで構わないな。有耶無耶なままではお互いに益とならぬ」


 クロガネも不服はないようで、デイドの手から宝具疾風の靴を受け取る。

「それでは宝具疾風の靴を預かる代わりに、この品を預けたいのだ」


「 何だこれは? 羅針盤のようであるが」


 宝具疾風の靴と差し替えて受け取った品は、手のひらに収まるほどの大きさで古びた羅針盤のようであった。


「これは、エチの大森林を指す羅針盤だ。どのような魔法がかかっておるのかは全くわからんがの」


「見たところ貴重な品のようだが、なぜこれを俺に?」


 意図を確認するためにデイドが問いかけ、クロガネが答えた。

 

「我らの持つ道具に、閃光弾ライトバレットというものがある。名の通り夜空であればどこからでも見えるであろう。わしはエチの大森林と逆の方向へ脱出できたら、連れの者に合図として出させる。それをみてその羅針盤の方へ脱出してもらいらいのじゃ」


「俺に死ぬなと言いたいようだな」


 デイドは受け取った羅針盤を強く握りしめて答えた。そして決意を固めたように、クロガネに頼み事をする。


「クロガネ殿、馬と油をお借りしたい」

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