第4話 「魔王様、白エルフ王と邂逅する」
「こちらが報酬となります」
「そうか」
今日も、いつのもように下級魔獣を退治して、ドーペンのギルドにて、その部位の換金と報告を終える。
Dランクに昇格したといっても、ひとつ上のランクの依頼を受注できるとはいえ、今の私のランクではまだ下級魔獣しか討伐依頼を受けることは出来なかった。
Bランクからが中級魔獣であり、Aから上が上級魔獣、そしてロードクラスなのである。
部位換金に関してはこれの限りではないが、クエスト受注となるとランクの壁があるために、私はしばしば歯がゆい思いを味わされることに。
それとは別に、少し面倒くさいこともあった。
ちょくちょく上のランクの冒険者からパーティの勧誘を受けるのだ。
当然ながら、その全ては拒否していたが。
下心が丸見えなのである。
なぜ私が、男しかいないパーティに入らねばならないのか。
中には力づくで言いなりにしようとする者もいたが、私が手を出すまでもなく、ダミアンが即座に叩きのめしていたりする。
「複数の男たちから蹂躪されるクレア様は、どのように乱れるのでしょう」
などと、ふざけたことを宣うアテナは、当然ながら無視である。
(毎日討伐クエストを受けているだけあって、かなり懐が温かくなってきたな)
収支と収入は、まだ収支のほうが多いが、これはまあ仕方がないと言える。
なにせいまの私は、まだDランクなのだからだ。
しかしこの調子でランクを上げていけば、収入が収支を上回るのは時間の問題だろう。
冒険者として順調な滑り出しに、私は満足感を得ていた。
結局は、地道であろうとも、毎日の積み重ねが大事なのである。
──そして。
報酬金と換金代金を道具袋に収めてから、外へと出た時だった。
私へと、思わぬ人物が声をかけてきた。
「カッカッカ。やはりお前さんだったか、クレアナード」
「! 貴女は……」
思わず戸惑う私の視線の先には、短髪の女騎士を連れた幼女が立っていた。
ゆったりとしたローブを纏う幼女の名は、ドラギア。
白エルフ族国の王である。
外見こそ幼女のそれだったが、長寿ということもあって、当然ながら外見通りの年齢ではない。
正確な年齢は聞いていなかったが、軽く三桁はいっていることだろう。
かつて表敬訪問した際に知り合っていたので、話しかけられたこと事態は不思議に思わないが……
「なぜ一国の王が、こんなところにいるんだ?」
「お前さんが、このドーペンを拠点にしているかもしれんと、風の噂で聞いてな」
「だからって、王がほいほいと外出したらダメだろう。しかも護衛がたったひとりとか、狂気の沙汰だ」
「カッカッカ。儂はお前さんと違って、飾りの王じゃからな。実質的に国を動かしておるのは、内務卿のザザンだからの。大した問題はないんじゃよ」
「……相変わらずのようだな」
「積もる話もある。場所を変えぬか?」
ちらりと白エルフ王が周囲を見やると、にわかに騒然となっていた。
「あれは……もしかしてドラギア王じゃないか?」
「なんでここに?」
「視察予定なんかあったっけ?」
「いや、護衛がひとりみたいだけど……」
などなど、戸惑いの声が飛び交っているも、誰も近寄ってこないのは、直属の近衛騎士である女エルフ──レイが、突き刺さる程の鋭い視線を周囲に飛ばしているためである、
私は彼女とも一応面識があったのだが、彼女は私を睨むのみで、何も言ってはこない。
精霊を信仰している彼女は、精霊を道具にする魔族を嫌っているからだ。
「……確かに。もうちょっと落ち着いて話せる場所へ行こうか」
そうして私たちは、場所を移動することに。
※ ※ ※
移動した先は、あの場所から一番近い場所にあったという理由のみで、中級レストラン。
個室を借りており、私たちは周囲からの好奇の目から逃れていた。
テーブルを挟んで座るのは、私と白エルフ王。
そして私の後ろには無表情のアテナと緊張したお持ちのダミアン、白エルフ王の後ろにはずっと私を睨んでくるレイが佇んでおり。
