契機
高原には大小様々な部族が存在するが、そのほとんどは互いに争いあっている。
その争いの原因は様々であるが、遠因には五大部族の大連合の崩壊があった。
使者の口上を要約すると、「支援をしよう。同盟してやってもよいので自分の元へ来るがよい。宴を用意して待っている」というものであった。
同盟を組むというのは、かつての大連合をもう一度というワンユ族長クロガネの思惑があると、使者は語った。
デイドは使者を丁重にもてなすために、一番丸々と太った羊を捌いて、さらに上等な酒を惜しみ無く振る舞った。
宴の間ソウエイは恐縮しきりであった。遊牧の民であるデイドたちにとって、羊は財産であり、酒は貴重である。
首長であるデイド自ら一番の羊を捌き、それを振る舞われるとまでは、ソウエイは思ってもいなかったからである。
ソウエイも決してデイドたちのことを弱小部と侮っていたわけではなかった。しかし只の使者である自分をここまで丁重に扱われては、凝縮するしかなかったのだ。
そんなソウエイの態度はデイドにとって好ましいものであって、さらに歓待を受けることになり、宴は夜遅くまで続くことになった。
翌朝はやく、ソウエイは身支度を整えると、デイドに感謝の意を何度も繰り返し、最後に「是非とも来訪のこと、お待ち申し上げます」と言って去っていった。
使者の去ったラークの中に、デイドとズゼンとベーラーとモーカが居た。
「モーカどう思う?」
「会うべきかと」
モーカは短く答えた。デイドはその聞き慣れた優しい声にうなずいた。
しかし、その言外には「首長自ら出向く行為」が、他部族に従属ととられるのではという危惧があり、そのリスクよりクロガネと会うことの方が重要であるという助言があった。
デイドは当然その事まで含めて、了解の意を短く「そうか」とだけ答えた。
勿論デイドは会う算段であった。使者の歓待もその為である。
ソウエイはクロガネにこの事は必ず報告するだろう。
であれば、もしデイドが訪れたとき相手がどのような迎えかたをするかによって、相手の思惑がどの程度のところにあるか量りやすくなる。
「しかしデイド様はえらく……、あのソウエイという者を気に入ったようで。使者をあそこまでもてなさなくてもよかったのでは?」
少し嫉妬ぎみともとれるような口調でベーラーが言った。
「ベーラーよ、ぬしがもう少し頭を使えるようになればワシは心置きなく引退できるものを」
ズゼンが一息ため息をついたあと続けた。
「我らのこれ以上ないもてなしをあの者にしたのだ。若に対してのもてなしも最上位のものでなければ、我らに失礼となろう。ソウエイという若者はクロガネ殿にこっぴどくしかられるであろうな。むしろ若はソウエイ殿に恨みでもあったのかと思ったくらいじゃぞ」
「じいよ、それは少し勘繰りすぎだ。俺はソウエイのことはかなり気に入ったぞ。一族の力の差を傘にしない態度は、好感がもてるではないか。それにベーラーの頭が回るようになったとしても引退してもらっては困るぞ」
ズゼンとベーラーは同じように「むう」と黙りこむ。
「それより、これからの方針だ」
デイドは自分の考えを伝える。
「当然俺はクロガネ殿のもとに行く。供につれていくのは動ける戦士は皆、つれていこうと思う。後は出たとこ勝負だが、基本的には敵対はしない」
「其れがよろしいかと」とズゼン
「わかりました」とベーラー
「はい」とモーカがそれぞれ三者三様に返事をする。
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