第2話 「魔王様、エルフの冒険者ギルドに行く」

 何事もなく無事に目的地である都市ドーペンに到着した私たちは……明らかに住民たちに注目を受けていた。


 衆人観衆からの、様々な視線が私に向けられてくる。


 エルフ族国に魔族が来ること自体が珍しいことでもある上、さらには精霊を連れており、しかもその魔族がエルフ以上の美貌の持ち主とあっては、好奇を寄せるなというほうが無理な話だろう。


 そんな中には、明らかな敵意が含まれた視線も混ざっていた。

 精霊を使役していることが、精霊を信仰している彼らにとっては好ましくないからだ。


 いつ襲ってくるかと警戒しつつ冒険者ギルドに向かいながら、私は傍らを堂々と歩くアテナに目を向ける。



「アテナ。だから精神世界に戻ってくれと言ったんだ」

「まだ眠たくないのです」

「だったら馬車で待機しているとか……」

「私にだけお留守番を? ご自分は街で面白おかしく過ごされるというのに? 鬼畜の所業ですね」

「……登録に行くだけだろうが」



 と、その時だった。

 小石が投げられてきた。

 もちろん、私めがけて。



「──っ」



 油断でなく……普通に回避が遅れてしまい、私のこめかみに衝突。

 弱体化前の私だったら余裕で避けられたのだろうが……



「精霊様は神様なんだ! 魔族はあっちいけ!」



 まだ幼いエルフが、私を敵意丸出しで睨んでくる。

 この光景を前に、周囲にいたエルフたちが動きを止め、息を呑んだ。

 空気が凍るとは、まさにこの事だろう。


 つうっと私の額から血の糸が引かれるのと同じくして、動きを見せた者がいた。

 その子供の母親らしきエルフである。

 彼女は慌てて子供を抱きしめて、必死の形相で私に頭を下げてきた。



「ごめんなさい! うちの子供がとんでもないことを……! ああ、どうしよう……血がっ」

「ぼくは悪くないよ! 精霊様をどれいにするあいつが悪いんだよ!」

「いまは黙っててお願いだからっ、ねっ? いい子だからっ」



 母親が必死に尚も言い募ろうとする子供の口を塞ぐ。

 やがて周囲がざわめきだした。

 本来なら別にそこまで大騒ぎすることでもないのだが、それだけいまの私は、注目を受けていたということなのだろう。


 取り出したハンカチで私の額の血を吹きながら、淡々とした様子のアテナが問うてくる。心配するどころか、逆に非難する響きを込めた声で。



「クレア様。確か、ずっと周囲を警戒していらしたはずですよね?」

「……ああ、そのつもりだったんだがな」



 これも弱体化の影響……と言い訳したいところだったが。

 まさか子供から攻撃を受けるなんて思ってもいなかったので、普通に反応が遅れてしまったのである。

 それでも、さっきも述べたが弱体化前ならば、余裕で防げたはずである。



(このまま立ち去ってもいいが……どうしようか)



