青天の霹靂

会談一

「デイド殿、我らは能力故、影の民と蔑称がある」


「言わせておけばよいではないか」とデイドが応える。


「この高原は力が全てだ。わしらも一時の繁栄を享受しておるが、争いを避けてきたことで相対的に力を蓄えたに過ぎぬ。影に潜み隠密や諜報に長けるため、逃げの一手でやってこれたのだ」


 クロガネは、デイドが疾風の靴を装備したことが当然であるかのように平然とした様子である。宝具はデイドを持ち主と認めたようであった。


「しかし、そうも行かなくなったと……」


「その通りだ。争い合いながらも秩序のあった高原も、わしの代になってからは段々と帝国の影響もあってかバランスが崩れてしまった。昔は突出した部族などなかったが、ソペニアは飛ぶ鳥を落とす如き勢いがある。いくら権勢があってもソペニアは裏切り者故降ることはできん。そこで有望なアジータ族と手を組みたいと言うわけじゃ」


 秩序に満たされていた世界が、混沌を是とした世界へ変貌を遂げようとしているかのようだった。クロガネは世の中に溢れでてきたその流れに抵抗したかったのだ。


「俺はまだなにも成してはいないぞ?」


「ゴティウの執拗な攻撃から生き延びておるではないか」


「ゴティウ……」


 急に因縁のある相手の名を出され、デイドは先ほどまであった余裕の態度を一瞬曇らせるが、すぐにそうとは悟られないような表情をつくる。


「まだ若いな、顔にですぎておる。だがチロイ殿によく似て王者の風格というものがあるとみえる。それだけで十分おぬしに降るのに十分であるのだが……」


「一族のなかには、臣下につくというのに不服があると?」


「それ故のもう一つの条件だ」


「先程の条件とはそれで全部ということか」


「うむ。これから配下に入るものの待遇に関する希望がある」


「というと?」


「我らを一の臣としてくれればいい。次に降ったものは二の臣とし、一の臣は二の臣に対して徴税権を持たしてほしいのだ」


「それは、三の臣もあるということだな?」


 然り、クロガネが答える。その意図を感じたデイドはクロガネから目をそらして、考えつつ呟いた。


「――例え三の臣であっても、功績を残せば一の臣となれるのであれば、考慮に値するな」

 思案を始めたデイドに、クロガネも口を出さなかった。


 それをお構いなしに、ベーラーがデイドに問いかけた。


「それでは配下が好き勝手にしてしまうのではないですか? それに誰も配下に加わろうとしない気がしますけど」



「解らないという顔だなベーラー。モーカであれば解ってくれただろうが。モーカならこれが制した他の一族を従えるにの一番よい方策だと言ってくれただろうな。……これはクロガネ殿失礼、モーカとは――」


 知っておるとクロガネがデイドの 言葉を遮った。


「モーカ殿の噂は、耳に入っておる。星詠みに長け聡明であり、草原でも指折りの賢者であると。そして見目麗しい美貌の持ち主であるが、おぬしと同じように眼光には力が宿り、人を惹き付けるとな。まことおぬしに相応しい伴侶ではないか」


「そうかそうか、そこまで言われるといい気分になるな!」



 多少ではあっても気が張っていたデイドであったが、賛辞をうけて素直に喜びを表したところに、ラークの外で何かの喧騒が聞こえてきた。


「クロガネ殿、なにやら外が騒がしいようですな?」


 突如として、大量のアジータの兵たちがこの交渉の場となった宴の席に乱入してきた。

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