第68話 先輩と先生二人

 ちょっといったが、アイリーンとイザベラは仲良しコンビである。

 魔法学校にいるのになんか物理なアイリーンと、ちゃんと魔法なイザベラ。

 それは、私とアリーナの関係に似ていた。

 この二人のお気に入りの場所は、屋上の片隅にあるベンチと決まっていたのだった。

「うわっ、ホントにいやがった!!」

「だからいるっていっただろ!!」

 昼休みにアリーナに抱えられ、私は屋上にきていた。

「あれ、先生とボス」

「おう、先輩とボス!!」

 アリーナの呼び名が、完全にボスになっていた。

「あ、あのさ、ここでボスってやめてくれない!?」

 アリーナが声を上げた。

「いえ、名前を知らないもので……」

「うん、ボスとしか知らない!!」

 二人の言葉に、アリーナがスッコケそうになった。

「……おい、ボスだってよ!!」

 私は笑みを浮かべた。

「アリーナと呼べ。ボスはもういい!!」

 アリーナが怒鳴った。

「はい、アリーナ先生」

「おう、アリーナ先輩!!」

 二人が笑みを浮かべた。

「い、いや、普通にアリーナでいい!!」

「そうはいきません」

「おう、ダメだ!!」

 アリーナは私を抱きしめた。

「お、落ち着かねぇ!!」

「……私の気持ちが分かったか?」

 アイリーンが二人分とは思えない量のサンドイッチが詰まったバスケットを見せた。

「ちょうどよかったぜ。気合い入れすぎて、量産型ミックスサンドを大量に作っちまった。四人で食えばちょうどいいだろ!!」

 アイリーンがアリーナを引っ張って、ベンチに座らせた。

「な、なんだおい、食えってか!?」

 アリーナが声を上げた。

「おう、ボスから先輩になったんだ。なんも問題ねぇ!!」

「はい、この方が楽しいでしょう」

 イザベラが笑みを浮かべた。

「おい、サーシャ。どうすりゃいいんだよ!?」

「食えばいいだろ。なんもはいってねぇよ!!」

 慌てるアリーナに、私は笑った。

「ほら、食え!!」

 アイリーンがアリーナにサンドイッチを押し付けた。

「……食うぞ」

 アリーナがサンドイッチをモソモソ食った。

「意外と美味いぞ……」

「おう、アイリーンはこう見えてメシ作りが上手いぜ。いつも、扉を蹴り破って勝手に夜食持ってくるからな!!」

 私は笑った。

「……聞いてねぇぞ?」

 アリーナが変な笑みを浮かべた。

「あっ……」

「ほら、ガンガン食って!!」

 妙な空気を放ったアリーナなど構わず、アイリーンが口にサンドイッチをねじ込んだ。

「……くそ、私より美味い」

「……これ以上は、なにもいわねぇ」

 程なくサンドイッチを全て平らげ、アイリーンが太ももに装備していたメイスを取りだした。

「名前が分からなかったけど、先輩をみて格好良かったから真似してこれにしたぞ。使いかたが分からん。ぶん殴ればいいのか?」

 アリーナがため息を吐いた。

「まあ、基本それだけどな、ぶん殴るったってただぶん殴らせてくれるわけがねぇ。体捌きがなってねぇと、ただの棒だ!!」

 アリーナが笑みを浮かべ、メイスを抜いた。

「よし、あそこでボケッとしてる馬鹿野郎どもを襲撃するぞ。みて覚えろ!!」

「はい!!」

 アリーナとアイリーンは、メイス片手に暇そうにしていた学生の群れに襲いかかった。

「おいおい……」

「先生、あっちはやらせておきましょう。昨日、考えたのですが……」

 イザベラがベンチに座ったまま、ノートを開いた。

「……うん、よく出来てるな。でもこれ、使うとここの校舎ぐらいぶっ飛んじまうぞ。もう少し威力を抑えろ」

「分かりました」

 派手な殴打音が聞こえる中、私とイザベラは静かに魔法の検討をしたのだった。

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