影の民との出会い
訪問者
デイドたちの本拠は高原の中央に位置する地にあり、湖の畔にあった。
湖は水面に波一つ立たず空の青と相まって平穏そのものである。湖の反対には草原がひろがり、馬たちが草を
弱小部であるがゆえか、馬の頭数は少ない。しかし馬たちの毛並みは丁寧に鋤かれ、手入れが行き届いている。
男たちは家畜の羊たちを馬にのり追いたて、女たちは馬乳酒にする乳を雌馬から絞っていた。
遊牧民であるデイドは季節により牧草を求めさまざまな場所を訪れるが、春先になると必ずこの湖畔へ戻ってくる。
それは夕暮れになると絵画を三百六十度に広げたような均衡のとれた美しい風景があることだけでなく、かつて偉大な父親と過ごした日々や、最愛の妻であるモーカとの出会いがあった土地であることもその理由でもあった。
組立式の住居――円形のテントの様なもの――ラークは、そんな湖の畔に二十棟程建てられている。
ラークは高原の厳しい気候でも快適に過ごせるようさまざまな工夫がなされている。
羊の毛を織り込んだ白い布で覆われたラークは、暑い夏であればめくってそよ風を通し、寒い冬は暖房をつけると、その高い断熱性から中は十分に暖かい。
中でも
眉唾であるが、神話の代オーガの始まりの王は、その力を五つ防具に分けたという。その一つをデイドは身に付けていた。
原初の鎧とも、不動の鎧とも呼ばれるそれは、小さな鋼鉄の薄板を繋ぎ合わせたラメラーアーマである。
白銀に輝く鎧は呪いを持つと謂われ、正統な血筋のものでありかつ鎧に認められなければ、装備できない。
無理に着用すれば、強大な力を一瞬手に出来るが、その強大な力を発揮するがゆえ命を一瞬で燃やしてしまう。
デイドはなにくわぬ顔でその鎧を来ているため、知らないものが見ればただの頑丈そうな鎧である。しかし、鎧から力を得て常人ならざる存在となっている。
とはいっても、ただ単にありえない馬鹿力があるというだけで、不死身でもなんでもないのである。
デイドは鎧以外にも、交易で手にいれた巨人の国からきた珍しいマントや、ドラゴニュートの造った籠手、ヒュームの造った具足などただの弱小部では手にいれることのできないであろう品々を身に付けていた。
なぜそのようなものを手にいれることができたかというと、マント以外は敵から奪ったのである。
デイドの首にかけられた懸賞金を狙い、ソペニア族の将が襲ってくることがあった。それを度々撃破していると、そういったものを手にいれることができたのであった。
珍しい品を身に着けている将であればあるほど、そのほとんどが武の弱いものであった。
ある珍品ばかりで着飾った武将は身に付けていた鎧を差し出してきて、命乞いをしてきたくらいである。
ソペニアは高原では強大な勢力であり、兵力的には比べるのも馬鹿馬鹿しいほどの差があったが、そのほとんどの将兵は金に集まった烏合の衆である。
そのため高原の中央に生活圏を持っていたデイドの元に連携をもって攻めてくるというのとはあまりなく、散発的に襲ってくる自信過剰ぎみな敵将は悉くデイドの前に惨敗していたのである。
なぜデイドがそんな品々に身を包み、見映えのよい格好をしているかというと、使者の来訪があったからだ。
デイドは若干の硬さがありながらも若い声を聞いた。
「ワンユ族族長クロガネが三子ソウエイ使者として参った、アジータ族の長デイド殿にお目通り願いたい」
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