第55話 解決した?

 まあ、どう考えてもヤバかった。

 下手な事をするとなにをやってくるか分からなかったので、私は大人しく様子をみていた。

 今回はアリーナに期待できないので、自力でやるしかない状況だった。

「おはようございます。意外と大人しくして頂いたので、正直驚きました。結界の解除くらいは試みると思っていたのですが」

 朝になってマリーが起きると、私が入っているゲージをみて笑みを浮かべた。

「……やればやれたかもしれないけど、絶対気がつかれるから」

「あら、慎重ですね。いいことです。この状況で動いたら、バカといわれても仕方ないでしょう。そういうところは、大事な事ですよ」

 マリーは笑ってベッドから下りた。

「なにか買ってきましょう。まさか、購買の猫缶を自分で買う日が来るとは思いませんでしたよ」

 マリーは部屋から出ていった。

「……あからさまな振りだよね。絶対、なんかあるな」

 私はあえて何もしないでじっとしていた。

 しばらくしてマリーが帰ってくると、笑みを浮かべた。

「冷静ですね。私がいない時にその結界を弄ると、ちょっと痛い思いをさせてしまう事になったのですが、まあ、こんな結界もあるということで。使い方次第で、色々できますよ」

 猫缶の中身を皿に空け、ゲージに入れると小さく笑った。

「食欲はないかもしれませんが、どうぞ。私は魔法研究をしていますので。研究室は資料が詰まっていて、とても使える状態ではないのです」

 マリーが机に向かって、なにか始めた。

 ……結界にちょっとでもなにかすれば気がつくし、基本的には在室か。

 一見すると厳しいが、魔法封じの結界には弱点がある。

 結界より強い魔力でゴリ押しすれば、ぶっ壊す事が可能なのだ。

「……もっとも、普通の魔法封じならね」

 私はそっと呟いた。


 マリーは基本的に部屋から出ないようだった。

 何やら熱心に研究しているようで、時々気分転換に声を掛けてくる程度だった。

 さて、どうしたもんかなと思っていると、マリーがふと机から顔を上げた。

「やはり、きましたか」

 マリーが椅子から立ち上がった。

「こんな事をした事自体がバカなのですよ。あなたの身分は分かっています。ただでは済まないでしょうね。それでも、どんな術者か知りたかったのです。なかなか優秀ですよ」

 マリーは笑みを浮かべ、ゲージに近づいてきた。

「ただお返しするのも癪なので、一つ仕掛けをしておきましょう」

 マリーが呪文を唱え始めた時、天井版を蹴り破ってアリーナが降ってきた。

 着地と同時にマリーを体当たりで突き飛ばした。

「……やってくれたね。罪状は分かってるよね?」

 アリーナがマリーを睨んでいった。

「……もちろん。ああ、そのケージの結界には用心してくださいね」

「……あんた相手に、私が一人でくると思う?」

 アリーナは笑みを浮かべた。

 部屋の入り口が開き、ひげもじゃオジサンが入ってきた。

「こら、面倒な遊びをするんじゃない。全く、仕事が増えてしまったぞ」

 ぶつくさいいながら、ひげもじゃオジサンはケージの前にきた。

「……ふん、いい格好じゃな」

 ひげもじゃオジサンがニヤッと笑みを浮かべた瞬間、その顔面にアリーナの拳がめり込んだ。

「……それをいっていいのは、私だけだ」

「おい、遊んでるんじゃねぇ!!」

 ひげもじゃオジサンは改めてケージをみた。

「まあ、確かに面倒な結界ではあるが、これで十分だ。どりゃああああ!!」

 ひげもじゃオジサンの気合いの声と共に、結界がバラバラになって崩壊した。

「……へっ?」

 マリーが変な声を出した。

「まあ、よく出来てるが所詮は学生レベルだな。この程度、呪文も魔力もいらん。気合いだけで壊せるぞ」

「き、気合い!?」

 マリーが床に崩れた。

「うん、まあ、いい術者だ。よし、ワシの助手にしよう。人手が足りなくてな!!」

 ひげもじゃオジサンは、マリーを強引に立たせて部屋から連れ出した。

「こ、こら、それ重罪人じゃ。まて、コラ!!」

 アリーナが慌てて追いかけて行った。

「……あの、誰かゲージから出して」

 結局、最後まで私が動かなかったのはこれが理由だった。

 残念ながら、手持ちの魔法はほとんど回復魔法と結界魔法のため、こういう用途に向いた魔法が一個もなかったのだ。

「……気合いか、やってみよう。どりゃああああ!!」

 ……部屋に虚しく声が響いただけだった。

「……もういい、誰かくるまで大人しくしてる」

 私はため息を吐いた。

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