第50話 ちゃんと冬に直す

 どっかの馬鹿野郎が暴発させた猛吹雪を抑えるために、最終的に二月なのに真夏になってしまった。

 唱えたのはアリーナだが、呪文を作ったのは私だ。

 つまり、私も立派な馬鹿野郎だった。

「……暑い。天然物より暑い」

 寮の部屋で私はバテていた。

 空調機を慌てて冷房に設定し直したようだが、急な運転切り替えについていけずにぶっ壊れたようで微妙な冷風しか出ず、魔法事故に備えてはめ殺しの窓ガラスは開ける事もできず、寮に限らずどこもかしこも蒸し風呂のような有様になっていた。

「おう、なにバテてるんだよ!!」

 こんな環境など物ともしないアリーナが部屋に入ってきた。

「猫がバテるって、どんな暑さだよ。そして、バテないお前はなんだよ!!」

「気合いが足りねぇんだよ。でも、気持悪いから冬に戻せ!!」

 アリーナが私を抱えた。

「……ムチャいうな。気象操作魔法なんて、慣れてねぇから何が起きるか分からんぞ!!」

 実際、慣れてないから真夏になった。

「サーシャなら何とかする。そういうヤツだぜ!!」

「過大評価です……」

 アリーナは私を抱えて部屋を出た。


「許可は取ったってか、何とかしろって依頼がきた。サーシャご指名で!!」

 校庭に出ると、私を熱い地面に置いたアリーナが一枚の紙を見せた。

「なんで私なんだよ。意地でも何とかしろってか……」

 私はため息を吐き、校庭を眺めた。

「中途半端な気合いだから失敗するんだよ。いくぜ!!」

 私は呪文を唱えた。

 全身からど派手な魔力光がほとばしり、蕩けそうだった気温が骨まで凍り付きそうな気温に変わった。

 いきなり大雪が降り始め、気温の低下が止まらなかった。

「サーシャ、気合い入れすぎて気温が……」

 校舎が完全に凍り付き、外に置いてある気温計が爆発するようにぶっ壊れた。

「……これを調整しなきゃならんのか」

 私はひたすら呪文を唱えた。

 なぜか、真夏か極寒にしかならない状況に手を焼いているうちに、極端な温度変化に耐え切れなくなったあらゆる物がぶっ壊れ始めた。

「サーシャ、暴れるな!!」

 アリーナが慌てた。

「暴れてねぇよ。呪文が暴れてるんだよ!!」

 すったもんだした挙げ句、ようやく落ち着いた頃には、甚大な被害が出ていた。

「……これ、私が弁償するの?」

 アリーナが真顔になった。

「……任せろ。もみ消す」

 アリーナが校舎に入っていった。

 私は適当に雪が降る校庭をみて思った。

 持つべきものは、友かもしれないと。

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