「で、どういうわけなんだ?」
「どうとは?」
「私がこの街にいるかもしれないとして、なぜわざわざ会いにきたんだ?」
「ああ、そのことか」
運ばれてきた紅茶を一口含んでから、白エルフ王はあっけらかんに言ってきた。
「お前さんが弱体化して魔王を解任されたとの話は聞いておる。そしていま、このドーペンで冒険者として動いておるみたいだと知ってな。冷やかしてやろうと思ってな!」
「……相変わらず、性格がねじ曲がっているな。この暇人が」
「カッカッカ! お飾りの王など、暇しかないからの。白エルフ最強という理由だけで神輿に担がれた存在など、政では役に立たんということじゃ」
その口ぶりには自嘲の響きはなく、むしろ下手な仕事をしなくて楽だ、とばかりに愉し気である。
「して、クレアナードや。相変わらずお前さんは、男日照りなのかの?」
「いきなりだな」
「この歳になると、下世話な話くらいしか楽しみがないのでな」
「いくつなんだ、貴女は」
「カッカッカ! レディに歳を聞くなど野暮じゃな」
幼女の容姿で豪快に笑う彼女は、その外見にそぐわないほど、にやりっと厭らしい笑みを見せてくる。
「なんなら、儂が囲っておる男共のひとりを、お前さんに回してやろうかの?」
「相変わらず、好色なようで」
「若い男のエキスは若さを保つ秘訣なんじゃよ」
「貴女に、若作りの色情狂ババアという言葉を送ってもいいか?」
「カッカッカ! ケツの青い小娘がいいよるわ」
再び愉し気に笑ってから、その視線をアテナとダミアンへと向けた。
「儂の申し出を断るということは、あれか? そのふたりに”相手”をしてもらっておるのかの?」
噴き出したダミアンが慌てて首を左右にブンブンと振る一方で、アテナは淡々とした様子で。
「ご命令してくだされば、いつでもお相手を務めるのですが」
「おいおい……私にそんな趣味はないぞ?」
「それは残念です。いつクレア様の頬を踏みつけられるかと、いつも期待に胸膨らませていたのですが」
「……お前はいったい、どんな”プレイ”をする気なのか」
嘆息した私は、話題を変えることにした。
「世界樹で見つかった”核”は、その後、何かわかったのか?」
「世界樹の”核”か……詳しいことはまだわかっておらぬ」
「まだ判明していないのか? 発見されてからかなり経つはずだ。世界樹はエルフにとって象徴的なものなのだろう?」
「無理を言うでない。世界樹内は迷宮になっておる上に、数多の魔獣が徘徊しておるのだ。調査団とて難儀しても仕方あるまいて」
すでに地図が造られているといっても、無限に湧いてくる魔獣によって調査が困難になっている、ということなのだろう。
「そうか……しかし”核”が見つかった以上、黒エルフ族が黙っていないと思うんだが、黒エルフ族とは相変わらずなのか?」
「儂が王となる以前からの問題じゃからな。いまさらどうにもなるまいて」
「他人事だな。王なのに、関係改善をしなくていいのか?」
「所詮は、お飾りの王ということじゃよ。精力的に王として動いておったお前さんとは違い、儂は別に国のために尽力する気などないわい」
カッカッカと笑う白エルフ王の目が細まり、きらりと光る。
「クレアナードや。この地で活動するということは、
「勘違いしないでくれ。ただの偶然だ。白にも黒にも、どちらにも加担する気はない」
「相変わらず頭の固い奴じゃのう」
「それにどのみち、いまの私が加担したところで、どうにかなることでもないだろう?」
「フリーになったからこそ、出来ることもあると思うがの?」
「ずいぶんと持ち上げてくるな?」
「お前さんの表敬訪問の際にも言ったが、儂は別に、お前さんの戦闘力だけを見込んで、協力の申し出をしたわけではないからの」
「評価は嬉しいが……過大評価といっておこうか」
自嘲的に微笑した私は、少し冷めてしまったコーヒーを口に含む。
白エルフ王が、ふむ……と小さく頷いた。
「クレアナードや、これからの予定は?」