 子供はまだ私に敵意を向けており、その母親は子供を抱きながら何度も謝罪しており、周囲は周囲で私たちを固唾を呑んで注視している。


 以前の表敬訪問の時はこのような事態はなかった。

 まあ、万全の警備態勢のもとだったから、といえばそれだけなのだろうが。


 何か良いこと良からぬことを思いついたようで、アテナがポンと両手を叩き、子供へと話しかけた。



「ぼく、私とクレア様は仲間なのですよ」

「うそだい! じゃあなんで”様”をつけるんだよ! おかしいじゃないか!」

中なので」



 子供になんてことを言うのだろうか。

 私は思わず吹き出しそうになり、母親も愕然とした眼差しになっていた。

 子供は子供で、よく意味がわからなかったようだが、それでもまだ納得していない様子。



「で、でも、魔族は精霊様を虐げてるって……」

「一部の魔族はそうしているようですが、クレア様は違います。私とクレア様は仲良しなのですよ。その証拠を見せてあげましょう」



 そういってアテナは、私に耳打ちしてくる。



「まじか……」

「誤解を解くには、”これ”が一番早いかと」

「……はあ。仕方ないな」



 なぜここまでしなくてはならないと思いながらも、これ以上、下手に事を荒立てたくない私は少しだけ腰をかがめる。

 するりとした意外と軽快な動きで、アテナが私におぶさってきた。

 要は、普通の”おんぶ”である。



「ほら、見てください。使役されている精霊が主に負ぶさるなんてこと、在り得ないですよ?」

「ほ、ほんとだ……」



 子供から見る見る敵意が消えていく。

 母親や周囲の目も、驚きを隠せない様子だ。



(その”在り得ない”ことを、いまお前はしてるんだけどな)



 内心で溜め息ひとつだった。



 その後、アテナの機転(?)でその場を収拾した私たちは、そのまま通りを歩き、冒険者ギルドへと向かっていた。

 しかしというべきかなんというか、今も尚、通りを行く人々からは好奇の目が向けられてきていたりする。



「……おい、アテナ」

「はい、何でしょうか? クレア様」

「お前は、なぜ今も私に負ぶさっているんだ?」

「楽だからです」

「直球だな」

「それに、クレア様に負んぶしてもらう機会なんて、そうそうないですから。今をもっと愉しまないと」

「あ、こら! だからって、背中でゆさゆさするんじゃないっ」

「クレア様も、私の胸が当たるというハプニングに、内心でドギマギでは?」

「女の私がドギマギするわけないだろうが……」



 降りる気配がまったくないアテナに、私はやれやれと溜め息ひとつ。

 彼女とのやり取りでは、本当に何度も溜め息をさせられるというものである。


 そんな私とアテナの戯れに、エルフ──主に男性陣が、思わずといった感じで魅入っていた。


 私の美貌は言うに及ばず、アテナとてエルフに負けず劣らずなので、そんな美女ふたりが真昼間の往来で戯れていれば、嫌でも目で追ってしまうだろう。


 エルフとはいえ、彼らも男なのである。

 情欲を掻き立てられたとしても、仕方がないのだ。

 彼女持ちや妻がいる者たちは叱られていたようだったが、それは自業自得であり、私の関知するところではなかった。


 ちなみに、ひとつ訂正するならば。

 アテナはいつもの如くふざけているようだが、私はいたってふざける気などはないのである。




 ※ ※ ※




 男共の視線を受けながら、通りを歩くことしばし──


 ようやく、冒険者ギルドに到着する。

 結局アテナは、まるで降りる気配がなかったが。


 造りは至って平凡だった。

 冒険者ギルドの共通マークである絵が描かれた看板が入り口横に置かれており、割と多くの人間が出入りを繰り返していた。


 さすがに魔族の姿はなかったが、白エルフはもとより、少数ながらも有翼人族や竜人族の姿も見受けられた。

 森の民と呼ばれるエルフ族国であるだけに、空の民である有翼人族、山の民である竜人族とも交流があるらしい。


 ちなみに、魔族国とは国交がなかったりする。

 精霊に関する位置づけが違うのが、その大元の理由だった。

 有翼人や竜人も、エルフ側の考え方だからだ。

 国レベルではなく個人レベルでなら付き合いなどはあるだろうが、その程度ということだ。


 そういった意味合いでは、表敬訪問した魔族の王たる私を受け入れたエルフ族は、寛容といえるだろう。


 なぜか無言のアテナを負ぶったままギルド内へと入ると、いきなりケンカを吹っかけられてきた。



「魔族が! 俺がぶっ殺してやる!!」



 人族の男だった。

 身なりから、ただの冒険者といったところだろうか。

 しかしながら面識はない。

 恐らくは、私が魔族という理由だけで突っかかってきたのだろう。



(これだから人族は……)



