会談二

 事態が飲みこめないデイドとクロガネは、部下に守られる形で距離をとった。


「デイド様! これは一体どういうことでありますか!?」


「待ってくれソウエイ殿! 俺にも何が起こっているのかわからんのだ!」


そこへズゼンがこの場にいるはずのない人物を見つけ、困惑ながらも問いただす。


「息子よ! なぜお前がここにおる!」


 ズゼンの息子であるバティは憔悴しきった様子で息も絶え絶えである。彼はプリシーの湖畔で留守を任されていたはずであった。


「至急のことであり、無礼を承知で兵を率いて参りました。モーカ様が拐われたのです」


「なんだと! どういうことだ!」デイドが我を忘れ叫ぶ。


 バティの疲れ切った様子と、デイドの方針を兵たちが守ってか、武器を抜くものが居なかったのが不幸中の幸いであったのかもしれない。混乱の中で開戦とはならなかったが、この騒ぎである。どこが発端となって切り合いの混戦となるか解らなかった。


「クロガネ殿、潔白であるか!?」


 デイドがバティの元へ掴みかかろうとしているのも止めず、ズゼンがクロガネに問いただす。


「一族の誇りにかけ誓う! 我らの企みではない! ソウエイ! 外の兵どもが武器を抜かぬよう徹底させよ!」


 その言葉を聞いて、デイドも若干冷静さを取り戻した。


「ベーラー。数名を残し、あとの兵を纒め、野営地で待機させよ」


 武器を収めよ!と叫びながら二人が出ていくやいなや、デイドが口を開いた。


「クロガネ殿、不測の事態であったが、兵の侵入してきたこと申し訳ない」


「その者の賢明な対処じゃ。致し方あるまい。それよりも事態の把握をせねば」


 そうであるなと、デイドが応じバティに報告を促した。


「放牧の為モーカ様にもお手をお貸し頂いていたのです。そこで私が離れた隙に賊がモーカ様を狙い――」


「お前がいながらなんと情けない」

 ズゼンが嘆く。バティは悔しさを滲ませつつも報告を続けた。

「――申し訳ありません。賊が巧妙にも私共とモーカ様を分断したのです。立ち塞がった賊は切り捨てたのですが、時既に遅く……」

 うなだれたバティを見て、デイドが口を開いた。

「賊の正体に心当たりはあるのか?」


「あの大きな飾り羽根のついた派手な装い、トバモンホで間違いありません」


 その武将は以前デイドに打ち負かされて、無様にも命乞いをしてきた人物であった。


「あの趣味の悪い男か? あの時首を刎ねるべきだったか……」


 大した脅威にもならないと高をくくって逃してしまったことを、デイドは悔いたが今更どうしようもない。デイドへの復讐のためにコソコソとあたりを彷徨き隙を伺っていたのだろうか、それともたまたま居合わせたのか。


 いずれにせよ、たかが数日と侮ったことが最悪の結果となってしまった。


 ソペニアの武将であるトバモンホはきっと本拠に帰るだろう。そしてモーカを盾にして、デイドに対して何かしらの要求をしてくるのは火を見るよりも明らかであった。

 デイドは即断したようで、声を張り上げた。


「皆! ついてこい!」

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