第51話 卒業は突然に
ようやく、まともな冬になった二月。
この学校は、みんなで揃って卒業という事はない。
一般課程で十分学んだと判定された段階で、個別に卒業証書を渡される事になっていて、この時点をもって正式に卒業とされる。
しかし、卒業してもそのまま魔法の研究を続ける者が多く、試験に合格すれば高等科という化け物揃いの課程に進む事も可能だった。
「……あれ、今日は何曜日だっけ?」
つい徹夜しまくったせいで、私の曜日感覚は完全にずれていた。
「……っていうか、寝たの何日ぶりだ。寝ない猫ってなに?」
私はベッドの上で伸びをした。
「おう、一週間も研究室に籠もりやがって。なに、怪しい魔法開発してたんだ?」
アリーナが部屋に入ってきた。
「……い、一週間!?」
「おう、うっかり死んだかと思って何回もみにいったぞ。そしたら、気色悪い声を上げながら、なんかやってたから、みなかった事にしてやったぞ!!」
「……それは忘れろ。ってか、私そういうタイプの魔法使いなの?」
……よくいるマッド系な魔法使い。
「うん、よくいる系だから問題ねぇ。そういう私も機械を作りはじめると、奇声を上げながら踊るらしいからな。これも、よくいる系だから問題ねぇ!!」
「……どっちもまともじゃない系だな」
なんてやってたら、ひげもじゃオジサンが入ってきた。
「おお、二人いたか。卒業証書だ。サーシャ君は完璧だな。それで、アリーナ君はサーシャ君とセットにしないと、バカになる上に暴れた挙げ句、機能停止して邪魔になると聞いてな。二人揃って卒業だな。あとの進路は、ゆっくり考えるといい」
ひげもじゃオジサンは、卒業証書を二枚ベッドに置いて、部屋から出ていた。
「……ちょっと待て。またサーシャとセットかよ。しかも、バカになる上に暴れた挙げ句、機能停止して邪魔になるだと。ちょっと、アイツと話してくる」
アリーナはメイスを抜き、鋭い目つきでひげもじゃオジサンを追った。
「……そ、卒業しちまったの?」
私はベッドの上の卒業証書をみた。
「間違いないな。卒業しちまったぞ。猫がこの学校をね……」
私は窓の外を見て、笑みを浮かべた。
「あの野郎、どっかに逃げやがった!!」
しばらくして部屋に戻ってきたアリーナが、私を掴んで持ち上げた。
「……な、なんでしょう?」
「……なに、サーシャとセットじゃないとバカになるって。セットでも、バカなんだけど?」 アリーナは私を睨んだ。
「そ、そこで、キレてたのかよ!?」
「当たり前だ。どうしようもねぇだろ、これ。どうやったって、私はバカなんだよ。いちいち突きやがって!!」
私は引きつった笑みを浮かべた。
「い、いいじゃねぇかよ。揃って卒業なんだからよ……」
「卒業に値する実績がねぇよ。それなのに、サーシャが卒業だからって卒業ってどうだよ!?」
私は必死に記憶を辿った。
「……あっ、技師一級持ってるじゃん。あれ、立派な卒業要素だぞ。あれ取れちゃったら、もう学校で学ぶことないぜ!!」
アリーナがキョトンとした。
「あれ、そうなんだ。でも、サーシャとセットって、なんかあるといわれるぞ。いちいち、ムカつくぜ!!」
私は笑った。
「飼い主かなんかだと思われてるんだろ。いいじゃないの」
「ますますよくねぇ。飼い主じゃねぇよ!!」
アリーナは私を握っていた手に力を入れた。
「……な、中身が、出る」
「あああ、何にしてもムカつく!!」
アリーナはさらに手に力を入れた。
「……ま、マジ。出る」
……猫の体は柔らかいので、大事に扱いましょう。
お腹撫でてアピールも要注意です。
うっかり、ガシガシやらないでね。お願い。
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