「予定か……とりあえずは、早くランクを上げたいところだな」
「ランク……ああ、いまのお前さんは、冒険者として生計を立てておるのじゃったな」
「ああ。だからまた魔獣討伐に行こうかと思っている」
「ほほう……では、儂も同行させてもらおうかの」
「……何を企んでいる?」
「そう警戒するでない。ただの暇つぶしじゃよ」
「王が城を長く離れるものじゃないと思うんだが」
「カッカッカ。儂はお飾りじゃからな。城に内務卿さえおれば問題ないのじゃよ。それに儂の代わりはいくらでもおる状態じゃ。王として振る舞うなど、滑稽でいて馬鹿げておると思わんか?」
白エルフ王からは、現状を卑下するような雰囲気はなく、ただ受け入れているだけのようである。
「じゃから今の儂は王ではなく、クレアナード、お前さんのひとりの友人として、ここにおる」
「……貴女には、貴女の苦労があるのだな」
「お互い様じゃろうて。カッカッカ」
「そうだな」
何の気負いもなく笑い飛ばす白エルフ王──ドラギアを前に、私は微笑で返していた。
※ ※ ※
ドラギアと邂逅後、私はすぐに新たなクエストを受注する。
内容は言うまでもなく、下級魔獣の討伐である。
難易度がCなのは、単純に討伐対象が多いからだ。
「ギ、ギィイイイイイ……!」
ドーペンの南西に広がる高原地帯にて、魔獣の断末魔が轟く。
私の一撃で打ち倒されたレッサー・トレントが、どうと倒れ込んでいった。
エルフ族国は森林地帯が多いために、そこに生息する魔獣も地形に合わせたものが多く、エルフ族国においては樹木魔獣であるトレント種が比較的多かった。
その理由としては、世界樹が際限なく生み出しているからである。
とはいえ、だからといってトレント種ばかり、というわけではないが。
その証拠に──
「キャウン……!」
私に飛び掛かろうとしていたレッサー・ウルフが、ダミアンの攻撃によって撃退されていた。
「ナイスだ! ダミアン」
「クレアナード様! 後ろです!」
「なに──」
もう一匹の狼魔獣が私の死角から襲い掛かってくる──その刹那、その魔獣の影から飛び出してきた黒の手ががっちりと拘束しており、宙に縫い止められる形に。
「油断大敵ですね」
「助かったぞ、アテナ」
拘束されている魔獣へとひと息に踏み込み、胴体を一刀両断。
その後も私はアテナとダミアンの援護を元に、群がる下級魔獣を撃滅していく。
そんな一方では、悠然と腕を組んでいるドラギアが離れた位置で観察しており、盾と長剣を構えるレイが、接近してくる魔獣をこともなげに切り伏せていた。
「ギィイイイ……」
「ふう……」
最後の一匹を屠った私は、乱れる息を整えるために、大きく深呼吸。
その私へと近づいてきたアテナが、ハンカチを手渡して来る。
「お疲れ様です、クレア様」
「ああ、すまないな」
受け取ったハンカチで額の汗をぬぐっていると、神妙な表情のドラギアがこちらに歩いてきた。
「予想以上に、弱体化しておるようじゃな」
「……まあな。見て、驚いただろう?」
「確かに、驚いたの」
追随するレイをその場に残して、ドラギアがゆっくりと移動する。
「クレアナードや。儂に攻撃魔法を撃ち込んでみるがよい」
「……どういうことだ?」
「お前さんの今の魔力を図るには、そのほうが手っ取り早いからの」
「なるほど……いいだろう」
私とドラギアが相対するのに合わせて、他の三人が距離をとった。
この展開に関して、
確信しているのだろう……私の魔力では、守るべき王には傷一つ付けられないということを。
(それはそれで癪だな……せめて傷のひとつくらい付けたいところだが……)
ドラギアが言い出しっぺなのだ。
傷を付けられたといっても、怒ることはないだろう。
……というか。
私自身がすでに、
「いくぞ」
「手加減はいらんぞ。全力でこい」
「……言われるまでもない」
悠然と構える幼女へと手を向け、私は渾身の火炎球を解き放った。
宙を飛翔する炎の球が、真っ直ぐに幼女へと吸い込まれていく──
