第52話 卒業後

 この学校式ではあるが、なにが評価されたのか私は過去最短記録で卒業した。

 この瞬間、公的には恐らく初であろう猫の魔法使いが誕生したのだ。

 もう、どこにいっても魔法使いだといえるのだが、私は研究者として学校に残る事を選択した。

 さらなる高みの高等科も考えたが、求められるものが多く好きに魔法研究する時間が取れなくなる事と、何となく柄じゃないという理由で取りやめたのだった。

「うひゃひゃひゃ!!」

 ……研究、ノリノリ。

「こ、これさえ出来れば、擦り傷一つ治せない、ある意味究極の回復魔法が。うひゃひゃひゃ!!」

 ……しかし、役立たず。

「……さすがに止めるぞ。なにしてんの?」

 いつきたのか、アリーナが私を掴んで持ち上げた。

「……あ、あれ、私はなにを?」

「ったく、妙な魔法を増やすんじゃない」

 アリーナは私を床に置いた。

「おかしい、究極の回復魔法って何だろうからスタートして、あとの記憶がない……」

「ああ、よくある系の暴走マッド魔法使いか。戻るだけマシだな」

 アリーナは私を抱えた。

「いい物が出来た。勝負しようぜ!!」

「なんの勝負だよ……」

 アリーナに抱えられ、私は校舎の中を移動した。


「……あの?」

 広い部屋の床に撃ち込まれた鉄杭に縛り付けられた私は、大変困っていた。

「おう、改良型七十五ミリ長砲身高出力魔力砲だ。一発味わっておけ!!」

 アリーナの目には、そこはかとなく狂気が宿っていた。

「……お前も、マッディな野郎になったな」

 私は呪文を唱え、最大級の結界を張った。

「……その結界をぶっ壊すのが夢なんだよ。照準は合わせてある。あとは撃つだけだ!!」

 アリーナが手に持った箱のようなものを弄ると、極悪そうな魔力砲の砲口に光が宿った。

「ファイア!!」

 猛烈な発射音と閃光が室内に走り、放たれた光弾は私のことさら尖るらしい鼻の辺りの結界に突き刺さり、大爆発を起こした。

 爆風で室内がメチャメチャになり、それどころか壁がぶっ壊れて開いた穴から、私は抜けた鉄杭ごと校庭方面に吹っ飛んだ。

「……そりゃ、あんなもん屋内で撃ったらこうなるよね。どこまで飛ぶかな」

 結局、校庭の外柵に鉄杭が突き刺さり、宙ぶらりんのまま私は止まった。

「……まあ、まだマシか。このまま場外まで飛ばされたら、どうしていいか分からん」

 多分、死ぬほど怒られているのだろう。

 こういうときに、すぐに駆けつけてくるアリーナは、なかなかこなかった。

「なにやってんだよ。全く……」

 暇だなぁとしばらくボンヤリしていると、校舎から一人歩いてきた。

「……アリーナじゃない」

 瞬間的に警戒モードに入った。

 近づいてくると、どこかで見覚えのある人だった。

「えっと……結界のスペシャリストだっけ?」

 うろ覚えの名前はマリーだった。

「これはどうも、お久しぶりですね」

 私の結界をあっさり解いて、マリーは笑みを浮かべた。

「ご卒業されたという話は伺っています。それを機に、一勝負お願いしたいと思いまして。ここでは何ですので……ちょうどいいといっては何ですが、お連れするのにちょうどいい状態ですので」

 マリーは小さく笑い、鉄杭を柵から引っこ抜いて、そのまま私を校舎に連れていった。

 やはり、アリーナ以外の人間は苦手な私だった。

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