宝具
「クロガネ殿はデイド様に死ねというのか?」
今まで沈黙していたベーラーが思わず半身を起こし口を挟んだのを見て、まあ待てとデイドが腕をだし制す。
「待ってくれ、幾つかわからないことがある。まずハクキリ殿の輿入は無関係だと考えるが、間違いないだろうか?」
デイドはクロガネが深く頷くのを確認してから続ける。
「三つある。一つは宝具というものは、我らアジータの不動の鎧と同格のものであるのか」
デイドは立ち上がり、クロガネを見下ろす形にならないよう中央まで数歩下がって質問をした。
「かつての五大部族の宝具で相違ない」
デイドの予想通りの答えが帰ってきた。クロガネのいう宝具とは代々血族でなければ使用できず、それ以外の者が持つと呪われるという伝説の品で間違いないようだ。
「二つはワンユの誇りである宝具を、よそ者である俺に触れさせてよいのか」
「問題はない。わしの思い違いでないならば、それは本来の持ち主に戻るものだ」
デイドの納得の行く答えではなく、なにかまだクロガネの考えを読みきれなかったが、デイドはそのまま質問を続けた。
「最後に我らとの勢力差がある。もはや隠すことはないので話すが、外の騎兵が我々の最大戦力だ。武力に於いても、文化的な価値に於いても何一つ勝っているところがない。どのような益を期待しておるのか解らぬ故、お互い誤解の無いよう何を求めているかを知りたい。しかし恐らくそれは……」
「それは、少しズゼン殿と話をしてからにしたいが……」
「相わかった。その宝具とやらを借り受けたい。クロガネ殿どこにあるのだろうか?」
皆がデイドを注視するなか周囲がざわつく。この若者の即決に皆驚いたのだ。
しかしデイドにとっては当然のことであった。
族長として、皆の幸せを考え最善を尽くすと誓いを立てた日から、デイドは命を賭して成し遂げてきたのだ。弱小部であるが故他部族にすり潰されそうになったことが、現在モーカの待つ湖の畔に、族長となってから四度訪れる間では日常茶飯事であった。
であれば、この程度の要求はすぐに飲むことで、他の条件とやらを少しでもこちらに有利となるよう計らいたかった。
「ソウエイ、持って参れ」
クロガネがソウエイに命じた。
クロガネの要求がなにを意味するのかデイドには解らなかったが、ズゼンは何かを隠していることは明白だった。しかしズゼンがデイドにとって不利益になることはしないので、なにか理由があるのだと思っていた。
「デイド様、こちらが我が部族に代々伝わる宝具、疾風の靴です。どうぞお受取りください」
代々伝わる何年前の品かわからないが、その革は固くなることもなく、古臭さを感じない。年代ものであるならば、魔法の品で有ることに疑いようもない。デイドは、それを受け取る前にソウエイへと尋ねる。
「ソウエイ殿、この品は本来であれば、貴殿が受け継ぐであろうものだ。本当によいのか?」
クロガネの命令で持ってきたソウエイの心中を慮っての発言だった。
「デイド様にお渡しするのに何ら差し支えることなど御座いません」
そう言うしか無いのだろうが、ソウエイの表情から拒絶の意図を感じることがなかったので、デイドはその宝具を受取る。そしてそのまま事もなげにその宝具を装備してしまった。
「デイド様、お身体は?」
「さあ……? 特にこれといって変化はない、いや体が軽くなったような気はするが……」
「なんと! そうですか。実は私が――いや父上、どういたしますか?」
なにか言いかけたのをやめたソウエイがクロガネに問いかけた。
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