が、次の瞬間。
私の渾身の火炎球は、ドラギアが魔力を帯びただけの片手で、あっさりと吹き散らされていた。
無残に四散した炎の残滓が、空気に溶けるように消えていく。
「……ふむ。本当に弱くなったのう、クレアナードや。魔法障壁を張るまでもなかったわい」
「ここまでの差が……いや、そもそもが。白エルフ族最強が相手なんだ。当然の結果じゃないか?」
「カッカッカ。言い訳とは、お前さんにしては珍しいの?」
「っ……言い訳すらさせてくれないか」
「言い訳でお前さんが満足するなら、儂は別に構わんぞ?」
「……手厳しいな」
「儂は、男には甘いが、同性には厳しい女なのじゃよ」
「同性から嫌われるタイプだな」
「カッカッカ! 女に嫌われても痛くもかゆくもないわい」
小さい胸を揺らして豪快に笑うドラギア。
ちらりと視線を傍に向けると、アテナが魔獣の部位回収を行っており、ダミアンも手伝っていた。
さすがにレイはそんなことはしておらず、じっと佇み、私に鋭い視線を向けてくるのみだった。
(さすがに、こうずっと睨まれるとな……)
表敬訪問時から、レイはずっと私を睨んできていた。
別に気にはしないが、気持ちがいいものではない。
「ドラギア殿、少しレイと話をするが、いいか?」
「レイと? まあ構わんが──”殿”はよしてくれないかの。お前さんからじゃ、くすぐったいわい」
「しかし、いまの私は一介の冒険者だ。さすがに、一国の王を呼び捨てにするのは……」
「相変わらず頭が固い奴じゃ。いまの儂は王ではなく、友人と言ったはずじゃぞ?」
「……そうか。わかった。貴女がそう望むなら、これからはそうしよう」
微笑で返してから、私は離れた位置にいるレイの元へと歩いて行った。
※ ※ ※
「レイ、少し話があるんだが、いいか?」
「……何でしょうか?」
硬い声なのは、こうして私が直接話しかけることが初めてだからか。
しかし相変わらず、私を睨んだままではあったが。
私は、こほんと小さく咳払い。
「いまの私は、もう王じゃない。だから、私に言いたいことがあるのなら、遠慮なく言ってほしい」
「……どういう意味でしょうか?」
「私は回りくどい言い方は好まんからな、はっきり言おう。なぜ私を睨んでくるんだ?」
「え……?」
睨んでくる彼女に、初めて戸惑いが生まれる。
「私が……睨んでいる?」
「ああ。以前の表敬訪問の際から、ずっと気になっていたんだが。私が何か、君にしたんだろうか?」
「…………」
私を睨んだままでしばらく沈黙した彼女は、こちらの予想を裏切り、いきなりぺこりっと頭を下げてきた。
「申し訳ありませんっ。私はそんなつもりじゃなかったんですが……っ」
「……えーっと。どういうことなのか説明がほしいんだが……」
思わぬ反応に私が戸惑ってしまうと、レイは睨んだままで弁明を始める。
「私は単純に、その、目つきが悪いんです。だからよく、いろんな人から誤解されてしまって」
「……ああ、そういうことだったのか。てっきり、私が魔族だからと敵視しているのかと」
「とんでもないです。確かに魔族は好きじゃないですけど、だからって魔族全体を敵視しても意味がないことですし」
「じゃあ、なぜずっと私を?」
軽い気持ちで聞いてみただけだったのだが、問われたレイは頬を薄っすらと赤めてきた。
「クレアナード様が、その……とても
「……っ」
「私はもう貴女の虜なんです。身も心も捧げたい気持ちでいっぱいだったのですが、いかんせん貴女は魔王という立場であり、身分違いも甚だしく……だから見つめるだけで我慢していたんです」
「……えーっと。レイ、君は女性だよな?」
「はい。でも、性別なんて真実の愛の前には、関係ないことなんです」
うっとりとした目つきで、私を睨んで──見つめてくるレイに、私は少しだけ顔が引きつる。
私が軽く引いていることなどお構いなしで、彼女は紅潮し出した顔で言葉を紡ぎ出してきた。
