第65話 猫を尊敬する後輩
いつもアリーナばかりだが、いつの間にか私に接近してくる人間が出てきた。
その中でも見習い課程のアイリーンという女の子は、私に尊敬とかいう謎の念を抱いているらしく、なにか質問したいことがあれば聞いてくる。
まあ、それはそれで、楽しいものだった。
「うひゃひゃひゃ!!」
……研究、絶好調。
「先輩!!」
研究室の扉をぶち破り、アイリーンが突っ込んできた。
「なんでその扉、普通に開ける人がいないんだろう……」
「そんな事はどうでもいいです。ここが解けないと試験が!?」
ショートに切った髪の毛をバサバサ揺すり、アイリーンが教科書をみせた。
「……うん、ここね。大した事ないぜ」
アイリーンが持参してきたノートに、ズバババっと例題の解答を書いた。
「というわけで、こんなもんかみ砕いちまえばどうって事ねぇ!!」
「先輩だから出来るんです。もっと、馬鹿野郎でも分かるやり方で!!」
アイリーンの目が血走っていた。
「んだよ、面倒だな。しょうがねぇ、説明すっから聞いとけ!!」
「はい!!」
なにか、食われそうな目でアイリーンは私をみた。
「まずは力を抜け。覚えられないし、なにより食われそうで怖い」
「力の抜き方が分かりません!!」
私はため息を吐いた。
「……深呼吸でもすれば」
「深呼吸のやり方を忘れました!!」
……とまあ、アイリーンとはこういう馬鹿野郎だった。
「分かったか!!」
「分からない事が分かりました!!」
いっておくが、アイリーンは極めて真面目である。
そして、私もここまで馬鹿野郎だと熱くなる。
「おし、掛かってこい。もう一回説明するぞ。全部、平仮名で書いてあるレベルだ!!」
「はい!!」
アイリーンのノートにドバババと書き込みをして、この野郎とばかりに丁寧に説明を続けた。
「こんちくしょう、分かったか!!」
「はい、やっと分かりました!!」
ちなみに、アイリーンの顔は熱くなりすぎた私の爪痕がビッシリである。
「よし、爪痕を消すぞ!!」
「これでいいです。消したら忘れそうです。ありがとうございました!!」
アイリーンが部屋から飛び出ていった。
「ったく、あの馬鹿野郎は。手間掛けさせやがって……」
再びアイリーンが駆け込んできた。
「職員室で中間試験の問題をパクってきました。これで、問題ありません!!」
私の猫パンチがアイリーンに炸裂した。
「馬鹿野郎、これはカンニングだぞ。バッチリだがダメだ!!」
「固い事いわないで下さい。そろそろまともな成績を残さないとヤバいです!!」
アイリーンは私を掴んで、強く握った。
「な、中身が、中身が出ちゃう……」
「うんっていうまで放しません!!」
私は必死に頷いた。
アイリーンが手を放し、私に問題用紙を見せた。
「……んだよ、こんな簡単なのも分からねぇのかよ。まずは、このまま解いてみろ!!」
「はい!!」
アイリーンは必死に問題を解き始めた。
「出来ました!!」
「どれ!!」
私は解答をみて、アイリーンの顔に猫パンチをブチかました。
「馬鹿野郎、ほとんど間違ってる。こんなんじゃ話しにならねぇ。今までなにを学んだ!!」
「申し訳ありません!!」
私は正しい解答をアイリーンのノートに書いた。
「これだ、意味が分かるまで帰さねぇからな!!」
「はい!!」
……こうして、深夜までアイリーンの特訓は続いた。
「よし、これで問題ないだろう。この問題用紙は、破り捨てろ。今すぐ、ここで!!」
「はい!!」
アイリーンが問題用紙を細切れにして、ゴミ箱に捨てた。
「いっておくが不正行為だ。それに、荷担させたんだぞ。妙な点数取りやがったら、ブチ殺すからな。気合い入れてやる!!」
私はフルパワー爪入り猫パンチをアイリーンの顔面に叩き込んだ。
「どうだ、気合い入ったか!!」
「はい、バッチリです。ありがとうございました!!」
アイリーンが部屋から飛び出て行った。
「はぁ、疲れたぜ……もう、帰って寝よう」
「おう、なんか忙しくて、やっとだぜ!!」
アリーナがやってきた。
「……絶対くるのね」
「当たり前だろ。洗ってやる」
アリーナは私を風呂に連れ込んだ。
なお、アイリーンは解答欄を間違えた上、解答用紙に名前を書き忘れたため、彼女史上最悪の点数だった。
まあ、不正行為などするものではない。そういう事だった。
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