白魔女さん旅に出る

朝凪 凜

第1話

 かつて、魔女と魔法使いは共に暮らしていた。

 魔法使いは自身の力を介して物理法則を曲げることが出来る。

 魔女は精霊を使役して、この世の理とは違う現象を発生させることが出来る。

 お互いに人間とは違うという意識があり、人里を離れていった。当然人間からすれば脅威であり、畏怖の対処うとなるので、交流などは一切行われなかった。


 しかし、その時代から多くの月日が流れ、魔法使いは居なくなり、魔女だけが残ってしまった。魔法使いは己の力を使うことで次第に力が弱まり、ついには魔法を使うことが出来なくなってしまったのだ。魔法が使えなくなった魔法使いはこの里に居る意味を見いだせず、大半は出て行ってしまった。残ったわずかな魔法使いと多くの魔女が生活をしていた。


 そしてある時。その魔女は他の魔女とは決定的に違っていた。

 魔女は通常、精霊を使役するため、精霊の好む紺色などの黒系を身に纏う。そうで無ければ精霊と対話をすることが出来ず、使役することも出来ないのだ。しかしその中に。普通ではあり得ない魔女がいた。

 全身白ずくめなのだ。突然白くなったという訳では無い。子供の頃は皆と同じ黒のローブを纏っていた。しかし、ある日を境に白のローブを纏うようになった。他の者は精霊を使役できないと当然の様に思っていた。しかし、不思議なことに彼女はあたかも自然に精霊を使役していた。

 その白魔女がいると他の黒魔女の精霊が逃げていき、満足に使役できないことから、その白魔女を遠ざけた。

 運の良いことに、精霊を使った嫌がらせが全く出来なかった。逃げていくからだ。

 それでも嫌がらせに関しては全く意に介さなかった。白魔女の使役する精霊がすべて守っていたからだ。

 やがて嫌がらせもなくなり、誰も近寄らなくなった。

 白魔女は気を悪くするどころか清々した心地だった。


 だが、問題はそこでは無かったのだ。十年、二十年と経ってもその白魔女は年を取らず、ずっと元のままだった。

 三十年ほど経った時には、この村から出て行ってくれと言われた。同じ魔女内でも気味悪がるほどだった。それもそうだろう。なぜ見た目が変わらないのか、年を取らないのか、白装束で精霊が使えるのか。そんな周囲の鬱屈がついに噴出しただけに過ぎない。

 白魔女は、仕方ないと承諾し、旅に出た。


 旅に出てからは意外と快適だった。人間とも会うが白装束を纏っているから魔女とは思われず、例え魔女であっても精霊の使役が出来ないから害はないということらしかた。

 そのような旅を続けながら、彼女は何をしたいのか考えていた。今のままでも問題はないけれど、何かをしたいということも無い。

 ただ何年も人間の村を渡り歩き、時には別の魔女の村に立ち寄り、この不思議な白魔女について調べる。

 その中で見つけたもの。それは、魔法使いの作った不老不死だった。魔法使いの遺したものは、彼女の生まれ育った村で昔に不老不死を試したいたのだ。昔の魔法使いが何年も掛けて研究をし、何人もの魔法使いの魔力を注ぎ込んだ白化粉末を完成させた。

 しかしながら魔法使いがいくら試しても不老不死にはならなかった。不老の確認をする前に不死の確認をして死んでしまったのだ。

 結局失敗作ということで、物置の奥に仕舞われていた。それから何十年と放置されていたものをとある魔女が棚から取り出そうとしたときに頭から白い粉を被ってしまったのだ。

 その時は何の変化も起きず、白い粉も全て掃除して捨ててしまった。

 それからだ、精霊が見向きもしなくなったのは。彼女は何ヶ月も調べたりしたが何の成果も無かった。

 そんな折、洗濯物のシーツが風で飛んできてその下敷きになった。すると今まで近寄ってすら来なかった精霊が彼女の周りに集まってきたのだ。最初は見間違えかと思った。当然そんなことはなく、彼女のお願いも素直に聞いてくれた。そこでこの黒のローブが精霊を遠ざけていたということに気づいた。なんとこれが不老不死の副作用だったのだ。魔女にしか効かない。なおかつ、魔女の使役する精霊の視覚を惑わせる。本当に視覚なのか、あるいは別のものなのかは結局分からず仕舞いであったのだが。

 それから彼女は純白のローブを纏うようになった。


 これが彼女の白魔女となった経緯であり、不老不死となった原因でもあったということがついに判明した。

 更に調べていくと、この不老不死を戻す方法も無くは無かった。元々魔法使いの作ったもの。自分の中にあるものを具現化、変質化させるので、想いが大変重要となる、というものだった。

 方法は簡潔に書かれていた。


『自分がやり残したことは何も無い。と本心から思うこと』


 それだけだった。

 本当かどうかは分からない。しかし、この不老不死を消すことが出来るのであれば、それも旅の一つにしようと考え、また別の村へ決めた。

 やり残したこと……、やりたいことは何なのか。まるで自分探しの旅をするかのように。

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