第54話 ちょっとヤバい

 結界のスペシャリストらしいマリーに、一方的に勝負を挑まれて動けない私だったが、油断しているところに同じ結界を丸々コピーして仕掛け、一矢報いてやった。

 さっさと自分の結界を解除してやりたいところだが、確かに腕はいいようでお遊びレベルと自分でいう結界ですら、なかなかのものだった。

 丸々コピーといったが、それではすぐに解除されてしまうので、もちろん私のオリジナル要素も入れてある。

 喧嘩といえば喧嘩だが、見た目は穏やかなものだった。

 しばらく、お互いに動けない状態が続いたが、やがてマリーがため息を吐いた。

「いや、ビックリしました。自分が受けた結界魔法をコピーするどころか、オリジナルに変えて無詠唱発動などと高度な技を使うとは。この冷静さと機転が、魔法使いには大切なことなのです。腕は自ずと身につくものです」

 マリーは笑みを浮かべ、呪文を唱えた。

 私の全身が光り、矢のようになってマリーに突き刺さった。

「は、反射結界……いつの間に。次の手を読んでいましたか……魔法を封じたらどうなるかなと思ったのですが、自分の魔法で自分が封じられてしまいましたね。自分でいうのもなんですが、私に結界を仕掛けるのは大変なはずです。なのに、二度もやられてしまいましたね。私もまだ甘いです」

 マリーは苦笑して、呪文を唱えた。

「ビックリさせる程度の弱い結界です。解除呪文で解けるレベルですよ。なるほど、上から目線でいってしまいますが、気に入りましたよ」

 マリーは笑みを浮かべ、私をベッドから抱き上げた。

 すぐ脇にあった魔力光を放つゲージの前にくると、呪文を唱えた。

 体が動くようになった瞬間、マリーは私をゲージに入れて蓋を閉めた。

「心配しないで下さい。どう扱っていいか分からないだけです。そのゲージに張ってあるのは魔法を封じるだけなので、体には問題ありません」

 マリーは笑みを浮かべた。

「……私をどうしようと?」

「どうもしません。手元に置いておきたくなっただけです。優れた結界術士は少ないもので、嬉しくなってしまいまして。どうしますか、語弊はありますが飼い猫とでもしておきますか?」

 マリーは小さく笑った。


 私的にはなかなかヤバい感じではあるが、マリーは机に向かって魔法の研究をしていた。

「下らないといえば、下らない魔法ばかりですよ。その中から、たまに当たりがあるかなという程度です」

 マリーがこっちを見て笑みを浮かべた。

「……魔法ってそういうものかと」

 私はため息を吐いた。

「そんなに悲嘆しないで下さい。こうやって、研究中の愚痴話にでも付き合って頂ければ。たまに、技術的な事で相談するかもしれません。そういう相手が欲しかったのですよ」

 マリーは笑った。

 多分、悪い人ではないがこの状況は怖い。

 そうじゃなくても、アリーナ以外は苦手なのだ。

「さて、昨日は徹夜してしまったので、今日はそろそろ切り上げますか。お休みなさい」 部屋の明かりが落とされ、マリーがベッドに入る音が聞こえた。

「……これ、ヤバいよね。どうしたもんか」

 私はポソッと呟いて、ため息を吐いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る