第67話 もう一人の後輩

 私に接近を試み始めたのは、アイリーンだけではない。

 こっちも見習い課程だが、なかなかいい魔法のセンスをもっている。

 アイリーンと同じクラスらしいが、要するに仲良し二人組だった。

「うひゃひゃひゃ!!」

 ……最近これ。

 例に寄って研究室で暴れていると、ど派手な爆発と共に扉が吹き飛んだ。

「出たな、イザベラ!!」

 ぶっ飛んだ扉を潜り、大人しそうな女の子が入ってきた。

「あの、先生。今のはどうでしょうか?」

「まだ魔力の収束甘い。それと、先生と呼ぶな!!」

 筋肉に寄ってしまったアイリーンとは逆で、こっちは正統派の魔法使いだった。

 アイリーンが先輩なら、イザベラは私の事を先生と呼ぶ。

 どっちにしても、居心地が悪かった。

「そうですか……今の呪文、これなのですが」

 イザベラがノートを私に見せた。

「……甘い。こんなんじゃ、そこの扉しかぶっ壊せねぇよ。私ならこうしてくれる!!」

 その呪文の下に、私は赤ペンで新たに呪文を書いた。

「これで、なんだってぶっ壊せるぜ。攻撃魔法ってのは、まずはぶっ壊せねぇと話にならねぇ!!」

 ……ちなみに、私は攻撃魔法はずぶの素人。

「なるほど、こういう発想もありますね……」

 イザベラが呪文を口走り始めた。

「馬鹿野郎、何をぶっ壊す気だ!?」

「おう、またぶっ壊されたのかよ!!」

 アリーナが入ってきた瞬間、イザベラの魔法が発動した。

 突き出されたイザベラの両手の平の先から、鉄球が勢いよく発射されてアリーナの腹にめり込んだ。

 そのままの勢いでアリーナはぶっ飛び、どっかに飛んでいった。

「あれ、偶然ですがボスを倒してしまいましたね」

「甘い、あの程度で倒されるようなら、ボスなんて呼ばれねぇよ。おい、抱きかかえろ。今のうちに、校庭に逃げるぞ。ここで、魔法をブチ込まれたらシャレにならん!!」

 イザベラが私を抱え、部屋を出た。

 しばらく進むと、背後からもの凄い足音がして、アリーナが凄まじい勢いで接近してきた。

「お、おい、チンタラ走ってんじゃねぇ。私諸共ぶっ殺されるぞ!?」

「では、迎撃を」

 イザベラの呪文とともに、廊下を埋め尽くす火炎の嵐が巻き起こった。

「よ、よし、今のうちだ!!」

「はい」

 私たちは、何とか校庭に逃げ切った。


「くるぞ、絶対来るぞ!!」

「でしょうね、すでに捕捉しています。使える魔法の中で、攻撃と名が付くものは全て叩き込まないと止められないでしょう」

 イザベラが表情を引き締め、アリーナが校舎から飛び出た瞬間に一斉射撃が始まった。

 笑みを浮かべながらアリーナが飛び来る何かを次々に避け、私たちに急速接近してきた。

「さすがです、避けるとは……」

「まあ、アリーナだからな!!」

 さてどうしたもんかと思っていると、アイリーンが校舎の出入り口に姿を見せた。

「先輩……おぶ!?」

 乱れ飛ぶ攻撃魔法のなんかを食らい、アイリーンは撃沈された。

「あら……」

「アイツ、なにしにきたんだ?」

「あっちより、こっちじゃないの?」

 笑みを浮かべたアリーナが、イザベラの前に立っていた。

 そして、私を掴んで持ち上げ、手に力を込めた。

「半分くらい、中身が……」

「ほら、先生がヤバいよ?」

 イザベラは素直に頭を下げた。

「ごめんなさい」

「よし、いえたな。ったく、いきなり鉄球って、どうせコイツが考えた魔法だろ?」

 アリーナがさらに手に力込めた。

「だ、ダメ、それ以上は……」

「いえ、相談したのは私ですし、握りつぶすなら私が筋かと」

 イザベラがポツッといった。

「……な、なんか、微妙にいい関係だな。洗ってやる!!」

「……多分、そうだと思ったぜ」

 アリーナはため息をつき校舎に戻った。


「いつの間にか、後輩に慕われるようになったか。変なのばっかりってが、気がかりだけどな!!」

 私を抱えて湯船に浸かり、アリーナが笑った。

「アリーナだって十分変だろ!!」

「私はいいんだよ。これは、変えようがないからな!!」

 アリーナは私を強く抱きしめた。

「なに怒ってるんだよ!!」

「怒ってねぇよ。沈めるぞ!!」

 アリーナの怒鳴り声に、私は苦笑した。

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