第66話 伝説の猫

 すぐにぶっ壊されるので、研究室の扉を結界で固めてみた。

 これで、問題ないはずだ。

 そう思っていたのだが……。

「うひゃひゃひゃ!!」

 ……例によって。

「ソイヤー!!」

 気合いの声と共に、扉がぶっ飛んだ。

「先輩、今のは試練ですか!!」

 飛び込んできたアイリーンが、なにか目を輝かせながらいった。

「と、扉ごとぶっ飛ばすとは……なんで、普通に開けないんだよ!!」

「はい、この研究室には、扉をぶっ壊せるヤツだけが入れると聞いています!!」

 アイリーンは元気に叫んだ。

「誰だよ、そんな事いったの!!」

「見習い課程では有名ですよ。扉をぶっ壊せる猛者だけが、伝説の猫に会えると!!」

 私は椅子から転げ落ちた。

「で、伝説の猫ってなんじゃい。私と会うのが、なんかクエストみたいになってるぞ!!」

「はい、なんかそれっぽいです。そして、そこに住まうボスが……」

 アリーナが笑みを浮かべて入ってきた。

「おう、ボスの登場だぞ!!」

「……まあ、ボスだな」

 これは、私も納得した。

「出た、ボス!!」

 アイリーンがなんかの構えをとった。

「……魔法使いは体が資本。私の場合、ちょっと筋肉に振ってしまいましたが」

「……ほう、やるか。私なんか、全部筋肉に振っちまったぞ。それでも、やるか?」

 アイリーンとアリーナの視線が火花を散らした。

「……研究室で暴れないで欲しいな。聞かないだろうけど」

 そして、アイリーンの拳がアリーナの顔面にめり込み、アリーナの拳がアイリーンの顔面にめり込んだ。

 そのまま両者ぶっ倒れ、動かなくなった。

「すっけ、アリーナ相手に互角だぜ。まあ、静かになったな……うひゃひゃひゃ!!」

 私はしばし、魔法の研究に没頭した。


「……あれ、まだ動かないぞ?」

 結構経った気がするが、二人とも倒れたまま動かなかった。

「……回復魔法でも使ってみよう」

 最上級クラスの回復魔法を掛けたら、二人ともズバッと立ち上がった。

「おう、やるじゃねぇか!!」

「さすが、ボス。一筋縄じゃいかない!!」

 アイリーンが呪文を唱え、その姿が五人になった。

「……また、妙な魔法を」

 アリーナの視線が鋭くなった。

「……見抜けないと思ってる?」

「こ、こら、マジになるな!!」

 アリーナは笑みを浮かべ、一人に向かって鋭い蹴りを放った。

 しかし、その蹴りはアイリーンの姿をすり抜けた。

「……なに」

 アリーナの顔に焦りが浮かんだ。

「どうだ、これなら分からないだろ!!」

 アイリーンが声を出した瞬間、アリーナの拳が本体の顔面にめり込んだ。

「……喋っちゃダメだろ。いつも、微妙に惜しいんだよな」

 モロにアリーナの拳を食らったアイリーンだったが、軽く頭を振って笑みを浮かべた。

「気合いなら負けない!!」

「……ほう、面白い」

 アリーナが笑みを浮かべ、あとは大乱闘になった。

「……研究室でやらないで欲しいな。なんでこう、ぶっ壊すヤツばっかくるんだよ!!」 結界で自分の身を守りながら、私はため息を吐いた。

 なお、これがきっかけで、アイリーンとアリーナが微妙に仲が良くなったらしい。

 拳は口ほどにものをいう。そういう事らしかった。

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