「ドーペンで再会できた時から、どうやってお声がけしようかと悩んでいたのですが……良かったです。まさか、クレアナード様のほうからお声をかけてくださるなんて。あ! もしかしてクレアナード様も──」
「おや? 何やらドラギアが私を呼んでいるな。この話は、また別の機会にでもしよう」
適当なことを言って、私はドラギアのもとへと小走りで向かう。
その背中に、ウフフっとレイのつぶやきが。
「意外と恥ずかしがり屋さんだったんですね。ステキです」
背筋がゾクっと震える私だった。もちろん、畏怖で。
「おや? レイとの話は終わったのかの?」
小岩に腰かけて、アテナたちの魔獣からの部位回収を眺めていたドラギアが、私に目を向けてきた。
「……なんというか、変わった子なんだな」
「カッカッカ! だからこそ、近衛として儂の傍においておるんじゃよ」
「どういうことだ?」
「さすがに、就寝中に夜這いされては堪らんからのう」
「……っ」
主も主ならば、仕える従者も従者、ということなのだろう。
以前からの懸念が解消されたのは良かったか……
「儂らが同行中は、夜中は気を付けたほうがよいぞ? いまのお前さんでは、レイには敵わんだろうからの。まあ、力づくで屈服されるのが好きというのであれば、ドアの鍵は開けておけ」
「……主として、従者を止めてはくれないのか?」
「カッカッカ。”欲”は誰にも止められぬよ。儂自身がそうなのじゃからの」
「……欲に溺れる主従か。面倒な」
「カッカッカ。お前さんが淡泊なだけじゃよ。たまにはハメを外すのもよいものじゃぞ?」
「貴女には、”節度”という言葉を贈ろう」
苦々しい表情の私の言葉に、ドラギアは「カッカッカ!」と愉快そうに笑うのだった。
※ ※ ※
※ ※ ※
(あのひとが魔族の王……クレアード……)
白エルフ王の後ろに控える近衛騎士レイは、ごくりと唾を飲む。
その日、白エルフ族国は緊迫した空気に包まれていた。
魔王が表敬訪問にやってきたからである。
突然ではなくきちんと事前連絡があってのことではあったが、それでも当日を迎えると、緊張は隠せなかったのだ。
なにせ、この訪問で何か不手際が起こった場合、種族同士の大戦に発展しかねなかったからである。
実質国を取り仕切っている内務卿のザザンは、王同士の方が気楽に話せるだろうという建前でもって、魔王の相手を白エルフ王に一任していた。
つまりは、方便で魔王の相手を逃げたのである。
国の今後がかかっているというのに及び腰なのは、やはり魔王が魔族最強の実力を有しているからだろう。
王には王をというのは表向きで、その真実は最強には最強を、という腹積もりだったのである。
「カッカッカ! こうして話をしてみると、なかなかに話がわかるではないか」
「私も少し緊張していたが……おかげで楽になったな」
王たちは意外と意気投合しており、会談は傍から見ても成功していると言えた。
そのため、もう何の心配もする必要はないだろう。
(なんて綺麗なひとなんだろう……)
レイは、魔王に釘づけとなっていた。
憂いを帯びた切れ長の目。
流れる様な綺麗な髪には艶があり。
無駄な肉のない肢体などは、もはや神の造形美ではと、思ってしまうほど……
レイは、自分にはない完璧な女らしさをもつ彼女に心を奪われてしまっていた。
もともと男に興味がなかったこともあって男っ気が強くなってしまっていたが、だからといって、別に女が好きというわけでもなく。
ただただ、他人に興味がなかったのだ。
それゆえに魔王の美貌は衝撃的であり、心を射止められた彼女は、一瞬で虜になっていたのである。
(美の女神……)
そんな言葉が思い浮かんでしまうが、過大評価ではないだろう。
(ああ……クレアナード様に抱かれたら、どれほどの至福を得られることだろう……)
王の警護役である彼女は仕事そっちのけで、もうクレアナードから目が離せなかった。
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