 辟易の面持ちでいると、警備らしいふたりのエルフがすぐに動きを見せており、その人族を取り押さえていた。



「な、何をするんだ!?」

「ギルド内において、いかなる理由があろうとも諍いはご法度ですので」

「だ、だがこいつは魔族──」

「それは、人族と魔族の話です。私たちエルフには関係ありません」

「ちょ、まっ──」



 ふたりのエルフに強引に連れられて、人族の冒険者は室内の別の扉へと連れて行かれた。

 裏口に繋がっているのかもしれないが、現状では確かめる術などはない。



「エルフの国に魔族の冒険者とは珍しいですね」



 職員らしきエルフが話しかけてきた。

 しかしながら、その後ろには警備のエルフがわずかに身構えており、警戒した眼差しで私を見据えている。



「貴女も相手が人族だからと、諍いを起こすつもりでいたりしますか?」

「まさか。冒険者として登録しに来ただけだ。もめ事を起こすつもりはない」

「そうですか、それはよかった。私としても、精霊を負ぶっている方を追い出すような真似はしたくなかったもので。安心しました」



 ふたりのエルフは私にその気がないことを見て取ると、安堵の息を吐いてから、一礼してから去っていった。

 職員に言われて思い出した私は、じろりと、背中にいるアテナに目を向ける。



「いつまで負ぶさっている気だ?」

「…………」

「アテナ?」

「……はっ。すいません、あまりに居心地が良くて、つい居眠りをしていました」

「まじか……」



 どうりで、急におとなしくなったなと思ったものである。



「クレア様。我が儘をひとついいでしょうか……?」

「なんだ?」

「ものすごく眠いのです。もうしばらく、背中を貸してください……」

「精神世界に戻ればいいだろう」

「……ぐー……」

「ちょ、まじか……」



 背中から小さなイビキが聞こえてくる。

 演技ではなく、本当に二度寝してしまったようである。



「……やれやれ。仕方のない奴だ」



 さすがにたたき起こすのは可哀想なので、やむなく私はアテナを背負ったままで受付カウンターへと。

 精霊を背負う私を見て受付嬢が両目を丸くするも、すぐに応対してきた。



「ご、ご用件は?」

「冒険者として、新規登録をしたい」

「新規登録ですね。ではまずは、こちらのオーブにて審査をしますので、お手を」



 左手でアテナを支えながら、右手をオーブに乗せる。


 明滅する色は……青。



「ブラックリストには載っていませんね」



 内心ほっとする私とは違い、受付嬢は平然としていた。

 まあそれもそうだろう。彼女にとっては、いつものことなのだから。



(さすがにブレア新魔王とはいえ、エルフ族のギルドにまでは手を回せなかったか)



 国ごとにギルドが独立しているのは、他国からによるよけいな内部干渉を避けるためなのだ。

 トラブルを避けるためにこのような仕組みになっているのだが、今回はそれに助けられたといったところだろう。



「では、他国で発行された冒険者カードをお持ちならば、ご提示ください。既存のランクと同等のカードを発行いたしますので」



 実力が明らかならば、いちいち新人のEランクから登録はしないということである。このような仕組みは、国を転々とすることもある冒険者家業においては、大変好評らしい。



「いや、どの国においても、私は冒険者カードを持っていない」

「はい……? えーっと……それでは、今回が初めての登録ということでしょうか?」

「そうだ」

「……わかりました。では、Eランクのカードを発行するので、こちらにお名前をお願いします」



 一瞬訝しんだ受付嬢ながらも、何も聞いて来なかったのは、さすがはプロということだろう。

 大なり小なり、人にはそれぞれ事情があるのだ。

 今まで冒険者とは縁のなかった者が、冒険者に状況も多々あるために、この受付嬢はあえて問いたださなかったというわけだ。


 こうして無事に冒険者登録を済ませた私は、晴れて冒険者(Eランク)となることに。


 本気で眠りこけているアテナを背負いながら、私はいろいろなクエストの紙が張り出されている場所へと移動する。

 そこには多くの冒険者の姿があり、自分の実力と相談しながら、クエストを吟味していた。



(いまの私はEランク……最大でもDランクまでしか受けられない、か)



