第69話 マジック・アイテム

 アリーナとアイリーンが、屋上で罪もない学生相手に暴れたため、寮の自室での謹慎処分を食らってしまった。

 アイリーンやイザベラと、まだそれほど仲良くなってない私としては、どうしたもんかと悩む状況だった。

 全く、なにをやっているのやら……。

「うひゃひゃひゃ!!」

 ……例の如し。

「できる、できるぞ。その文法で私と勝負するかね!!」

 私は研究室で、もうすぐ画期的に使えない魔法を開発しようとしていた。

 研究室の扉が、攻撃魔法を受け止めた手応えがあった。

「お得意の反射結界だ。ざまぁみろ!!」

 しかし、解除呪文の手応えを感じた。

「避けたか。甘い、そんな魔法じゃ私の結界は解けん。そして、結界魔法って攻撃魔法としても使えるんだよね……」

 私は笑みを浮かべ、外の気配を探った。

「……あれ、五人もいるぞ。イザベラじゃなかった!?」

 一瞬、ビビった瞬間、窓ガラスを突き破って部屋に頭を剃り上げてるんだが、極限まで薄いんだか分からない、白い服を着たオッチャンが飛び込んで来た。

「……こ、ここ、三階」

 オッチャンは私に軽く頭を下げ、結界で固めた扉を血まみれの裸足で蹴り破った。

 そして、外にいた誰かと格闘する音が聞こえ、裸足の走り去る音が聞こえた。

「……この学校、たまに変なのがいるんだよな」

 よく分からなかったが、私には関係なさそうなので魔法の研究を再開した。

「ったく、なんだよ。忘れちまったじゃねぇかよ」

 私はため息を吐いた。


「よし、学生課にいうとすぐ扉を換えてくれるんだよな。もう、慣れっこってか!!」

 私が新しくなった扉を前に笑った時、攻撃魔法が叩き込まれてぶっ飛ばされた。

「あれ、先生が瓦礫に埋もれて死にそうになっていますね。趣味ですか?」

 イザベラが笑みを浮かべた。

「しゅ、趣味なわけねぇだろ。早く助けろ!!」

「ああ、違いましたか。では、急がないと」

 私が床との間に挟まっていた扉の破片をイザベラが退けた。

「ったく、殺す気か。いいから、もう普通に入ってこい!!」

「それは出来ません。気合いが足りねぇと怒られます」

 イザベラが笑みを浮かべた。

「お、怒らねぇよ。扉ぐらい、普通に開けてくれよ!!」

「まあ、そんな事はどうでもいいです。アイリーンがバカやったせいで暇なのです。今日は授業が終わりましたし、先生も暇なのでは?」

 アイリーンが聞いてきた。

「まあ、暇っていえば暇だな!!」

「では、いきましょう」

 アイリーンが私を抱え、部屋から連れ出した。


「おいおい、どこに行くんだよ!!」

「私の部屋です。どうしても会いたくてしょうがないという友人が、いい加減連れてこないとぶっ殺すぞと、真顔で脅すもので……」

 イザベラはは寮の廊下を歩きながら、ため息を吐いた。

「……イザベラをぶっ殺すほど私に会いたいって」

「困ったものです」

 イザベラは、しばらく歩いて部屋の扉を開けた。

 中には三人ほど、元気良さそうな女の子がいた。

「おお、連れてきたぞ!!」

「マジで猫だ!!」

「猫とは聞いていたけど、マジで猫だ!!」

 三人が声を上げた。

「……はい、猫です。ごめんなさい」

「先生は人見知りだから、がっつかないの!!」

 イザベラはため息を吐き、私を抱えたままベッドに腰を下ろした。

「さ、触ってもいいのかな?」

 一人が近寄ってきた。

「……い、いいよ。噛まないでね」

 その子が私の頭を撫で撫でしていると、もう一人がちゅ~るを出した。

「く、食うのかな……」

「……食うよ。メッチャ好物だよ。半端なく美味いよ」

 その子が袋の封を切ると、芳醇な香りが漂った。

「……ちょうだい。最近、誰もくれない」

「くれって。好きなだけ食え!!」

 その子はせっせと私に食わせ始めた。

「……うむ、美味いぜ」

「美味いってよ。今度は猫缶だせ。どっかに買って転がしておいただろ!!」

 三人目が部屋中探して、猫缶を見つけた。

 私は呪文を唱え、猫缶の蓋を開けた。

「うぉ、自分で開けた!?」

「……はい、死活問題です」

 まあ、要するにひたすら食わされた。

「……で、私に会いたかった理由って?」

「はい、伝説の猫が本当に猫か知りたかったのです!!」

「でも、あの扉がどうしてもぶっ壊せなくて!!」

「ついでに、猫好きなんで!!」

 イザベラが私を撫でた。

「ごめんなさい、こんな下らない理由で」

「……いや、いいよ。秘密は知りたくなるもんだし、それを探求するのが魔法使いだ」

 私は笑みを浮かべた、

「好きなように触っとけば。意味があるか分からんけど」

 私は小さく息を吐いた。

「おい、触っていいってよ」

「触ると魔力アップするらしいぞ!!」

「だから、イザベラはすげぇんだよ!!」

 三人に揉みくちゃにされながら、私は思った。

 ついに、謎のマジックアイテムになってしまったと。

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