第64話 認められた猫
猫の魔法使い、魔法猫……呼び方は色々あるが、魔法書事件をきっかけに人間社会でも私の存在が認められるようになったらしい。
ただし、正統派からは大きく外れた、イカれた魔法使いとしてだが。
こうなると、津々浦々から変な魔法使いが、自分で開発した魔法の呪文を送ってきて、どうだこの野郎と自慢してくるようになったのだった。
「ほう、なんだこの魔法。すげぇウケる。全く役に立たねぇどころか、使うとマイナスにしかならねぇ!!」
手紙の山に包まれ、私はひたすら爆笑していた。
「こりゃ堪らん。なに考えてるんだよ。妙な野郎が、こんなにいやがったとはな!!」
ひたすら爆笑していると、研究室にアリーナがやってきた。
「なっ、やってみるもんだろ。もう、サーシャの事をまともなヤツだと思うヤツはいねぇけど、まともじゃないヤツは大喜びだぜ!!」
「……その辺りが微妙だぜ。完璧に変な魔法使いになっちまったぞ」
アリーナが笑みを浮かべた。
「猫の魔法使いって段階で珍しいんだからさ、変な魔法使いの方がいいだろ。気まぐれで効果が変わるとかよ!!」
アリーナの一声で、私にズドーンと何かがきた。
「それだ、何が起きるか分かったもんじゃねぇ、危ねぇ魔法を作るしかねぇ。コイツらの度肝を抜いてやるぜ!!」
「……しまった。エサを与えてしまった」
猛烈な勢いで呪文を組み始めた私に、アリーナがため息を吐いた。
「フフフ、出来たぜ。何だこの呪文、発音できるのか?」
「また、妙なもの作っちまったぞ。コイツは……」
アリーナが私を抱えた。
「洗ってやる」
「な、なんで……」
アリーナは私を風呂に連れ込んだ。
「よし、フレグランスにしてやろう」
「だからそれ、シャンプーじゃねぇ!?」
私を洗濯用洗剤で丁寧に洗い、もうどうにも鼻が死にそうな私は、アリーナに抱きかかえられて湯船に入った。
「ったく、また一文にもならねぇ魔法作りやがって。さすがだぜ!!」
「怒ってるのか褒めてるのか、はっきりしろ!!」
アリーナは笑みを浮かべ、私を湯船に沈めた。
「ゲホゲホゲホ!!」
呼吸が整わないうちに、アリーナはもう一度湯船に沈めた。
「ゲホゲホゲホ!!」
「ちっとはマシな事考えろ!!」
……怒っていたようだった。
風呂から出て研究室に戻ると、アリーナが扉の前で止まった。
「……侵入されてるぞ。鍵が壊されてる」
「え?」
アリーナはメイスを抜き、扉をそっと開けた。
「……誰もいないか。なんかパクっていったとか?」
「ここに、そんな重要なものはないけどな……」
一応調べてみると、さっき作ったばかりの何が起こるか分からない呪文の紙が消えていた。
「さっきの呪文の紙がパクられてる。それだけっぽいぞ」
「まあ、その程度ならいいか。よく考えろ。そんな魔法を公表したら、妙なヤツじゃなくて危ねぇ野郎になっちまうぞ。これでいいと思うぜ!!」
アリーナが笑みを浮かべた。
「……まあ、それもそうか。あーあ、せっかく考えたのに!!」
あたしは苦笑した。
数日後、アリーナが笑いながら研究室に入ってきた。
「あの呪文の紙をパクったヤツが自爆したぜ。なんも考えないで学会で発表したら、一気に危険視されて居場所がなくなっちまったらしい。だから、考えろっていっただろ!!」
「危ねぇぜ。ったく、これだから魔法はよ!!」
私は苦笑した。
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