第63話 有名になったっぽい猫

 なにか、うっかり魔法書まで出してしまい、よくいって奇抜な魔法使いとして、なにか妙に有名になってしまった。

 著名でお堅い魔法使いから毎日のように、剃刀の刃が入った手紙が届いてみたり、毎日のように業界紙の取材申し込みがきたり、私的にはとんでもない騒ぎになった。

 それから逃げるべく、私はずっと研究室に籠もっていた。

「……ニンゲンコワイ」

 ブツブツ呟きながら、私はいつも通り呪文をネチネチ作っていた。

 魔法を使って何重にも固めておいた扉がぶっ壊され、アリーナが入ってきた。

「おう、なに閉じこもってるんだよ!!」

「……」

 私はアリーナの体に飛びついた。

「……怖い」

「んだよ、ビビってんじゃねぇよ!!」

 アリーナは私を抱きかかえた。

「なんか臭いから洗ってやる」

「毛繕いはしてるよ。猫ってあんま臭わないぞ。ってか、これが本来の状態だぞ!?」

 アリーナは、私を抱えて部屋から出た。


「ったくよ、剃刀ジジイは始末しておくぜ。いい歳こいて、なにやってんだかな!!」

 湯船に浸かり、私の頭を撫でながらアリーナが笑った。

「……ここまで反響を呼ぶとは」

「私は予測してたぞ。あれのお陰で、どれだけ画期的な魔法が生まれたか知ってるか。分かってるだけでも、百や二百じゃないぞ。サーシャの発想って、それだけの力があるんだよ。人間にはまず無理だろうね」

 アリーナは私の頭を撫で続けた。

「……それはなにより」

「そういうこった。頭が凝り固まったジジイには受け入れられないだろうけど、若い魔法使いは大喜びだぜ。そりゃ、一躍時の人……いや、猫か!!」

 私はため息を吐いた。

「……目立つの苦手なんだけどな」

「私が許さん、これを広めないでどうする。魔法なんて停滞期で、みんななんか新しいのが欲しい時に、サーシャの妙な発想は重要だったんだよ。これで、時代が動くぜ!!」

 アリーナが笑みを浮かべた。

「……まあ、いいけどね。役立ってるなら」

「おう、バッチリだ!!」

 アリーナは私を抱えて湯船からでた。


 アリーナに抱えられて久々に寮の部屋に戻り、お馴染みの剃刀レターはさっさと捨てて、特に目立った手紙もなかったので、アリーナはそのままベッドに座った。

「なに、目立っちまったのが嫌なのか?」

 アリーナが笑みを浮かべた。

「……いいわけないだろ。私の性格知ってるくせに」

 私はため息を吐いた。

「猫が認められたんだぞ、それでもか?」

「……そう思えばいいけど」

 アリーナは私を抱きしめた。

「いいことだろ、文句あるか?」

「……ない」

 アリーナは笑って、私をベッドに置いた。

「ちゃんとここで寝る事。分かった?」

「……分かった」

 アリーナは笑みを浮かべ、私を撫でた。

「ダメだぜ、隠し持ったり、籠もっちまったら!!」

「……うん」

 私は息を吐いた。

「まあ、魔法使いっていわなくても、誰でもそう思うくらいにはなったかね。そのくらいじゃないと。誰も認めないぜ!!」

 アリーナは笑った。

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