電車

私は足をだらんと伸ばして、自分の心地よいように完全に身体を預けきっていた。ふと少しだけ上を向いてその痩せているのに柔らかな首筋にキスをした。


私はこの電車の、この車両の、この位置にかつて座ったことがあっただろうか。私はつい先日あそこにぎゅうぎゅうになって、立っていなかったか。それとも私が数年前に乗り込んだあの車両はとっくに引退してしまっているのかもしれない。いつか酔っ払って気持ち悪くなって座り込んでしまった場所をもう二度と見ることはないのかもしれない。


でも電車が動いている間は、確かに私はずっと私がかつて存在していた空間をなぞっている。だって私はこの電車のあっち側にもこっち側にも座ったことがある。線路は私が生まれる前からここにあった筈だし、地球が回っているか少しずつずれているかもしれないけれど、そんなことを言い出したら時計だって壊れてしまう。


私はいつでもそこに帰れるのだ。私は確かにそこに居たのだから。そこは永遠に私のものなのだ。

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