第62話 魔法書を出す猫

 あくまでも、非常事態の話。

 私の本分はあくまでも魔法使いであり、魔法研究が好きな猫である。

 まあ、ロクな魔法を作っていないが、たまに大ヒットを飛ばしてしまうこともあった。

「……な、なんで、こんな魔法が」

 魔法使いの嗜みとして、定期購読している学会誌に、デカデカと私が作った魔法が取り上げられてしまった。

 それだけでは使い物にならないが、応用でとんでもないものを開発した馬鹿野郎がいたそうで、巻き添えでその大元を作った私まで取り上げられてしまったのだ。

「よう、天才猫!!」

 アリーナがニマニマ笑いながら、研究室に入ってきた。

「……天災の間違いだろ。な、なんで、こんなもんが!?」

「おう、魔法じゃよくあるぜ。人の魔法をみてインスピレーションがドカーンってな。この発想が、もはや人間じゃないってね。当たり前だ、最初から猫だ!!」

 アリーナが笑った。

「また、目立ってしまった。こんな、どうでもいい魔法で。逆に困るぞ!!」

 私はため息を吐いた。

「目立っておけよ。魔法使いやってるなら、名が売れて損はねぇぞ。そろそろ、本でも書いたらどうだ?」

 アリーナが笑みを浮かべた。

「……本ってなに書くんだよ?」

「そうだな、今の時代だったら、自分のココロと向き合いませんか? とか?」

「……魔法じゃねぇよ。違うジャンルだ!!」

 アリーナは私を抱きかかえた。

「普通に魔法書でも書けばいいだろ。当たれば金になるぜ!!」

「……魔法書って定価高いからね。誰が猫の本なんて買うんだよ……」

 アリーナは私を撫でた。

「私のツテでただで出してやる。売れたらがっぽりだぜ!!」

「……どうしても書けと。妙な魔法しかねぇよ」

 結局、無理やり書くハメになった。


「妙な魔法っていっても、ヤバいのは出せないしな」

 魔法筆記でせっせと原稿を書きながら、私は唸っていた。

「……私の最高傑作。結界で囲んで、回復魔法でタコ殴りにするとか入れておこう。笑えるから」

 そんな調子でガリガリ原稿を書いていき、元々こういうのは得意な方なので、一晩であっという間に書き上げた。

「よし、出来たぜ!!」

 一息吐くと、アリーナがやってきた。

「先生、出来たか!!」

「……先生はやめて」

 アリーナは私が書き上げた原稿をサササッとチェックし、一つ頷いた。

「ヤバい魔法はねぇな。これで持ってくぜ!!」

 アリーナは研究室から出ていった。

「まあ、誰も高い金だして買わねぇよ。どこの馬鹿野郎だ!!」

 私は一人笑った。


「……じゅ、重版!?」

「おう、バカみたいに売れてるぜ。この発想はなかったってよ。金持ちじゃねぇか!!」

 アリーナは私を抱えた。

「記念に丁寧に洗ってやる」

「どっかで絶対に洗うよな……」

 アリーナは私を風呂に連れていた。

「よく分からないけど、フレグランスシャンプーとかいうの手にい入れたから、フレグランスにしてやる」

「馬鹿野郎、それ多分シャンプーじゃなくて衣類洗剤だ!?」

 アリーナはフレグランスな野郎をたっぷり私に掛けた。

「泡立ちがいいじゃねぇか!!」

「こ、この香りは、猫にはツラい。鼻が痛い!!」

 たっぷりフレグランスに包まれた私は、アリーナに抱えられて湯船に浸かった。

「……フレグランスがキツいぜ。鼻が利かん!!」

「いい香りじゃねぇか。なんか、洗濯物みてぇだけど!!」

 アリーナに抱えられて湯船に浸かっていると、アリーナが小さく笑った。

「魔法はそのものじゃなくて発想だろ。これで、サーシャの名前もちょっとは売れただろ」

「……売れなくていいけどね」

 アリーナは私の頭を撫でた。

「ちょっとは欲を持て。まあ、そういうのないから、サーシャはいいんだけどね」

 アリーナが笑みを浮かべた。

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