 難易度がEのクエストは、主に薬草や鉱石などの採取、どこかへ行ったペットの捜索、依頼主の代わりに買い物、ストレスを抱えた主婦の愚痴相手等、新人というよりも何でも屋といった内容であり、しかしそれに比例して命の危険が伴うリスクは、皆無のものばかりだった。



(さすがに、こんなちまちましたクエスト、受ける気にはならんな……)



 私が見るのは、Dランクのクエスト覧である。

 Dランクからは、魔獣退治の依頼が受注できるのだ。

 とはいっても、討伐対象は下級魔獣に限られるが。


 回収したオーク・ロードの部位は後で換金予定だが、それだけでは私が討伐したとは信じてもらえないだろう。

 一度限りでは、誰か上位の冒険者が討伐して、そのお零れに預かったと思われるのがオチであり。

 やはり定期的に取り引きがあってこそ、実力を評価してもらえるのだ。

 

(面倒だが仕方ないな。Dランクの依頼魔獣退治を片付けながら、さっさとランクを上げるとするか)


 Dランクの依頼書を持って、受付カウンターへと。

 依頼書を受け取ったのは、狙ったわけではなく、ちょうど空いていたので、さっきと同じ受付嬢である。



「これは……魔獣討伐ですが、間違いではありませんね?」

「ああ、間違ってはいない」

「……こんなことを言うのは職員規律に少し抵触してしまうのですが……貴女は先ほど、新人登録したばかりです。さすがに、Dランクの魔獣退治は荷が重いのではありませんか?」



 どうやら、私のことを心配してくれているようである。

 そこで私は、道具袋からオーク・ロードの部位を取り出した。



「ついでに、これを換金したい」

「え……これは……!? ロードクラスの部位じゃないですか!」



 驚いたのか少しだけ声が大きくなる受付嬢。

 そのせいで、室内にいた者たちの視線が集まってしまう。


 通常ならばロードクラスはダンジョン等の奥深くにしかいないため、並みの冒険者ではめったにお目にかかれない。

 お目にかかれたとしても倒せる者はさらに限られるので、ロードクラスの部位は、かなりの希少価値があるのだ。


 そのため、受付嬢が驚いたとしても、無理らしからぬことだった。



「少なくとも、ロードクラスと相対しても生き残れるだけの実力はあるつもりだ」



 あえて自分が倒したとは言わない。

 この場で言っても、信じてもらえないだろうからだ。



「な、なるほど……確かに、それならば下級魔獣には遅れは取りませんね」



 どうやら受付嬢は納得してくれたようで、Dランクの依頼を受理してからロードクラスの部位鑑定を行い、見合った額の金額(予想以上に大金)を支払ってくれたのだった。




 ※ ※ ※




「……ちっ」



 ギルドを後にした私は、忌々し気に舌打ちする。

 後をつけてくる気配を感じ取ったからだ。

 すると、背中から小声でアテナの声が。



「どうやら付けられていますね」 

「起きたか」

「先ほどから起きていました」

「な……じゃあ、なんで降りなかった? いや、寝たふりしていた?」

「歩きたくなかったもので」

「……ああ、そうか」



 脱力するも、私はそのまま路地裏へと入る。

 エルフ族とはいえ人間であることに変わりなく、整理整頓された街並みが全てではないようで。

 路地裏に入るとひと気は急に少なくなり、ゴミなどが道の端々に落ちているほどだった。


 ようやくアテナが背中から降りたので、まさに肩の荷が下りた私が振り返ると、隠れるつもりもないのか数人の人物たちが後ろにいた。



「人族、か」



 身なりから冒険者のようであるが、気づけば、さっきギルドにおいてケンカを吹っかけてきた奴もいたりする。仲間だったということだろう。



「魔族のに大金もってちゃダメだろ?」

「魔族が生意気なんだよ」

「魔族ので見た目はいいからな、可愛がってやるよ」

「魔族が人族様に可愛がられるんだ。光栄に思えよな?」



 人族の冒険者たちが口々に言ってきた。

 人数差で勝っているからか、彼らからは余裕すら感じ取れる。

 しかし一様に、彼らからは魔族を見下す空気がプンプンしていた。



(人族というのは、なんでこうも……)



 私は辟易する。

 アテナも同様だったようで、無表情のままで嘆息を零していた。



(とはいえ、人族だけのことは言えないがな)



 魔族は魔族で、人族を侮蔑する風潮があったりするからだ。

 どっちもどっち、ということである。

 ハルス村のような偏見を持たない者も一部にはいるが、本当にごく一部ということであり、魔女アルペンは本当に運がよかったということである。

 もし他の村だったならば、貼り付けにされていたか、その場で槍で串刺しだったことだろう。



「クレア様、このようにあからさまにケンカを売られているのです。殺しましょう」

「おいおい……やけに物騒な物言いだな」



 無表情ながらも怒りを滲ませるアテナに、私は苦笑い。

 どうやら、魔族というか私が侮蔑されていることが面白くないらしい。

 普段からこういう風に素直ならば、もっと可愛げがあるのに、と思ってしまう。


 人族の冒険者が舌打ちしてきた。



「魔族程度が人族様に逆らうってか? しかもEランクが俺たちCランクに勝てると? こりゃあ、痛い目を見せて現実ってもんを、よおくわからせてやったほうがいいな」



 冒険者たちが武器を構えたのに合わせ、その通りにいた数人の住人らしき者たちが慌てて逃げていく。



「やれやれ。ランクでしか相手を見極められない低俗が言ってくれますね。さあ、クレア様。この不届き者たちに天誅を与えてください。私は温かく見守っていますので」

「炊きつけておいて、自分は何もしないってか……まあ、別にいいが」



 抜刀して、その切っ先に蒼雷を纏わせる。

 一触即発となるその瞬間──




 一陣の疾風が、その場を駆け抜ける。




 冒険者たちは成す術もなくその場に崩れ落ち、全員が一様に意識を失っていた。

 突然の出来事に驚くこともなく、私は静かに剣を鞘に納める。



「腕を上げたみたいだな? ダミアン」



 忍び装束に身を包む少年に、私は笑いかけた。



「お久しぶりです、クレアナード様」



 頬を薄っすらと赤らめる密偵少年は、にっこりと、純真そうな笑みを向けてくるのだった。




 ※ ※ ※


 ※ ※ ※




 頼りなさげに揺れる蝋燭だけが明かりの中、そのやりとりは行われていた。



「最初に言っておく。失敗した場合、は一切関知しないぞ。あくまでも、お前が”勝手”にやることだ。よいな?」



 椅子に座る人物の顔は暗闇で見えないものの、声から判断するに女性らしく、その彼女の正面にて片膝をつく黒エルフの女は、恭しく頷く。



「承知しております。すべては、主様の大望の御為。この命、捧げる覚悟です」

「勘違いするな。成功した暁には、それ相応の報酬は約束する」

「在り難きお言葉」

「妾に忠誠の証を」



 椅子に座る女が足先を優雅に伸ばすと、黒エルフが恭しくそのつま先に口づけをした。

 頬が薄っすらと紅潮していることから、その行為はむしろ本心から望んでいるのだろう。

 いつまでも口づけを続ける黒エルフだったが、足が下ろされたことで名残惜しそうに顔を歪める。



「では行け。必ずや成功させよ」

「──はっ」



 一瞬だけ蝋燭の明かりが明滅するや、女の姿はなくなっていた。

 その場に残った椅子に座る人物は、小さく嘲笑を浮かべる。



「この計画がうまくいけば、勢力図は大きく変わる……」



 蝋燭の揺らめきで、一瞬だけその人物の顔が見えた。

 その人物の顔は──


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